第9話 そんな少人数とは思わなかったんだ
翌日朝、チートは執務室(名称は翻訳による、実際の機能は不明)に呼び出された。パーティメンバーとの顔合わせである。当初の予定では大会議室を使うことになっていたらしいが、人数が少なくなったため変更になった。
チートが行ってみると、センテラさんと屈強なおじさんがいた。他にカマセーヌ王女、コシヌーケ防衛大臣、シリアスさんとフェンリィもいる。
「こちらが勇者殿の魔王討伐パーティメンバーとして同道いただく騎士のタンカー・テットデュエ並びに魔術師のセンテラ・クレインである。勇者殿にはご承諾いただきたい。」
「え?二人って少なくないですか?」
チートの発言に、場は微妙な空気に包まれる。視線を交わした後、カマセーヌが発言した。
「あのね、チート。本来だったら勇者パーティに入れるっていうのは選抜された、強さを認められたってことだから大変な名誉であって、希望者が引きも切らないはずなのよ?だから今回だって、来週の王宮で何も行事や予定が入ってない日に大広間に人を集めて、場合によっては模擬戦でメンバー選出って手はずになってたわけ。そもそも希望者が一桁とかありえないんだけど、でもまぁ、勇者がチートだっていうのに2名も希望者がいるのが不思議ってレベルなのは理解してる?」
一応、この場で最も立場が上の者として発言したらしい。
「それと、二人じゃないから。戦略上、シリアスとフェンリィもメンバーに入れるから。」
結局、
タンカー・テットデュエ(♂)
騎士:魔力はなく、魔術は使えないが物理攻撃力と防御力は高い。それはもう、後ろから味方に魔術撃たれても平気なくらい。
フェンリィ(♀)
獣人:素早さに特化しており斥候・探査・罠解除・治療が可能。嗅覚も鋭い。何がとは言わないが、D.
センテラ・クレイン(♀)
魔術師:攻撃系魔術のエキスパート、先代勇者が使用したという液体窒素や青い風も使用可能。防御力はやや低い。何がとは言わないが、……言いません、言いませんってば。
シリアス・ウイテール(♂)
本来は書記官:基本何でも屋、攻撃力はほどほどだが高度な治療魔術を使用できる。チートよりよほど勇者らしい。
この4人、チートを入れて5人が勇者パーティである。カマセーヌも言っていたが、フェンリィとシリアスは希望者がいないと聞いてしがらみから、タンカーは実は王に頼まれて、センテラは召喚前からの約束でメンバーに加わったもので、実質的な「チートの勇者パーティーに参加を希望した者」はいなかったのである。
簡単な自己紹介の後、陣形や使える攻撃手段、攻撃を受けた場合の対応についての作戦会議となった。本来であればタンカーとフェンリィが前衛、チートが中衛、シリアスとセンテラが後衛となるのであろうが、先日の編入試験でチートの攻撃魔術を見ているセンテラからクレームがついた。
「勇者は味方の背中からでも平気で攻撃する。この陣形は危険です。」
他のメンバーは「さすがにそれはないよな?」と言う顔でチートを見たのだが、チートが否定をしなかった(肯定もしていないが)ために
前衛:チート(前方の敵に心ゆくまで攻撃魔術をぶっ放す)
フェンリィ(前方の気配探知&挟み撃ちまたは後ろから攻撃を受けた時、チートが後ろに向かって攻撃するのを止める)
シリアス(全体をまとめ、指示を出す)
センテラ(前後に攻撃魔術を展開)
タンカー(後ろからの攻撃に対応)
という陣形を取ることが決定した。見ての通り通常ありえない陣形であり、初見の、しかもなまじ知力のある敵は戸惑ってくれるかもしれない。実際のところチートとセンテラだけでもほとんどの敵に対応できるのだが、この二人だけでは不用意な発言またはセクハラが原因の内部分裂でチートが戦闘不能に陥るのが目に見えている。現に打ち合わせ中、
チートがセンテラを見て
次にフェンリィを見て
もう一度センテラを見た瞬間
「ふがっ、ぶををを、……ぐえっ、ひぐぇあー。」という事態が発生した。
センテラがチートの鼻の穴にぴったりはまる大きさの氷の粒を詰め、息ができなくなったチートが口を開けたところでファイアボールを口に放り込んだのである。
他の3人は、空気中の少ない水分の有効な攻撃利用を目の当たりにし、感心した。
3人がセクハラ・攻撃どちらかを止める係だと思えばバランスは取れているであろう。
そのような作戦会議が一段落したころ
「あー、そろそろお話は終わりましたかな。」
と、ニマイタン大臣が顔をだした。
魔王討伐に向かうには王国内を移動することになり、移動にあたっては衣と食を自力でなんとかする必要がある。そのためには王宮外の生活に慣れておかないといけないだろうとしばらく実際に生活体験することになっている(今のままでは不安なんですねわかります)。
というわけでニマイタン財務大臣から、当面の生活費の入った袋を受け取る。袋の中身はというと、金貨3枚と銀貨10枚、および銅貨1000枚(約¥500000)である。
「金貨5枚でも良かったのでございますが、街中には金貨での支払いに対応できない店も多く…」
要するに小銭がないとおつりがない場合もあって困る、と。
それはわかるのだが
「お、重い。」
チートが袋から銅貨を1枚(約¥100)取り出してみると(ほとんどが銅貨だが)、結構分厚く、1枚10gくらいありそうである。形はだいたい丸いが完全な円と言うわけではなく意外に歪な形をしており、表と裏(どちらが表かはわからないが)の模様がずれているものもある。
「銅貨だけで10kgあるわけだな。おー、ファンタジーだぜい。」
ダンベルを持って散歩してみるとわかるが、硬貨の入った袋を持って歩くのは結構な重労働である。中身が中身だけにそうそう預けたりできるわけもない。小説で硬貨をほいほい使っている描写を見るが、硬貨だけと言うのは実に不便なものである。重さを感じなくなるアイテムボックスや魔道具がない以上、紙幣がいかに偉大な発明かわかろうというものだ。
当座の分として銀貨銅貨を¥50000ほど別の袋に入れてみる。これだけでも2L入りのペットボトル2本分よりは重い。
「さて、じゃぁ早速小遣い持って街へ行ってみるか。」
さっきまでチートパーティの希望者がいなかったことと普通の陣形の中衛には不適格と言われた挙句、鼻に氷を詰められて少々落ち込んでいたはずだが、立ち直りの早いやつである。
「そうですね、チートさんの気分転換にもなるでしょうし行ってみましょう。」
そろそろ昼前、王宮前の広場にはそれなりに人が多く通行していたが、王宮から出てくるチートを見た街の人たちは潮が引くようにさーっと遠ざかっていく。
うわさの広がるのは早いものである。しかも、チートの隣にはフェンリィがくっついているのだ。
物陰からフェンリィを指さして「あの獣人を……」とか言っている人もいる。そんな声が聞き取れる程度にはチートはチート聴力がある。そのため
「フェンリィを悪く言うのはやめろ!」
と言おうとするのだが、チートが視線を向けるとサッと引っ込んでしまう。
もっとも、街の人から見ればチートが権力を使ってフェンリィに言うことを聞かせているので、言われなくともフェンリィが悪いとは思っていない。
それでも街中を進むと、そういった声はほとんど聞こえなくなった。そもそも、ずっと王宮で過ごしていた勇者チートの顔を知っている人など、街にはまずいないのである。
だから、おとなしくしていれば問題は起こらないのだが、そこでしでかすのが主人公補正というものである。




