表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

29(どうにもなるもんか)

 美香子の姿を認めると、良子は裸足のまま駆け出し、膝を突くとカナミもろとも全身で抱きしめた。「良かった」

「しーちゃん、」姪の言葉は胸の中でくぐもった。

 草と泥と、汗の匂いを姪から感じて、やっと安心できた。美香子を実感できた。身体を離し、そのむき出しの手足が汚れているのに気がついた。「ケガはない? 大丈夫?」ブラウスを脱いで頬についた汚れを拭ってやった。「痛いところはない?」

「大丈夫だよ」

 姪はそう云ったが、かたわらに麦わら帽子とサマードレスがあるのを見て、胸をぎゅっと掴まれるのを感じた。

「ミカ、ごめん」

 姪の目を真っ直ぐ見つめ、良子は云った。「悪かった。あたしは別にあんたがかわいそうとか思わない。思いたくない。かわいそうが知りたければテレビを見ればいい。新聞を読めばいい」

「それでどうなるの」姪は困惑気味に訊いてきた。

「どうにもなるもんか」良子は続けた。「テレビも新聞も全部向こう側の話だ。でも、あたしにとってあんたは違う。こっち側だ」

「よく分かんないよ」

「姉さんも義兄さんも勝手だと思う、最低だと思う」

 でも、と云いにくそうに美香子は云った。「でも、わたしのお父さんとお母さんは、」

「だからだ。親じゃなければよかったのに」

「それは……イヤ」

「そうだね。イヤなことだ。だからってあんたがかわいそうになるわけじゃない」

「よく分かんないよ」

「自己憐憫は毒なんだ。毒ってのは気持ちいいものでね、だから毒なんだけど」

「う、うん?」

 姪は明らかに当惑していたが、構うものか。

「あたしは中毒になりかけてた」再び姪を抱きしめた。強く抱きしめた。「ミカ。あたしはあんたを連れて帰りたい」

「しーちゃん、」

「同じように──ミカ、ちょっと辛いこと云うよ、カナミはカナミの帰るところがある」

「知ってるよ」

 当然とばかりにするりと云われて、呆気にとられた。身体を離すと、美香子はほら、と指さした。すっかり暗くなった空一面を覆うように、瞬く光の球が数多と浮いていた。

「カナミのお迎えだよね」

「なんじゃこりゃー……」岸辺がよろりと立ち上がった。良子と美香子も立ち上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