第六話 悪夢は何度でも繰り返される
夕日が見える。
綺麗な夕日に照らされた街が見える。
そして、横から聞き覚えのある声が聞こえる。
「アラン、綺麗でしょ? 俺が偶然見つけたんだ」
「え?」
僕の左にはルカがいた。腹は裂かれていなく、五体満足のルカがいた。
そして、僕の左腕を見るとしっかり腕がついていた。どういうことだ。
まるで時間が戻ったみたいだ。
でも、ルカは覚えていないのか? つまり、僕だけがさっきの記憶を引き継いでいる?
いや、でもそんな事があり得るのか?
いくら異世界とはいえそんなことが……
「どうかしたのかい、アラン? 顔色が悪いよ」
その瞬間、僕は唐突に涙が溢れ始めた。
そして、膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまった。
涙で顔を汚しながら僕はルカに伝える。
「ごめんな、ルカ。守ってあげられなくて。嘘をついちまって」
「何を……言ってるんだい? 嘘? 守ってあげられなかった?」
「何言ってるのか分かんないよな。でも、生きていてくれてありがとう」
僕は精一杯、今の気持ちを伝えた。
「やっと落ち着いたみたいだね」
「ああ、悪い。いきなり変なこと言い出して」
ようやく情緒が落ち着いた僕は状況整理をしてみる。
初めに浮かび上がったのは何といっても、僕がルシファーに負け二人とも殺されたことだ。
僕は最強でもなんでもなかった。
正直、思い出すのさえ苦痛だった。
吐きそうになりながらも考えをまとめる。
今の僕達ではあいつに勝つビジョンが見えない。
ならば、いち早くここから去るべきだという考えに至った。
「ルカ、とりあえずここから離れよう。ここにいては危険だ。ここには危ない動物がいる事を思い出したんだ」
「え、そうなの? 分かった。アランがそこまで言うなら帰ろうか」
ルカが僕を信じてくれて良かった。
しかし、また嘘をついてしまった。でも、今は嘘をついてでも帰らないと……
僕とルカは急ぎ足で山を下りることにした。
日没まで二十五分はある。
これだけあれば、あいつに出くわす前にここを去れるはずだ。
そう思いながら急いだ。
もう三十分は山を下りているはずだ。
僕達の脚力なら二十五分もあれば下山できるはずなのに麓に着かない。
そして、辺りは真っ暗になっている。
あの時と同じように。
不安感がつのる。焦りがでる。
「アラン! 落ち着いて。この山は何かがおかしい。とにかく、落ち着かないと」
「ああ、落ち着いているさ。だから、急いで山を下りよう」
もうあんな事は繰り返したくない。
その思いで必死だった。
ドンッ
何かにぶつかった。そして、同時に体が震えた。
「君達、ここで何をしているんだ?」
目の前に立っていたのは紛れもなくルシファーだった。
僕は焦りながらも、ルカと共に夕日を見に来たことを伝えた。
そして、山から下りれないから助けて欲しいと。
しかし、結果は同じだった。
「夕日を見に来たために、死ぬこととなるとは哀れだな」
またあのセリフを聞いた。ルカは困惑していた。一方で、僕は焦っていた。ルカに伝えなくては攻撃が来ると。
「ルカ! 下がれ!」
その言葉を聞いたルカと僕は全力で後ろに下がった。
同タイミングにルシファーからの攻撃が迫る。
しかし、今回はルカも攻撃を避けれた。
一時の安堵。
だが、たった一回の攻撃を避けたに過ぎない。
この後はどうするべきか。
迷いを隠せずにいると、追撃がきた。
僕が一歩前に出て、ルカの分まで剣で攻撃を受ける。
なんとか、この追撃も凌いだが状況は変わらない。
「ルカ、僕が時間を稼ぐから先に行くんだ」
「それで可能なら一緒に戦ってくれる人を連れてきてくれ」
「アランは一人で大丈夫なのか?」
「ああ。凌いでみせるよ」
「分かった。でも、無茶はするなよ」
そう言って、道を全速力で走っていくルカ。
これで僕は時間稼ぎに集中すればいい。
「ふん、くだらない事を。あのガキが行ったところで何も変わらんぞ」
その言葉に少し気持ちが揺らぐ。しかし、友達を信じて気を持ち直す。
「必ずルカは連れてくる。お前を倒せる人を」
今はルカを信じることしか出来ない。
そこからは必死に剣を振って抵抗をした。
体が傷だらけになりながらも戦った。
