22(ひとつになること)
「ポッド型異星人? 輸送種族?」良子は指先でグラスの底から水路の落書きをしながら、「生体モジュール? 寄生型?」
「生物か機械なのか分からないんですけど」
増田の言に、良子は落書きをする指を止めた。「繁殖が生物の定義なら学習プログラムと改良生産のできるドローンだってそれに当てはまるだろ。バクテリオファージみたいに」
「侵略ポッド?」
「どうかな」由緒正しい三本脚でない。ブラウスの裾で濡れた指先を拭った。
「誘拐ポッド?」
図らずも乾いた笑いが漏れた。「アブダクション?」良子は後ろ手を突いて身体を反らし、天井を仰ぎ見る。「普通、水準の低い惑星への干渉はやめましょう的なものだと思うけどなぁ」顔を戻し、「少なくともあたしならちょっかい出すよりガラパゴスもしくはマダガスカルにする」
「そうかもしれませんね」増田は同意する。「でも人類だって一枚岩じゃないですよね?」
「人類ってひとつになる必要あると思う?」
「争いがなくなるのはいいと思いますよ」
「まぁ賛同はするけど現実問題ありえない」
「努力はすべきだと思います」
「無理だと思うよ」云って、違うな、と否定した。「ひとつになりようがない。バラバラでいいんよ。もともとそうなんよ。人種、民族、村単位。それで互いに不可侵と折衷したルールを守れるなら充分っしょ」
美香子が首を傾げた。「それってひとつになることじゃないの?」
姪の言葉に良子は「あ──……」抜けた声を出した。「そうだね」濡れたグラスを手に取り、「ごもっとも」少し温くなった麦茶を飲んだ。「育てるより奪うがいいと思う輩はよってたかってタコ殴りにしてやればまぁいいんでないかなぁ?」
「相変わらず過激ですね」呆れ気味に、増田が芝居がかった仕草で両手を挙げる。
「あたしは青いと思うけど?」
「とりあえず、どうしますか」
「ん──……、」姪を見た。心なしカナミを抱きしめる腕に力を込めたように感じた。だが云わねばならない。「それはここに居るべきじゃない」悲しそうな目をした姪に胸が痛む。「だけど、あたしたちでどうすることもできない。たぶんね、迎えが来ると思う」
「何故?」増田が問う。
「一体だけってことはないっしょ。仲間がいる、もしくは本来の持ち主がいる。違う?」
なるほど、と増田は納得した。
「だから、それまではおもてなしするのにあたしは吝かでない。さてと、」良子は努めて明るく云った。「今日の主役は誰だっけ?」




