第6話 魔術学院編入試験第1日目
「うーっ、まだあちこち痛ぇ……。」
翌日、チートはまだ心身ともガタガタの状態であった。たまたま昨夜頼んでおいた「風呂」が到着したのだが、こちらの風呂は温まるための風呂ではなく汚れを落とすための風呂だった。フェンリィの手によって風呂桶の中にこれでもかと香油や何かのエッセンスが放り込まれた結果、やたらと沁みる風呂が出来上がったのである。チート本体や一部焦げた頭髪はきれいになったが、疲れはあまり取れていない。
ダメージが残っているが、今日は王立魔術学院の編入試験の日である。
魔術学院には小学部・中等部・高等部があるが、魔力量は十分だし、年齢的にもあまり差のあるところはまずいだろうと高等部に編入することに決めたのである。
1日目は学科試験、2日目は実技試験がある。
まず、学科試験である。入学試験ではなく編入試験なので受験者はチートだけ、勇者の編入試験ということで、マギ学院長が直々に試験監督をしてくれた。
問題は、次のようなものであった。なお、単位などは意味が変わらないように翻訳してある。
語学
1.翻訳魔法を使用して次の文を読み、質問に答えよ。
Swk guv ng vtqkukgog rtkpeg fg pqvtg rcau?
学院長の解説:話し言葉ではないので、どのように「魔術で翻訳」するかがポイントになる。ここではあえて暗号化することで変換のプロセスを残渣として残しており、それを読み取れるかどうかを見ているのじゃ。
答:これは鍵2のシーザー暗号で、解くと
Qui est le troisième prince de notre pays?
すなわち、「我が国の第3王子の名前は何か」となる。
第3王子はチートが来る一ヶ月前に生まれており、名前の発表があったばかり。外国や異世界から来た人でもない限り、知っている名前であった。
異世界人のチートは知らないので答えられなかった。
応用魔術学
1.次の魔法を消費魔力の多い順に並べよ。
ヒール ファイア ライト スプラッシュ ウォーターボール
学院長の解説:どれだけ魔力を消費するかを把握しておくことは大事なことで、魔術師の初歩の初歩じゃな。
チートにとってはほとんど魔力を消費しない魔術ばかりであり、違いは誤差の範囲である。従って、並べるのに失敗した。
2.北方向、高度100mにワイバーンがいる。ワイバーンまでの距離は200mで、西に向かって速度vで飛行中である。このワイバーンに対し、炎魔法、光魔法、氷魔法で攻撃するとき、それぞれの場合の魔方陣を構築せよ。ただし、気温21℃、氷魔法のアイスランスは重力に従い、炎魔法のファイアーボールは直径20cm、温度は1494℃で断熱変化し、両魔法の魔方陣構築に要する時間は無視できる。光魔法のフラッシュは直進するが、魔方陣構築完了までにt秒かかるものとする。重力加速度は9.8m/s^2とする。
学院長の解説:発現した魔術の結果は物理法則に従う。魔術の展開ができても結果が予測できなければ命中させることなどできんぞ。
アイスランスの初速度をどのように展開するか、与えられた数値からファイアーボールの浮力による加速度(g/T')(T-T')=1200×9.8/294=40m/s^2 を算出できるか、t秒後のワイバーンの位置を計算して光魔術の陣を構築できるかが鍵じゃな。
チート「できるわけねーだろ!」
数学
1.ケルベロスとグリフォン、デスマンティス(♂、アクティブ)が何頭かおり、頭の数は合計で27、脚の数は合計で76、羽の数は合計で28だった。それぞれの頭数を求めよ。
学院長の解説:ただの3元連立方程式であり、解くこと自体は簡単のはずじゃ。つるかめ算よりはちと難しいかの。
チートはデスマンティス(♂、アクティブ)は♀に頭を食われた状態で暴れているものだということを知らず(つまりこいつの頭の数は0)、頭が1として計算したためグリフォンの頭数がマイナスになってしまい解けなかった。
生物学
1.次の魔獣の弱点となる属性は何か。
グリフォン ダークオーガ クラーケン ピッポルーダ エピオルニス カルカロドン ダイダラボッチ
チートは敵のステータスがわかる能力があるが、出会ったことがある魔獣などいない。本で少し見たものの名前はまだ全部覚えていなかった。これらは図があったのでステータスを見てみると、次のようにステータスが浮かんだ。
【問題用紙】
魔術学院の編入試験を書いた問題用紙。多数の受験者がいる入学試験と異なり、いちいち問題を作っていられないため前期期末試験の問題を流用している。レベル2
「レベル2ってどの程度なんだろう?って、問題用紙のステータスが見えても意味ないな。」
なお、これらの魔獣の弱点はチュートリアルに聞けば分かったのだが、試験監督がすぐ横にいる状態で声に出すわけにいかず、カンニングはできなかった。
学院長の解説:カンニングはいかんぞ。
以下、この調子で問題が続く
結果、初日の学科試験は惨憺たる結果に終わったのである。ほぼ詰んだな。