第八話 最強とは
ようやく視界が安定し二人の戦いの行方を見ようと正面を向く。
すると、凄まじい魔力の衝突があったにも関わらず戦場に変化は見られなかった。
周りに咲く花や木々は何事も無く、何一つ消える事無くそこにあった。
しかし、戦場にルシファーとクロムがいない。
「クロム、無事か? どこに居るんだ?」
辺りを見回すが二人はどこにも居ない。まさか、衝突に肉体が耐えられず消滅したとか……
「アラン! ここに居るよ。君こそ無事か?」
後ろからクロムの声が聞こえる。
振り返ると、そこには五体満足でしっかりとクロムが立っていた。
「ああ、怪我はないよ。それより、ルシファーはどうなったんだ?」
「やつなら魔界に戻っていったさ」
魔界? なんだそりゃ。
「つまり僕達は生き残ったという事?」
「そうさ、あの状況を皆の力で変えたのさ」
その言葉を聞き、一気に安堵が訪れる。
僕達はあの地獄から生き延びたのだと。
「これは僕の推測になるが、ルシファーは現世にいられる時間が限られていたのだと思う。おそらく、僕達との戦いの中で制限時間が来て魔界に戻されたというわけだ」
難しい話が出る中、クロムは続けた。
「正直、魔界に関する事は僕はあまり詳しくなくてね。ただ、ルシファーの魔力は今のところ感じられないから安心して欲しい」
なんか、クロムの話がよく分からなかったがルシファーとの戦いは終わったんだよな。
「やっと、終わった。良かった、クロムが来てくれて」
「いや、僕だけじゃ耐えきるのは不可能だった。三人が僕を信じてくれたから、この結果があるんだ。改めて礼を、ありがとう」
「ルカと先生はどうしたんだ?」
「二人ならそこの木の下に」
クロムの指を差す方を見ると、二人は木陰で眠っていた。
どうやら、ルシファーとクロムの魔力の衝撃に耐えられなかったみたいだ。それで気絶しているだけらしい。
僕とクロムは二人を抱え、山を下りた。
クロムが言うところでは、この山には結界が張られていて入ることは自由だが出られないようになっているらしい。
すなわち、来るもの拒まず去る者許さずと言った状態だ。
そして、前回見たもう一人の黒い翼を纏った女。ルカを殺し、僕をどん底に追い詰めたあの女はクロムが来る途中に遭遇し倒したようだ。女の実力は未知数だがそんなあっさり倒されていいんだな。
僕は思い切ってクロムに聞いてみる。
「クロム、最強って何だと思う?」
「最強か……それは誰かにとって一番輝いて見えるものじゃないかな」
「一人でもいい、誰かにとって一番だと思ってもらえれば良いんだ」
クロムの回答を聞き、数時間前の最強を気取っていた自分を思い出す。
「そうか、ありがとう。僕は……僕はずっと夢を見ていたようだ。最強だと思い込んでいた自分に自惚れている夢を」
街に到着した僕達。
ルカとユリーナ先生も目を覚まし、健康状態は問題なさそうなのでここで解散する事にした。
「それじゃあ、僕は戻るとするよ。ルシファーと戦った事を報告書にまとめる必要があるからね。改めて後日、騎士団に出向いてもらう事があるかもしれない事は伝えておくよ」
「私も学校に戻りますね。今日あった事を学院に報告するので。明日はお説教ですからね」
説教という言葉を聞き、がっかりしながらも返事をする。
「「はい」」
まあ、人通りの少ない山道を夜に学生二人で歩いていたら怒られるだろう。そういえば、最後にクロムに聞きたいことがあったんだ。
「なあ、クロム。君はこの王国で一番の強さを誇る騎士なのか?」
「いや僕は一番では無いな。王国一の騎士は間違いなくアーサー団長だ」
「アーサー? もしかして、エクスカリバーを振り回してたりするか?」
すると、クロムは驚いた顔で返した。
「どうして団長の使っている剣の名前を知っているんだ? エクスカリバーは一応機密情報なんだがな」
「あ、少し前にアーサーって名乗る人に助けられて、その時エクスカリバーって言ってたから……」
咄嗟に嘘をついてしまった。
本当は前世でプレイしていたゲームで知ったなんて言えない。
「そうなのか。確かに、直近だと南の魔獣の鎮静化の際に出向いていたな」
南の魔獣なんているのか。まだまだ僕の知らない事が多いな。
「じゃあ、僕達も行こうか。ルカ、帰ろうぜ」
「うん。今回は先生とクロムさんに助けられました。ありがとうございました。そして、アランにも助けられた。ありがとう」
僕達は帰路に向かっていた。
さっき、ルカが僕に助けられたって言ってたけど僕は何もしていない。
気を遣って言ってくれたのだろうか。
ならば早めに、僕は最強でも何でもないと伝えるべきだろう。
「なあ、ルカ。話がある」
「何だい? そんなに改まって」
「僕、本当は最強でも何でもないんだ。自惚れてただけの弱い人間だ」
言ってしまった。
どんな、反応をされるだろう。落胆されるだろうか。
「そうなんだね。でも、アランは俺よりもずっと強いよ」
「ルカは俺にがっかりしていないのか?」
すると、ルカは笑って答えた。
「俺はアランがかっこいい人間だと思っているよ」
「僕がかっこいい?」
僕にはルカの言っている事が理解できなかった。最強であると言っておきながら、クロムが来なければ死んでいた僕の事がかっこいい?
「君の選択があったから生き残れたんだ。君は俺にとって……」
ルカは少し考えた後、顔を赤くして続けた。
「まあ、あんま深く考えないでくれ。恥ずかしいからさ」
なんだよ……それ。正直、意味がよく分かんないままだ。けど、僕は失望されてたわけじゃなくて正直、気持ちが少し楽になった。
「ありがとな、ルカ。今は生きて帰れた事を噛み締めようぜ」
「うん」
僕の横を歩く少年は、夜道の寒さを吹き飛ばすような笑顔を見せた。
寮に戻った僕とルカ。夕飯を食堂で食べた後、ルカと別れを告げ部屋に戻った。
「にしても、一日目からここまでの仕打ちを受ける事になるとはな」
僕の勘違いでなければ、既に今日だけで二回も命を落としている。
「でも、僕は生きている。この力が俗にいう天武ってやつなのか?」
ベッドに入り、窓から見える夜空を眺めた。
天武というのは、前世で言うところの特殊能力に当たるものだろう。ゲームとかでいう固有アビリティ的なものでもあるな。
この世界のおよそ三割の人間に天から与えられる武器であり、多種多様の力がある。
本来、天武は生まれつき使えるものと後天的に発現するもので二種類あるようだが、僕の場合だと後者になるのだろうか?
それとも、前者の生まれつきの力として授かっていたがこれまで死んだ事が無かったので分からなかったのか?
「名前、何にするか……死んでも蘇る事の出来る能力だから……黄泉ガエリってのはどうだ」
蘇る・死後の世界である黄泉の国の二つを掛けた黄泉ガエリ。
「これで決まりだな」




