婚約破棄、ありがとうございます!妃教育から解放された令嬢は自由な人生を謳歌します!~自分自身で赴きなさい、と使者を突き返しましたら、まさかの陛下がいらっしゃいました!?~
事業を始めて数ヶ月、『ロックウェル社交コンサルティング』は、想像以上の広がりを見せていた。
「先生、隣国から参りました。ぜひ我が国の王太子妃教育にも、お力添えをいただけないかと.......」
異国の言葉が混じる令嬢の依頼に、わたくしは思わず目を見張った。
「あら、随分と遠方からね。国境を越えてまで評判が届いておりますとは、光栄ですこと」
「アデライン先生の名は、既に社交界の外まで轟いておりますわ」
嬉しそうに語る令嬢の隣で、地方から来た男爵令嬢たちも順番待ちの列に並んでいる。
「アデライン様.......実は先日、王都の外れの子爵家からも、正式な依頼が届きましたの」
「あら、随分と手広くなってまいりましたこと。順番にお受けするしかございませんわね」
「予約は来月の分まで既に埋まっております」
「それは随分と嬉しい悲鳴ですこと」
開業当初は王都の令嬢が中心だった顧客層も、今では国境を越え、身分を問わず広がりを見せていた。
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もっとも、評判が広がれば、それを妬む者も現れるのが世の常である。
「アデライン様.......最近、王都に新しい社交指南所ができたそうですわ。しかも、随分と露骨にこちらの手法を真似ているとか.......」
侍女の報告に、わたくしは思わず苦笑した。
「あら、随分と分かりやすい模倣者ですこと。ですが、心配には及びませんわ」
「そのままにしておいてよろしいのですか.......?」
「猿真似では所詮ニセモノ。本質までは真似できませんもの。むしろ、競合が現れるほど、こちらの評判が本物である証ですわ」
「実はその指南所の講師、以前アデライン様が断った、あの妃教育担当官だそうですわ」
「あら、それはそれは.......実に恨みがましいことですことね」
「先方は『本物の妃教育を教える』と喧伝しているようですが……」
「ふふふ、本物というものを口先だけで証明できるものかしら? 結果が全てを語りますわよ」
余裕綽々に告げるわたくしに、侍女は感心したように頷いていた。実際、模倣者の評判は芳しくなく、数週間もしないうちに客足が遠のいたと聞いている。
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そんなある日、事業所に一台の豪奢な馬車が停まった。
「――王家より遣わされました、宮廷侍従長でございます」
仰々しい挨拶とともに現れたのは、王家の紋章を掲げた使者だった。
「アデライン嬢に、陛下より正式な要請がございます。王宮の社交儀礼刷新のため、コンサルティング業務を請け負っていただきたく......」
恭しく差し出された書状を、わたくしは軽く一瞥した。丁寧な文言が並んではいるものの、要するに「困っているから力を貸してほしい」という一方的な要求である。
「あら、随分とご丁寧なお申し出ですこと。ですが.......お断りいたしますわ」
「な……! ? 陛下直々のご依頼ですぞ!」
「陛下直々でしたら、なおのこと、代理の方を寄越すのではなく、ご自身でいらっしゃるべきではございませんこと?」
「そ、それは、陛下は大変ご多忙で……!」
「多忙でいらっしゃるのは重々承知しておりますわ。ですが、多忙を理由に誠意を示さない相手と、お付き合いする義理はございませんの」
わたくしは静かに、しかしはっきりと告げた。
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「あなたたちの主に伝えなさい! 本当に心から来てほしいんだったら、自分自身で赴きなさい、とね!」
会場に凛と響いたその一言に、侍従長は完全に言葉を失った。
「そ、それは.......あまりに畏れ多いことで……」
「畏れ多いも何も、ご依頼は誠意を持ってなさるものですわ。使者を寄越して済ませようとする時点で、その誠意とやらが疑わしいと申し上げているのですけれど?」
「し、しかし、陛下がわざわざ足をお運びになるなど……」
「あら、それができないと仰るなら、それだけの依頼だったということですわ。わたくし、口先だけの誠意には、興味がございませんもの」
きっぱりと言い切るわたくしに、侍従長は狼狽えながら退散していった。呆然と見送る周囲の生徒たちからは、感嘆のため息が漏れている。
「アデライン先生......王家の使者相手に、あそこまで堂々となさるとは……」
「あら、相手が誰であろうと、筋の通らない要求には従いませんもの。それがこの事業の信条ですわ」
胸を張って答えるわたくしに、生徒たちは尊敬の眼差しを向けていた。
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数日後、驚くべき知らせが届いた。
「――まあ、本当にいらっしゃるとはね」
事業所の前に立っていたのは、簡素な旅装に身を包んだ国王陛下その人だった。護衛は最小限、供回りもほとんど連れていない。
「アデライン嬢.......先日の使者の件、大変失礼した。そなたの言う通り、誠意を示すべきは私自身であったな」
「あら、随分と潔くいらっしゃいますこと。それで......本日はどのようなご用件で?」
「王宮の社交儀礼、そして次期妃教育について......そなたの力を借りたい。もちろん、正当な対価は支払わせてもらう」
真摯な態度で告げる陛下に、わたくしはしばし考えた後、静かに口を開いた。
「――条件がございますわ。まず、対価は市場価格の適正な水準で。それから、わたくしの事業を今後王家の権威で不当に圧迫しないこと。最後に――」
「最後に......?」
「ジュリアン殿下の教育方針にも、多少口を挟ませていただきますわ。証拠もなく人を裁くような真似、二度と繰り返させませんもの」
「それは、当然のことだ。息子の失態については、私からも重ねて詫びよう」
きっぱりと告げるわたくしに、陛下は苦笑しながらも深く頷いた。
「随分と手強い交渉相手だ。だが、それだけの実力があるということでもあるのだろうな」
「あら、評価していただけて光栄ですわ。ですが、これだけは申し上げておきますわね。わたくしは、王家の権威に阿るつもりは毛頭ございませんの」
「――承知した。そなたになら、任せられそうだ」
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「――随分と、大きな契約を取り付けましたね」
事業所に戻ったわたくしに、ドミニク様がそう声をかけてきた。
「あら、聞いていらっしゃいましたの?」
「町中の噂になっておりますよ。『妃教育をやめた令嬢が、国王陛下に頭を下げさせた』と」
「ふふふ、随分と大げさな噂ですこと。ですが、悪い響きではございませんわね」
にっこりと微笑むわたくしに、ドミニク様は楽しそうに笑った。
「これで事業はますます盤石になりそうですね」
「ええ。もっとも、王家との契約は、あくまで対等な取引の一つに過ぎませんわ。わたくしの人生の主役は、あくまでわたくし自身ですもの」
「その心意気、実に頼もしい限りです。私も伴走者として負けていられませんね」
「あら、随分と発破をかけてくださいますこと」
「あなたの隣にいるには、それなりの覚悟が必要ですから」
軽口を交わしながらも、わたくしはドミニク様の真剣な眼差しに、少しだけ胸の高鳴りを覚えた。妃教育から解放された先で築き上げた事業は、こうして、国すらも一目置く存在へと成長していったのである。
「――さてさて、次はどんな依頼が舞い込みますかしら?」
不敵な笑みを浮かべるわたくしを、夕暮れの光が優しく照らしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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いよいよ次回が最終章です。ドミニク様との関係の行方と、まだ燻っている妨害者の存在、両方まとめて締めくくりたいと思います。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




