母を訪ねて(四百文字小説)
母が行方不明になったのは、私が高校生の時。
私は高校を卒業すると懸命に仕事をし、休みの日には母の行方を探していた。
都道府県全てに行き、探した。
しかし、時は無情に過ぎていき、十年の歳月が流れた。
私は母を探すのを諦め、愛する人と結婚し、子供を三人産んだ。
母が姿を消してから二十年経った。
ある日、私は市役所のロビーで行列に並ぶ年老いた女性を見た。
その横顔。
子供が生まれてからは、あまり思い出さなくなったとは言え、忘れた訳ではない。
やつれて皺だらけになっていたけれど、あの輪郭はそうだ。
私は意を決してその女性に近づいた。
女性は目を見開いた。母だ。母も私に気づいたのだ。
「お母さん!」
私はロビー中に響く声で叫んだ。
「お母さん!」
私はポタポタと涙を零しながら母に近づいた。
そして、呼吸を整えて言った。
「二十年前に貸した一万円、返して」
すると母はニヤリとして、
「もう民事時効が成立してるよ」
その瞬間私は殺意を覚えた。