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2(寝なさい)

 今夜中にやっつけるから。

 にこっと叔母は笑った。大丈夫だって。宿題、今日の分終わってるんでしょ? ホラホラ、歯ァ磨いた? ちゃっちゃと寝なさい。

 子供じゃないんだから。

 美香子が口答えすると、叔母はにゃははっといつも以上に陽気に笑った。ごめんごめん。

 おやすみなさい。

 はいよ、おやすみ。

 叔母が仕事部屋に篭るのを見て、美香子も自分の部屋に引っ込んだ。敷いたお布団。天井からぶら下がる電気のスイッチ紐。横になってから明かりを消せるよう、叔母が荷造り用のビニール紐を結んでくれた。

 美香子はタオルケットをお腹にかけ、カチカチと紐を引っ張り、暗くした。窓越しにエアコンの音と虫の鳴き声。廊下を挟んだ叔母の仕事部屋からカチャカチャとパソコンを使う音がする。しーちゃんはインターネットとかデザインとか、なんだか色んなことをしている。それについてなんとなしに訊ねると、ウーンと唸って、「なんだろうなぁ」訊いてるのはこっちなのに。

「案件ごとに肩書き変わるからはっきりしないんだよ」少し恥ずかしげに続けた。「たいてい片手間だし。だから明言したり名乗ったりするの、恥ずかしいんよ」

 はっきりしない叔母の返答は、美香子を当惑させた。「分かんないよね」叔母は笑った。「あたしも分かんない。もう何でも屋でいいかなーって思う」

 そんな大人もいるんだ。美香子には不思議でならない。「苦労も多いけどね」とは云うけれども。父も母も自分の仕事を語らない。それは、はっきりきっぱり毅然とし、拒絶にも似た態度。スーツを着てネクタイを締め、ブリーフケースを持って出かける姿は目つきさえ険しい。一方で、叔母は日を追うごとに髪はぼさぼさ、シャツはよれよれ。丈の短いタンクトップにショーツ姿のまま台所でインスタントコーヒーを作ってたのを見たときはかける言葉を失った。いくら隣家が離れているとはいえ垣根は低いし窓も開いてる。かてて加えて、お尻を掻いて、鼻歌混じりに身体を揺らし、「ポウッ」なんの合いの手だ。

 しーちゃんは変だ。

 天井を見遣る。薄ぼんやりと見える木目は波紋のよう。この家はいつから建っているんだろう。母が育った家、と云う事実はいつも胸に不思議な感覚を呼んだ。叔母に母の昔の写真を見せてもらった。中学校の卒業式。賞状筒を手にしたセーラー服姿。玄関先で撮られたそれは全くもって普通の写真。なのにどこか、何かが違う。ここに写されているものは映画やドラマと変わらない。そう思った。作り物なんだ。

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