プロローグ
「なぁ、ルー! ルーってばぁー!! ――ルークシャード=フォウルドうがっ!!」
「喧しい。迷惑だ喚くなこのアホ。」
「アホとは何だアホとは! つか殴ることねぇだろ!」
「はいはいごめんね。痛かったねー。撫で撫でしてあげるねー、リーンちゃん。はい、よしよし。」
「な、なな、撫でんなバカ!! そんなことされても騙され…あ、もう止めんの…?」
「………」
「おい、無視すんなよ、ルー。なぁ、もう終わりか?」
「――分かった分かった。もうちょいな。」
「んんー…。やっぱさぁ、ルーの手はでっかいし気持ちいいな!」
………全く、ホントこいつアホだな。殴ったことなんか忘れてるし、それどころか今は手に頭ぐりぐりと押し付けてきてるし。まぁ、綺麗な銀髪をくしゃくしゃにされながら、幸せそうに撫でられてる姿は可愛らしくもあるのだが。
こいつぐらいアホだと毎日幸せなんだろうなー、とそれこそ毎日のように思う俺の名前はルークシャード=フォウルド。
突然で悪いんだが自己紹介だ。ん? 何故やるか? 知らん。急にやりたくなったんだ。結構適当に生きてますから。そんな感じにノリで生きてきて22年。後8ヶ月で23歳。
家族はこいつ、リーンと、今此処にはいない妹だけ。親とかは死んだ。5年前、盗賊に襲われぽっくりと。それはもうあっさりと。それから俺達兄妹は、生計を経てようと実家を改造し、街人から何でも屋へとジョブチェンジ。
俺は戦闘、生産担当。鼠駆除からドラゴン退治、包丁研ぎに武具作りまで何でも御座れ。なんなら神だって殺してやりましょう? あ、犯罪は勘弁です。暗殺とかはやってません。
妹のセシリーちゃんこと、セシリリア=フォウルドは情報、推理担当。昔っから好奇心旺盛な娘でしてね。気になる事があれば、どんな所にも入り込み、情報をかき集めて、それを基に推理して来たわけなんです。その的中率は何と脅威の100%!! うちのセシリーちゃんに懸かれば、国家の裏から旦那の浮気、隠し通すことなんか出来やしやせんぜ? かく言う俺も、何回へそくりがばれたことか…。
はい、宣伝終了。何か困ったことがあればご相談に来て下さいね。………俺はさっきから誰に喋ってるんだ?
まぁ、そんなことは気にせず続きを。
容姿はというと、長くはないが短くもないぐらいの赤髪。やや釣り上がり気味の赤眼。少し長めの犬歯が覗く口。体は自分でも引き締まっていると思う。まぁ、戦闘担当だしな。戦闘技術も自信あり。神だって殺せる、つか殺した。三日三晩の激闘の末、ようやく邪神を殺したあの時は正直、…もう絶対やんないっ! 何て思ったのはいい思い出だ。
話を戻し、そんな俺の容姿はカッコイイかと聞かれれば、残念ながらよく分からない。リーンに聞くと、「おう!! ルーはむちゃくちゃカッコイイぞ!! 太陽みたいだ!!」と何かすごく大それたものを引き合いに出され、セシリーに聞けば、「妹に聞かないでよー。身内がカッコイイかどうか何て分かる訳無いでしょ。――まぁ答えになるか分からないけど、私はお兄ちゃんの顔好きだよ?」何て言われた。ちょっぴり嬉しかった。
兄妹の仲が良くていいねー、とよく言われる。うちの子達は喧嘩ばっかりで、とよく八百屋のおばさんがぼやくが、そんなことはない。俺達も喧嘩はするんだ。前喧嘩したのは庭の草毟りについだった。以下その時の会話。
「ちょっとお兄ちゃん!!」
「ん、どうした?」
「どうしたじゃないよ!! 庭!! 庭の草毟り!!」
「………俺がやっといたけど?」
「何でやっちゃったのよ!?」
「いや、時間が出来たからさ。」
「もうっ、お兄ちゃんは昨日黒覇龍を退治してきたんだから休んでてって行ったじゃん!! 楽勝って言っても天災級魔獣だから疲れたでしょ? 体は大事にしないと! 何かあってからじゃ遅いんだよ? 分かってる?」
