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『Blue Blue Rain』 ――蒼雨の街で、君を抱い

作者: 赤虎鉄馬
掲載日:2026/05/28



摩天楼を包む雨は、いつも青く見えた。


深夜二時。


眠らない街のネオンが、濡れたアスファルトに滲んでいる。


高層ビルの隙間を吹き抜ける風は冷たく、

まるでこの街そのものが、人間の心を拒絶しているみたいだった。


「……本当に行くの?」


女が、小さく呟いた。


俺は煙草を咥えたまま、振り返らない。


「行かなきゃ終わらねぇ。」


「終わらせなくてもいいじゃない……。」


その声は震えていた。


雨のせいか、

それとも涙のせいか。


名前は蒼井レイ。


この街で“夜”を売って生きていた女だ。


そして俺は、

組織の汚れ仕事を請け負う男だった。


出会うはずのない二人。


愛してはいけない二人。


だからこそ、

惹かれたのかもしれない。


初めて会った夜も、雨だった。


古びたバーの片隅。


レイは男に殴られていた。


借金取りだった。


細い肩を掴まれ、

髪を乱され、

それでも彼女は笑っていた。


「平気ですから。」


そんな顔で笑う女ほど、

壊れやすい。


俺は気づけば男を床に沈めていた。


それが始まりだった。


それから俺たちは、

傷を隠すように抱き合った。


レイはよく言っていた。


「この街って、獣ばっかり。」


確かにそうだ。


金。

欲望。

裏切り。

暴力。


誰もが何かを奪い、

何かに怯えている。


愛なんて、

この街じゃ弱点でしかない。


だが――。


それでも、

レイの隣にいる時間だけは、

俺は人間でいられた。


狭い部屋。


古いソファ。


安いコーヒー。


窓を叩く雨音。


そんな何でもない時間が、

どうしようもなく愛しかった。


「ねぇ。」


ある夜、

レイが俺の背中に額を当てながら言った。


「もし普通に出会ってたらさ。」


「……あ?」


「私たち、幸せになれたかな。」


答えられなかった。


普通なんて、

最初から持っていない。


俺たちは、

生まれる時代も、

生き方も、

間違えた人間だった。


だが、

愛してしまった。


それだけは本当だった。


――その日。


組織がレイを狙った。


理由は簡単だ。


“俺の弱点”になったから。


雨の高速道路。


黒いセダン。


響く銃声。


砕け散る窓ガラス。


レイは助手席で震えていた。


「ごめん……。」


俺が呟くと、

彼女は泣きながら笑った。


「バカ……。」


赤信号を突っ切る。


追ってくるヘッドライト。


サイドミラー越しに見える殺意。


もう逃げ切れない。


俺にはわかっていた。


だから、

最後の交差点で車を止めた。


「降りろ。」


「嫌……!」


「行け。」


「一緒に行く!」


俺は初めて、

レイを怒鳴った。


「生きろ!!」


沈黙。


雨音だけが、

世界を埋め尽くす。


レイは唇を震わせながら、

何度も振り返った。


まるで、

見えない絆を確かめるみたいに。


その背中が、

痛いほど愛しかった。


俺は煙草を捨て、

銃を握る。


遠ざかる彼女。


近づく敵の車。


ネオンに滲む青い雨。


――あぁ。


まるで、

お前の涙みたいだな。


「……サヨナラだ。」


それが、

最後の優しさだった。


直後、

夜を裂くように銃声が響いた。




雨は朝まで降り続いていた。

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