フェンリィの回想
「フェンリィおばちゃん、僕と勇者が兄弟だったってほんと?」
まだ20歳になったばかりの私をおばちゃん呼ばわりするのは、姉の息子セイリオだ。
「ん、ほんとだよ、乳兄弟ってやつだけどね。」
「ふーん、そうなんだ。」
疑問が解決して納得したのか、セイリオはさっさと行ってしまった。
「もう2年経つんだなぁ……。」
先代の勇者、チート様は背中のスベスベが素敵な、さわり心地の良い勇者だった。
主にスベスベ目的だったが勇者パーティに入れてもらい、魔王討伐に出た。チート様は何度もお腹を壊し、私は見ていないがデスマンティスに捕まり、ある時は牛に跳ね飛ばされ(その時の話をしたら、なぜかセイリオが真っ青な顔をしていたが)、挙句に肥料溜めにまで落っこちるという、見ていて飽きないイベント満載の勇者様。
牛飼いの人の案内で魔王の洞窟に到達したが、最初の分かれ道が非常にわかりにくい洞窟で、センテラさんが気付かなければ、道に迷っていたかもしれない。
言い伝えでは、道を間違えて落とし穴に落ち、帰ってこなかった勇者様もいるらしい。
その後はほぼ一本道だったので、道は間違えなかった。
ただ、いくつもトラップがあった。
途中登りきったところに有った部屋では光魔術を使うと爆発するトラップがあり、しばらく鼻がムズムズしっぱなしだったのには参った。
その先の部屋で水を飲もうとしたら、天井が落ちてきた。たまたまチート様が持っていた砂鉄(?)の棒で止まったから先へ進めたが、昔その部屋で天井に潰された勇者様もいたとのこと。
でも、砂鉄の棒がなかったとしても、水飲み場で引っかかっただろうから、潰された勇者様がいたというのはだれかの作り話かもしれない。
魔王の部屋に行くと魔王がいて、いきなり黒い光を使って攻撃してきた。
その攻撃を受けて、突然シリアスさんが倒れてしまい、私も毒のようなものを喰らってしまった。
とにかくひどいにおいで、満足に息も吸えなかった。
何が困ったと言って、必死の思いでやっと息を吸い終わって、さぁ今度は息を吐こうとして肺の中に入っていた空気を出すとき、どうしても鼻を通るのでやっぱり臭いを感じてしまうこと。つまり、息を吸っても吐いてもあのとんでもない臭いがするのだ。
もう、息を止めているのが一番楽なのだが、ずっと息を止めていることはできない。
なるべく息をしないように気を付けながら転げまわっていたら、気を失ってしまったらしい。
気づいた時にはシリアスさんと一緒に「魔王領への道」への途中にいたようだ。
シリアスさんはなんとか回復していたのでシリアスさんが運んでくれたのかと思ったが、シリアスさんも誰かに運ばれていた気がするという。
まだこびりついた臭いが取れなかったし、登り坂を上っていくなんて気力がなかったので、そのまま降りて来たら入口側に出て、砂鉄の棒を回収して待っていたタンカーさんと合流することができた。
タンカーさんが運んでくれた訳でもなかった。いったい誰が運んでくれたのだろう。
チート様が運んでくれたのでもなさそうだ。
チート様と、センテラさんは帰ってこなかった。
最後に見た二人は、魔王と戦っていた。
咳き込んでいた私は会話がよく聞き取れなかったけど、センテラさんはシリアスさんの治療を、チート様は魔王と対決をしていたのを覚えている。
でもそれが、2人を見た最後になってしまった。
センテラさんとチート様、あの2人の攻撃魔術は桁が違っていた。
あの二人でも、魔王には勝てなかったのだろうか。
王都に戻った私たちは、しばらくチート様の帰還と勝利報告を待っていたが、1ヶ月、2ヶ月と経ち、何の情報ももたらされないと、魔王討伐ができなかったのだろうということになっていった。
王家では、また勇者召喚をする準備を進めている。
そういえばあのあとしばらく、王宮内の男の人の間では髪の毛を思いっきり短くするのが流行った。
王宮内で何か頭に付く小さな虫が発生したためとも、黒髪だと屋台での買い物のとき吹っかけられるからだとも言われているが、私はチート様が模擬戦で見せたエクスプロージョン系の魔術の練習に失敗したのを隠すためではないかと思っている。
シリアスさんと私は王宮勤務に戻った。
「チート様に常識や魔術を教えることに比べたら、きつい仕事なんかありません。」
と言い放つことのできるシリアスさんは、そのうち宰相になるのではないかと言われている。もう少し落ち着いたら、王宮勤務の同僚と結婚するらしい。
私はチート様がいなくなったので、通常の王宮内庶務勤務に戻った。
勇者パーティはかなりの激務で、二人戻ってこなかったように危険な任務だったこともあり、私がもう一度次の勇者様の担当になることはないだろう。
もし、次の勇者様もスベスベだったら、ちょっと残念だ。
魔王領からの攻撃とかはないけれど、魔王領の近くの街からは人がどんどん減っているらしい。
魔王が討伐されたら、魔王から領みんな戻って来れると考えている人が多い。
でも、私は思うのだ、我々が何度も勇者様を召喚することができるように、魔王も第2、第3の魔王が出現するのではないかと。
そうすると、もしかして人間と仲良くできる魔王なんかもいるのかも知れないよね。
今まで何度も失敗している勇者召喚を願うより、仲良くできる魔王を召喚するのを神に頼んだ方が良いんじゃないかなぁ。
読み専でしたが、所謂ファンタジー系の小説を読んでいて
例えば、その魔法で出てくる氷はどこから来たんだ とか
火の魔法で燃えるものは何なんだ とか
雷魔法って、高電圧生み出した本人に落雷するはずだろ とか
「いくら魔法でもそれはちょっと違うだろ?」と感じる設定がたくさんあった訳です。
空気中の水分は意外に少ないし、「無から水」を創り出せるのなら水や氷にこだわる必要はないんじゃないか、と。
また、火の魔法で燃やせるものがないのなら、圧縮空気の方が楽だし、
もしやワンドやスタッフ、ステッキを炭素源として使っているのだろうか。
だったら、シアン化水素の方が攻撃力高くね?
魔方陣で打ち出した魔法効果がほとんど命中してるけど、命中率高すぎでは?
プロ野球投手でもファーボール出すのに。
さらに、雷を制御できるのならプラズマにした方が使い勝手が良いだろうとか、そんなことを考えるうちに
「よし、実際にファンタジー(もどき)を書いて、キャラクターに使わせてみよう」と思って初投稿してみたのが本作です。
どうせなら、図書館にいっぱい本があるのは金持ち過ぎないかとか、獣人が××とのハーフなどという設定にも咬みつこう的なことを書き連ねてみた結果、イベントが飛び飛びで分かりにくくなってしまったのではないかと危惧しています。他にも、「シリアスさんが息してない」の場面では、「黒い光」が、さらに「曲がる」とか、それをシリアスさんが「光より速く動いて避ける」シーンなどを入れるつもりでしたが、なぜそれが「シリアスさんが息してない」原因なのかわからないと意味がないので割愛しました。
ご意見などございましたら、感想に書いていただければ、次回作以降に活かしていきたいと思っています。
なお、本作は実験的に、なろうサイトに書かれている「アクセス数がこうすれば増える」という手段(つぶやく、ブログに書く、など)を全く何も講じないという方法を取りました。にもかかわらず、連載中毎日多くの方々に閲覧していただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
最後の最後まで読んでいただきありがとうございました。