「――だったら俺も言わせてもらうけどな、お前だって昨日は隣国の地下施設に侵入してきたんだろ? あそこは国中、いや世界中の優秀な魔術師を集めて侵入対策の魔術を掛けたって言うじゃねぇか。いくらお前にとっては穴だらけだったとしても、少しは疲れてんだろ? こんな体力仕事は俺に任せときゃいいんだよ。」
「私は自分のことよりお兄ちゃんが心配なの!!」
「それは俺も同じだ! お前の方が俺にとっては大事なんだよ!!」
「むぅー…」
「ぐ………」
「「ふんっ」」
と、こんな感じ。結局はお互いに謝って終わり、今では笑い話みたいなもんだ。この話を友人に話してみれば、「え、ルー君たち仲良すぎ…。」と若干引かれてたみたいだけど多分気のせいだろう。
そんなセシリーは俺より3つ下の19歳。
我が家の会計担当、そして家事全般達人級であるから俺はもう頼りっぱなしで。なんか悪いなと思ってるから手伝おうとするんだがその度に止められる。「お兄ちゃんは休んでて。仕事量なんて私の5倍はあるんだから。」と言いながら。んー…、それでも感謝しても仕切れないな。
そして気になる容姿はというと、腰の辺りまで伸ばした俺と同じ赤髪。やや釣り上がり気味の大きなぱっちり赤眼。笑うと気付く程度の尖った犬歯。体はお兄ちゃんの俺でさえ唸らざるおえない程の美しいもの。友人は「セシリリアちゃん相変わらずかわいいなー。なあ、ルーク。俺にくれっぎゃああああああ!!!!」とほざいたため制裁を下した。そんな軽いノリで言われてもムカつくだけだ。第一それはセシリーが決めることなんだから、俺に言ってくるなよ。セシリーが連れて来たやつなら、俺を倒せれば認めてやる。この間そんなことをセシリーに言ったら、こんな会話が。
「あはは、お兄ちゃん倒すなんて無理に決まってるじゃない。それ、神に喧嘩売ってるようなものなんだよ?」
「いやいや、一応俺も人間だからな。毒ならもしかしたら死ぬかもしれんぞ」
「もしかしたらなんだ…。まあ、私はまだそんな気はないから安心してよ。」
「お前そんなこと言ってたら行き遅れるぞ?」
「その時はお兄ちゃんに貰ってもらうよー」
「お前なあ…。でも確かにこの生活は夫婦みたいだしな」
「おー、ホントだねー! あはは、じゃあもう私はお兄ちゃんのものみたいなもんだね」
「うん、そうかもな」
会話終了。こんな冗談だらけの会話が繰り広げられた。このことをまたまた友人に話したら、「ルー君? そっちサイドは大変よ? 目を覚ましてルー君! 私がいるから!!」なんて意味の分からない説得を必死にされた。本当に意味が分からない。だからセシリーにも聞いてみたがあいつも本気で分からなかったようだ。兄妹で2時間は考え込んだな。
とまあ、俺達兄妹の紹介はこんな感じで。
次はリーンについて説明しよう。先ずは容姿から
綺麗な銀髪は肩より上で切り揃えられている。眼は透き通るような青であり、口は小さく、もう正しくお人形のようだ。体も歳の割に少しちっちゃい。見る分には何処かの貴族だと言われてもおかしくないのだが、口調が、ね。もう乱暴過ぎて困るのだ。自分の事は男みたく俺っていうし、ぎゃーぎゃー煩い。まあ、もう気にしてないんだけど。
次はこいつとの出会いかな。
5ヶ月前、俺達が経営する何でも屋に一人の少女が訪ねてきた。いや、乗り込んできた。そして開口一番。
「俺を育ててくれ!!」
と叫んだ。
いやもう、あの時俺達の目は点になってたね。びっくりしたなんてもんじゃない、状況が全く頭の中に入ってこなかったんだから。
そしていち早く再起動した妹が事情を聞く。すると少女は言った。以下会話オンリーでお送ります。
「ここ何でも屋なんだろ? なら俺を育ててくれよ! 金なら大きくなってから必ず返すからさ!!」
「えっと…。とりあえず落ち着こっか? 名前は何て言うの? いくつ?」
「え、えっと、リーン=オルフィア。13歳。」
