24(楽しくやってますよ)
脱いだTシャツに鼻を近づける。汗臭くないかな。大丈夫かな。シャワー浴びたがいいかな。せっかくのドレスを汚したくなかった。
しーちゃんからのプレゼント。はた、と気が付いた。どうしよう。背中が大きく開いてて、これじゃ下着が見えちゃう。こう云うのを着るときってどんな下着なの? つけないの?
美香子は泣きたくなった。せっかくのドレスが着られない。このドレスを着たらしーちゃんはすごく喜んでくれる。増田さんも喜んでくれる。そんな自分を見てもらえるのが何よりも嬉しい。なのにドレスが着られない。着るのがもったいないと思った自分が腹立たしかった。今、自分はすごくこのドレスが着たい。ものすごく着たいのに、どう着ればいいのか分からない。
しゃがみ込んでドレスを手にして途方に暮れていると、ころっとカナミが転がってきた。そっとてっぺんに触れてみて、またどこへ連れて行ってくれるんじゃないかと期待している自分に気が付いた。
電話が鳴った。叔母の応対する声がした。
なんだ。美香子は当たり前のことに思い当らなかった自分をおかしく思った。しーちゃんに訊けばいいんだ。しーちゃんならこの素敵なドレスの着かたを知っている。
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はいはいどちらさんで。……どうしたの。いや別に。珍しいなと思って。お昼休み? ミカに代わるね。いいって、何が? なんなの? いや、変わりないよ、こっちは。どうしたの、なんか──なんか変だよ、姉さん。いや、お願いされなくても、楽しくやってますよ。はい? ちょっと待ってよ。切らないで、今日、何の日か分かってるよね!?
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「変な顔してますよ」
増田の言葉に、両手を頬に宛てぐにぐにしながら座った。「姉さんだった」




