16(サイダーにする?)
「十時だ」良子は宣言した。「それまでに雨が上がらなかったら寝る」
スイカを食べながら増田と一緒にテレビを見ていた美香子が、種をぷっと上品に皿の上へ出した。良子はよいせっと隣に座り、切り分けられたスイカのひとつを手に取った。「曇ってちゃ観測も無理っしょ。で、三時に起きて、状況の改善が見られれば決行」
どうよ、と姪を見遣れば、しゃくしゃくと大人しくスイカを食べていた。いっときより雨音は小さくなっているが、テレビによれば夜半まで傘マーク。すでに姪は諦めているのだと思った。天気ばかりはどうにもできない。手土産のスイカは、その瑞々しい赤とは裏腹にそれほど甘く思えなかった。
「今日、なんかあった?」ぺっぺっと種を皿に出しながらなんとなしに訊いた。
「そうですね」増田は食べかけのスイカから顔を上げ、「消防の松本さんが今年は商工会の花火の保管、きちんとしてるって感激してました」
「そりゃ嬉しかろうな。毎年のことなのに」
「あと駐在の吉田さんから不審者情報」
「へぇ?」
「痩せたのっぽの若い男が村役場前をうろついてたって」
「交番前じゃん、捕まえろよー」
スイカは四分の一が三人のお腹に収まった。テレビはどこも興味の引かれるような番組を放送していなかった。時計の針は遅々として進まなかった。雨はやっぱり止みそうになかった。
「さっさと寝て早起きに賭けませんか」増田が云った。
「そうさなー」テレビを見てる風にみえる姪を見遣り、良子はぴしゃりと自分の額を叩いた。「自分で云っておいてなんだけど、このところ昼夜逆転で、こんな時間じゃ眠れんよ」
「軽く、どうですか」くいっと増田はおちょこを傾ける仕草をして見せた。
「いや、それは」やめておこう、と云いかけた言葉は美香子に遮られた。「増田さんの云う通りでいいと思う」
ちょっと考え、「ならお言葉に甘えさせてもらうかな」秘蔵の自家製梅酒を持ち出した。
一緒に並べたソーダ水が美香子の興味を引いたようなのでグラスに注いでやった。一口飲んで、美香子は顔をしかめた。「なんか辛い」
「サイダーにする?」
すると姪は、立ち上がって台所から氷砂糖を盛った皿を持ってきた。氷砂糖の沈んだソーダ水と、氷の浮かぶの梅酒のグラスで乾杯した。




