第14話 こんな称号はいらないと思ったんだ
チートは、落ち込んで膝を抱えてベッドの上で体育座りしている。
騒ぎの後、つかまってしまったわけではない。服を引っ張られて脱げそうになり驚いただけで、引っ張ったのがチートだとわかるとロリコがおとなしくなったからである。
結局、ワイシャツは返してもらった。かといって、裸で帰したわけではない。フェンリィに頼んで、王宮に勤務している人の子どものお下がりを貰って来てもらったのである。古着を集めてくる程度、1日で大量の母乳を集められるネットワークを持つフェンリィには造作もない。
古着とはいえ、作りのしっかりした服を着たロリコはやっぱり天使のようにかわいかった。
もっとも、チートは天使を見たことはない。
神なら見たことがある。
クラス黒板係レベルの。
あれ?ということは、いたとしても天使がかわいいとは限らな……。
いや、とにかくロリコはかわいかったのだ。
だが、問題はそこで終わらなかった。ロリコを帰してしばらくすると、ゴンタが
「なんてことをしてくれたんだ」
と、怒鳴り込んできたのである。
「オレだって、ロリコがかわいいことぐらい知ってるし、きれいなかわいい服も着せてやりたいよ。だけど、オレたちが住んでいるのがどんなとこか、知ってるだろう?そこにかわいい女の子をふらふら歩かせたらどうなると思う。」
そう言われてチートは怪しい店周辺を歩くロリコをイメージしてみた。
「あー、それは、誘拐されるか、拉致されるか、かどわかされるか、連れ去られるな。」
「人が不安になるような言葉をいくつも並べるんじゃねぇ!」
「おっと、悪かった、訂正する。誘拐ではなく略取と言うべきだな。」
「同じだ、ばかやろう。」
結局、街を巡回する兵士に、それとなく気を付けてくれるように頼むことで一応の決着を見たのである。
「ところで、例の鉄棒、ちょっと心当たりがあるんだが、どうする?」
「王宮から近いのか?」
「街道沿いに南東へ歩いて1時間だな。」
「なら、早速明日行ってみよう。」
「それじゃあ朝9時に王宮の前で待っててくれ。」
「わかった。」
えっ?どこに落ち込む要素があったのかって?
ゴンタが帰った後、王宮周辺の地図を確認しようとして白い猫を呼び出したところでシロが、
『称号が増えたニャ』
とか言い出した。それに
「称号って?」
と返したのが事の起こりである。
『ステータスを見てみるニャ、「ステータス」とか「鑑定」とか念じるニャ』
「了解、『鑑定』っと。」
本来自分で自分を鑑定・ステータスチェックすることはできない。そんなことができてしまうと、例えば相手のステータスを見ている時に瞬きすれば、どれが相手のステータスかわからなくなってしまうだろう。
多田野チート
HP 999/999
MP 999/999
力 128/128
体力 128/128
知性 26/ 26
守備 192/192
(中略)
称号:異世界勇者 補正上限値無効 自動回復
:母乳愛好家 女性に対する防御力上昇、知性20%低下
:獣○嗜好者 獣人に対する好感度上昇 知性20%低下
:変態露出狂 無装備守備力50%上昇 知性20%低下
:ロリ☆コン 大人に対する好感度低下 知性20%低下
『称号5つも持ってるとはすごいニャ』
「補正上限値無効って、低下補正にも働くんじゃないだろうな、ヘタしたら知性マイナスになるじゃん。おまけにステータス画面に(中略)って何だよ。」
『もちろん低下も限度はないニャ、ステータス画面には出てこない隠しパラメータはいくつかすでにマイナスになってるニャ。中略は視野に収めるための自動対応ニャ』
「ぐあああぁぁぁ。勇者以外濡れ衣ばっかりじゃねぇか、こんな称号見たくねぇぇぇ。」
しかし相手はチュートリアルの意思で出し入れできるステータス画面である。なんと、目を閉じても見えるのだ。従って、チートの意思で逃れることはできない。
「考えてみればこの画面、OFF機能がないじゃん……。」
しばらく目の前にこんな称号画面を見せられ続けたら、そりゃぁ落ち込みもするというものだ。
話を戻そう、落ち込んだチートが膝を抱えていると、
「チート、ちょっと」
と、カマセーヌに呼び出された。相変わらず王女が呼び出し係をやっているのもすごいが、この場合、株を下げているとはいえ勇者を「ちょっと」呼ばわりしている王女がすごいのか、異世界に来て一週間で存在が「ちょっと」相当になってしまった勇者がすごいのか。
呼ばれたチートが執務室に行くと、コモノシュー宰相が待っていた。
「うむ、勇者殿にはこちらへきてまだ一週間というところで申し訳ないが、こちらにも召喚した者としての責任があってだな。実際に王国内を移動するにあたって、街中での活動に慣れてからと言うのはもちろんだが、季節的に早めに移動した方が良い場合もあると思われるので、そろそろ魔王討伐に向けて出立を視野に入れて動いていただきたいのだが……。」
この後もつらつらと政治用語も交えた発言が続いたのだが、要するに、あまりにチートが問題を起こすので、召喚した王宮が責任を取らされるような事態になる前にさっさと行って来い、ということらしい。コモノシュー宰相は宰相で、きっとこれをチートに伝える役目を押し付けられたのだろう。
チートは、召喚された自分に対して一番責任を取って欲しいよな、と思ったが、よく考えるとこちらに来たのは自分が神に対してOKしたからか、と思い直し
「わかりました、2日後に出立します。」
と答えて部屋に戻ったのだった。