つまりこれは魔法ですか?物理ですか?
ある日、俺は死んだ。
通学途中の地下鉄構内。辺りは人でごった返していた。多分、その人混みの中の一人が、その辺に落ちてるゴミか石ころに躓きでもしたんだろう。
そんなこんなで、あれよあれよという間にドミノ倒しのように倒れていく人々。そして運の悪いことに先頭に俺が立っていたという訳だ。
トン、と背中を押されたかと思うと、俺は線路へ真っ逆さま。更に運悪く、ホームに突っ込んできた電車とクロスプレイ。
風を感じて。視界は真っ暗。恐らく人生最後になるであろう逡巡は、ああ、死んだわこれ、という身も蓋もないもの。
そこで視界は真っ暗になった。
そう、俺は死んだのである。そうとしか考えられない。
じゃあ、これは何だ?
俺は恐る恐る体を起こす。目の前に広がるのは無限に続く青い空。鼻をくすぐる草の匂い。そして目の眩むような陽射し。
「なんだ……夢オチかよ……」
死ぬ夢を視ると良いことがあるとかないとか聞いたことがある。
胸を撫で下ろす。妙にリアルな夢だったなーなんて感慨にふけっているのもつかの間、次なる疑問が浮かび上がってくる。
じゃあここどこだよ?
見渡せば一面に広がる草原。遙か遠くに城のようなものが見える。それもディズニーランドにありそうな洋風な城である。もちろんそんなモノが見えるところでところで昼寝などした覚えはない。
それにしても、こんな場所が日本にあるのだろうか? テーマパークだとすれば芝生だけがこんなにもスペースを取っているだなんて、経営者は無能も良い所である。
じゃあ海外か?なんて自問してみる。
誘拐犯に海外まで連れてこられたのだろうか。家はそんなに裕福でもないし、俺はイケメンでもない。そんな奴をわざわざ海外まで誘拐して原っぱで寝かせておく誘拐犯がいるだろうか? いや、いない。いるとしたらそいつの頭はパラッパラッパーだ。
そんなこんなで考え込んでいると、不意に後ろから声が聞こえた。
振り向くとそこには、ローブを纏ったおじさんが立っていた。
「ーーーーーーー?」
何やら激しくまくし立てているが、日本語じゃない。何を言っているのかさっぱりわからない。
「あの……どうも」
ペコリと頭を下げる。すると相手は更にまくし立てた。言っていることは分からないが、口調からどうやら怒っているらしいことは読み取れる。
「ーー!ーーーーー!ーー?」
わからない。困った顔をして疑問を投げかけるように首を傾げられても、さっぱりわからない。首を傾げたいのは俺の方である。
老人はなにやら困り果てた顔をして、ふところからなにかを取り出した。
細長い木の棒……? いや、あれは杖だ。
魔法使いが魔法を使うときに使うあれだ。実験室のフラスコ並みに爆発してしまうあれである。間違いない。
ヤバイよこれは。どうやら俺は宗教団体か何かの施設に連れてこられたらしい。
「ーーーーー!」
なにやら熱の入った口調で何かを詠唱する老人。すると杖の周りに渦を巻いて白い煙が集まり始めた。
まるでCGのようなその動き。マジかよ。まるで本物の魔法みたいじゃないか。ここまで来るとなんだか入信したいような気にすらなってくる。
更に詠唱はスピードアップ。熱がこもって行く感覚に、ようやく俺は危機感を覚えた。
この状況、かなりマズイのではないだろうか。
「ーーー!ーーーー!!」
ボルテージが頂点に達したのか、老人が叫ぶ。杖が発光して、金色に輝いている。そして老人はそれを俺に向けて構えた。
「いやいや、ちょっと、嘘でしょ?」
ジリジリと近づいてくる老人。光り輝く杖を天高く振りかざす。俺の真上で。
両手を上げて白旗を上げる。もう気分はギャング映画のやられ役だ。
ご都合主義には縁がないのか、老人は気にした様子もなく腕を高く上げたまま何かを詠唱している。
ヤバイ。なんだか分からないがどうやらドッキリとかではないらしい。
ということはこれは本当に魔法なのか?
頭上で渦巻く杖を見る。さっきよりもよりオーバーに、バチバチと電気を放っている。
あれはゲームとかでよくある攻撃魔法か?
つまり俺はスライムよろしく爆砕するしかないのか。
「ーーーー!!」
杖が光り輝き、何かが杖から迸る。轟音と共に、俺の頭に電流が走った。
あろうことか、脳天に思いっきり杖の柄が叩きつけられている。ガンガンと、何度も。杖はとても硬かった。
「ぶ、物理かよ……」
俺はそのまま意識を失った。