「うん、リーンちゃんね。私はセシリリア=フォウルド。こっちは兄のルークシャード=フォウルドよ。よろしくね! で、育ててって言ってたけどどういうこと?」
「――俺の村が1年前、魔獣に襲われてなくなっちゃったんだ。父ちゃんも母ちゃんも、その時に俺を逃がすために死んじゃって…。」
「そうだったのか…。大変だったんだな…。」
「いや、そこはもういいんだ。散々泣いたし、次はこれからについて考えないと。」
「そ、そうか。お前強いな。――で、リーンは今までどうやって生きてきたんだ?」
「もの盗んだり、家ん中忍び込んだりしてたんだ。でもそろそろ限界だなって思ってた所にこの店見つけてさ。なあ、頼むよ!! 俺を育ててくれ!! あ、おっぱいぐらいなら揉んでいいからさ!!」
「誰が揉むかぁ!! そんなぺたんこで生意気言ってんなよ!? セシリーぐらいになってから言いなさい。」
「お、お兄ちゃん…。」
「何だと!? 将来に期待だボケぇ!! お前びっくりすんぞ? 5年後に頼んでも揉ませてやらねぇからな!!」
「だからそういう事は膨らみ始めてから言いなさい。――さて、リーン、お前は俺達に何を望む?」
「――え?」
「お前は俺達に何をして欲しいかって聞いてんだよ。学費を出して欲しいか? 家事を教えてほしいか? 闘い方を教えてほしいか? して欲しいこと全部言ってみろ。」
「え? え?」
「遠慮しないでいいからね? リーンちゃん」
「え、えっと、じゃあ、まずは――側に、居て欲しい…です。」
「――お安い御用だ。」
「ふふふ。はい、ぎゅーっと!」
「くぅ…ううぅ…ぅ…うわぁあああああああん!!」
「ありゃりゃ、散々泣いたって言ってたけどまだ涙は残ってたねー。」
「そりゃそうだろ。まあ、涙流せるってことは優しい奴だってことさ。」
「お、臭いこと言っちゃってー。お兄ちゃんかっこいいー!」
「そういうお前も泣いてるぞ?」
「え? あ、ホントだ。」
「人の為に泣けるのはもっと優しい証拠だな。」
「も、もうっ!」
「ひっく、ぐす…。ちーん!」
「わ! バカ! 俺の服で鼻かんでんな!!」
「あはは! お兄ちゃんぐちゃぐちゃー」
といった感じでリーンは家族になった。それから家事教えつつ、闘い方教えつつ、一緒に遊びつつ、5ヶ月が経ったというわけ。1年周りに人がいなかったというのは相当神経をやられるらしく、その反動というか何と言うか、随分甘えん坊になっている。だから前みたいに、兄妹揃って仕事で家を空ける事は滅多に出来なくなったけど、まあ金は有り余ってるし問題なし。早くもリーン中心の生活になってしまっているが、仕方ないんだろう。子供を持つってこういうことなんだろうから。――別にリーンは子供ってわけじゃないだけどさ。
「リーンちゃーん! まだー?」
そんな事を、リーンの頭を撫でながら長ったらしく考えていたら、入口の方からセシリーの声が聞こえた。その瞬間、気持ち良さそうに撫でられていたリーンが弾かれたように頭を上げる。
「あ、そうだった! ルーを呼びに来たんだった!!」
「あ? 何か用だったのか?」
「おう! ルーもセシリーも今日仕事ないんだろ? だからセシリーがピクニック行こうかって!!」
「ふーん、ピクニックねー。」
「こんな部屋ん中で本読まずにさ、行こうぜ! ピクニック!!」
「はぁ、仕方ねぇなあ。嫌々だが行ってやるよ。」
「ルーの好きなセシリー特製覇王牛サンドウィッチがあるって。」
「なにぃ!? それを早く言え! 先に行ってるぞリーン!!」
「えええ!? 速っ!! ちょ、待って! 置いてくなよルー!!」
こんな感じで語られていく物語。俺達の経営する何でも屋が舞台のドタバタの毎日を、まあ大きな期待はせずに見ていってくれ。
それじゃあ、今日はここまでと致しましょう。
また皆様と会えますように。