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勇者の失敗  作者: 林育造
13/25

第12話 小銭だから大丈夫だと思ったんだ

閑話を挟んだので本日分投稿

明日から19~20時投稿にスライドします

翌日は結局一日中、寝ている羽目になった。

シリアスがしっかり治癒魔術をかけてくれたのだが、単なる毒の中毒ではなく、細菌性やウィルス性の胃腸炎では完治させようがないらしい。

ここで活躍したのが意外なことに例の粉ミルクである。

「なるほど、ご自分が乳糖を消化できないのを知って体力回復用に作っておかれるとはさすがです。」

シリアスさん、それ違うから。


ようやく腹の調子が治った次の日、今日はしっかりと武器屋・防具屋も見るぞとかなりの金額を持って街へくり出そうとした。

今日も街の人たちは引いていく。

だが、街の人が引いて行ったのと入れ替わりに、近づいてきた集団があった。


こどもたちである。ボロい格好をした少年達がチートを取り囲むようにして手を伸ばす。チートは何事かと思ったが、後の方にゴンタの姿も見えるので街の少年達だと一応理解する。

「勇者のにぃちゃん、もう迷子にならないようにオレたちが街のどこでも道案内するから、案内料おくれ。」

要するに小遣いせびりである。


チートはにげだした

しかし、とりかこまれてしまった


勇者の身で迷子になったのがしっかりばれているが、

「うるさい、どけっ。」

と言えない所が異世界勇者の弱い所である。


チートは仕方なく銅貨を1枚取り出し、目の前の少年に渡した。

シリアスが

「あっ、ダメですっ。」と叫ぶがもう遅い。

と、たちまち

「「「「「「オレもオレもっ。」」」」」」

どこから出てきたのか、最初の数倍の人数の少年達に取り囲まれて人垣で身動きがとれなくなってしまった。

まぁ、囲まれているのはチートだけなのだが。


最初の一人に渡して、他の少年に渡さないのは憚られ、銅貨は最小通貨単位なのでみんなで分けてくれと言うこともできない。

チートの財布からはすごい勢いで銅貨が減っていく。


少年達の人垣が無くなる頃には財布から銅貨がすっかりなくなっていた。

チートの目の前には、銅貨をもらえなかった8歳くらいだろうか、小さな女の子が佇んでいる。

ゴンタが

「ロリコ、行くぞっ。」

と言っているから妹だろうか。

「だって……。」

ロリコと呼ばれた少女は縋るような目でチートを見上げてきた。

「ゆうしゃさま、わたしももらっていい?」

くー、使い古された表現だが幼女の上目遣いは反則である。


チートはぎんかを、とりだした。

チートは、ぎんかをようじょにわたした。

「わーい、ゆうしゃのおにいちゃん、ありがとう。」


ロリコはそう言うと、ゴンタと共に帰って行……こうとした。

しかし、横から出てきた人に、ドン、とぶつかってしまい、持っていた銀貨を落としてしまった。

銀貨はコロコロと道の方へと転がり……

やってきた馬車の馬に踏まれ、消えた。

電車に踏まれた1円玉でもあるまいし、通常の馬に踏まれて硬貨がなくなるわけがない。

馬の蹄の間に土でも入っていて、めり込んでしまったのだろうか。

ロリコは馬が通りすぎ、硬貨が消えた地面をしばらく呆然と見つめていたが、ゴンタに促され、とぼとぼと今度こそ帰って行った。


このあと正座したチートに対して、シリアスによる「正しいお金の使い方講座」があったのだが、それは省略する。

講座が終わり、気を取り直したチートは簡単に昼食を済ませたあと、武器屋に来ていた。

当然ながら、昨日の今日でがっつり食う気になるはずがない。


この前の模擬戦で分かったが、力と速さがチートなだけで、剣の型とかができている訳ではない。同じ理由で、盾があった所で正しく使えるはずがない。そこから導かれる装備方針は、相手より大きな剣で間合いを大きくし、力任せに攻撃、潜り込まれたときに備えて短剣も装備、というものである。

持てる限りの大きさで、丈夫で長い剣を探す。


「お、これなんか良さそう。」

大剣が並んでいるエリアで比較的条件に合ったのを見つけたので、値段を聞いてみる。

高い、わかっていたけど高い。予算の5倍なら交渉してみようという気にもなるが、予算と2桁違うのではあきらめるしかない。


武器は非生産的な物であり、生活必需品ではなく、必ず売れるという物ではない。そのため、どうしても管理費が高くなってしまい、安くは売れないのである。これに対し、ほぼ生活必需品に近いナイフや短剣は、回転もよいので安く売ることができる。もちろん、安いと言っても最低銀貨が必要ではあるが。

結局チートはそれなりに造りがしっかりした短剣を鞘と一緒に2本購入し、店を出たのである。

手元には、金貨1枚と銅貨少々しか残っていない。

「これであと何日過ごすんだっけ?」

「あと10日ですよ、勇者様。」

「えっと、自信がないんだけど……。」

生活の練習なのだから、期間中は食糧は自主調達である。寝る以外の補助を王宮に求めてはいけない。


「はぁ、きょうはもう寝よう。」


まだ午後3時にもなっていないが。昨日は1日寝ていたのだ。眠いわけもない。


部屋でボーッとしていると、ノックの音がする。

「ゆうしゃさま、ゆうしゃさま、たすけてください。」

ロリコだったか、王宮前で会った幼女の声がする。

扉を開けると、まさにその本人だった。

「ロリコちゃんだっけ、よく入れたね。」


そう言って両脇に手を入れ、彼女を抱え上げたチートはビビった。


別にかわいさにビビった訳ではない。


ちょうどチートの目の前、ロリコの服の縫い目にびっしりとなにか平べったい小さな動く物が並んでいたのである。

チートはそれに見覚えがあった。リアル妹が幼稚園でもらってきたことがある、吸血昆虫シラミである。

ちなみに、連休に海外に行った友達から妹がもらってきたのはアタマジラミ、今、目の前に並んでいるのはコロモジラミなので、少し違うはずだが。

思わず幼女を取り落しそうになったが、グッと耐えた。

チートは心の中で、幼女を落とさなかった自分を褒めていた。

「で、どうしたの?」

「あのね、おにぃちゃんとグロサリーさんがいちばでけんかしてるの、とめてください。」

「よしわかった、止めてくるから……お風呂入って待ってて。」


チートはフェンリィに、ロリコを風呂に入れて服を洗っておくように頼むと、市場に向かったのであった。


それにしても幼女とはいえ外部の人間が(一応)来賓の部屋までやって来れるとは、王宮のセキュリティは大丈夫なのだろうか。

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