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23(電話)

 美香子はサマードレスとカナミを抱えて着替えるために居間を後にした。じわじわとセミの鳴き声が家の中を通り抜ける。良子はちゃぶ台に肘を突き、庭を見遣る。陽射しが生垣の緑を弾く。スコンと晴れ渡った青空。ぽっこり浮かぶ雲。ぐぅ、と増田の腹が鳴った。良子のお腹もぐぅと鳴る。

「あの子に間違ったことはしてないと思うんだけど、実際のところはどうなんだろう」ひとりごとのように良子は口を開いた。増田は黙って聞いていた。「あれにしたって正直、怖い。地球外ならそれこそ宇宙開発事業団でも三菱でも石川島播磨でも引き取ってくれるところはあるだろうさ。けど、あれと引き離すのはあの子にとって良くないって思った。でも、ダメって云ったらあの子、いっときは残念な顔をするだろうけど、誰を恨むでもなく、素直に受け入れちゃうじゃないかなって」

「駄々こねて欲しいんですか」

「たぶんね」

「難儀ですね」

「そうさな」溜息がこぼれた。「どう思っているんだろうな」

「ぼくは十三歳の女の子だったことはなかったもので」

「少しはこうしたいとか希望はあるだろうけど、ミカが何も 云ってこないんじゃ、あたしだってどうしていいか分かんない」

「そばにいることが一番だってことも」

「そりゃ、きちんとした関係のあることが前提だろ」

「直接、訊けばいいだけのことです」

 良子はずるずるとちゃぶ台に突っ伏した。「何をさ? あの子はあるがままを受け入れるんだよ。そもそもあたしは信頼されてるのかどうかさえ自信がない」

 増田が頭をぽんぽんと優しく叩いた。「らしくないですよ。最後のスケバンと呼ばれ下級生を恐れおののかせたひとが」

「やめれ」しかし良子は、されるがまま、増田の手を払ったりしなかった。

「確かにミカちゃんは年の割りにしっかりしてます」

「それって残酷だよな。やっぱあの子には甘えて欲しいし、甘えられたい」顎を突いて顔を上げる。「むしろあたしが子供っぽいな」

「勝手に大人になっちゃったんですから子供気分が抜けてなくてもいいんでないかと」

「それとこれとは違うだろ」再び顔を横にし、片頬を天板にひっつけ、溜息。「姉さんも義兄さんも勝手なんだから……」

「もしかして先輩、ミカちゃんのこと引き取るつもりなんですか?」

 のろのろと視線を増田に向ける。電話が鳴った。

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