やはり、こいつは強い。
果たして、この世界でルシファーに勝てる者がいるのかという次元の話。
「お待たせいたしました」
その時だった、後ろから声がした。
聞きなれない声だったが、きっとルカが連れてきた助っ人の声だろうと思った。
そう思い見ると、そこにはルカの首を持った黒い翼を背に纏う女がいた。
そう、手には血まみれのルカの頭があったのだ。
僕は混乱した。
敵は一人では無かったと。
そして、ルカが死んだという事実。
「うああぁぁ――――」
僕は絶望した。剣を手放し地面に座り込む。
そこにルシファーがやってきて僕の首をはねた。
再び見覚えのある夕日が映し出される。
そう、僕はまた戻ってきたのだ。
横にはルカもいる。
ひとまずの安心。
しかし、安堵などしてはいられない。
敵は一人では無かった。
つまり、僕が時間を稼ぐ作戦は不可能になってしまったのだ。
焦りの中、僕は時間が戻っていることをルカに告げる事にした。
これで作戦を考えやすくなると思った。
「ルカ、聞いてくれ。僕はすでに二回もある男に殺されているんだ。僕が死ぬことで時間が戻っ、ガハッ」
その時、口の中が血の味で染まった。そして、視界がぼやける。
「アラン? しっかりして。大丈夫か?」
ルカに介抱してもらい、地面に座り込んだ。そして、血を含んだ咳をした。おそらく、喉から出血したのだろう。しかし、なぜこのタイミングなんだ。
出血が落ち着き、視界も安定した。
「ルカ、時間が無いから聞いてくれ。僕が死ぬことで……」
再び視界がぼやける。喉が熱くなる。話すのをやめ、ゆっくりと呼吸をした。
「どうしたんだ、アラン?」
僕はようやく理解した。喉からの出血のせいで、時間が戻っている事を説明できないようになっている。
「悪い。少し疲れてるみたいだ。今はここから早く帰ろう」
「ああ、そうだね。アランも初めての学院だったし疲れているよね。帰ろう」
その時、一つの考えが浮かんだ。
空を飛んで街まで行けばいいと。
僕なら本気を出せば、ルカを抱えても飛んでいける。
「ルカ、空を飛んで街まで戻ろう」
「その案は良いと思うけど、ごめん。俺はまだ浮遊魔法が使えないんだ」
「僕がルカも連れていくよ」
「分かった。でも、どうしてここを離れようとしているんだい? 何か嫌な事でもあった?」
「ああ、ここに居ると危険な奴に襲われちまうんだ。だから、早く離れた方が良い」
「少し、失礼するよ」
そう言ってルカを持ち上げお姫様抱っこのような形になった。
「なんか恥ずかしいな、これ。あと、アランは俺を背負っても飛べるのかい?」
「ああ、それくらいなら出来る」
「流石、最強だね」
最強という言葉を聞いて気持ちが曇る。
「いや、俺は最強では……」
こんな事を話している場合じゃない。
「とりあえず、ここを出よう。寮に戻ったら話すよ」
空を飛び街へ向かって加速していく。
これなら戻れると思った瞬間だった。
突如、正面に魔力を感じ止まる。
そして、空をよく見るとそこには魔力で練られた網のようなものが張ってあった。
引っ張ったり、攻撃を加えても破れる事は無かった。
「なんだよ、これ。これじゃあ、空からも出られないのかよ」
ひとまず僕達は、下に降りた。
そこで、ルシファーと対抗するすべを考え始めた。ルカにはとりあえず、危険な人物が居るんだと伝えた。
正面から戦っても勝ち目は無いし、逃げることも出来ない。
では、どうするべきか。
そのときルカが提案した。
「助けを呼ぶのはどうかな。魔法で助けを知らせる合図を街に向かって飛ばして、それで助けに来てもらうとか」
「やれることはやっとくか」
僕は魔法を唱え、街に向かって飛ばした。少しの期待を込めて。
「後は知ってる人に魔印で連絡を取るとか?」
魔印とは、お互いに契約を交わしたもの同士が一定の距離なら連絡を取り合えるというものだ。ただし、難易度の高い魔法であるため簡単に使うことは出来ない。
前世にあった物で例えると、スマホで電話をするみたいな感じだな。
「誰かこの近くで契約をしている人はいるか?」
「うーん。いないかも、ごめん」
「僕もいないな。困った」
この案もダメか。なにか、他の案を……
その時、ルカが手を叩いて僕を見た。
「いや、一人いる。俺もアランも契約を結んでいる人が」




