第五話 夢の終わり
「着いたよ。ここから街を見てみて」
そう言われ、僕は街を見る。
すると、立ち並ぶ建物や人々が夕日に照らされ、綺麗に映っていた。
僕達は学院の傍にある山に訪れていた。山の入り口が道のはずれにあるため、知る人ぞ知る秘境になっているようだ。
「なるほどな。確かに綺麗だ。これは、人に見せたくなるな」
「綺麗だよね。この辺りを学校終わりに歩いていて、偶然見つけたんだ」
「奇跡もあるもんだな」
二人で夕日が沈むまで眺めていた。
それは、帰り道のことだった。
すっかり日も落ち、山の上からの景色を眺め終え山を下りている僕達。
そんな、僕らの前にそいつは現れた。
「君達、止まりなさい」
背後からの突然の忠告に驚く僕とルカ。
その忠告の声は男性の低い声だった。
振り返り、声の主を見ると五十代ぐらいのスーツを着た渋めの男がこちらを見ていた。
「日が落ちているのにも関わらず、何をしているのだ? こんな所で」
「僕達は、夕日を見に来ていたんです」
「俺が見つけた場所で、ここから二十分ぐらいの場所です」
「そうか、夕日を見に来ていたのだな」
まあ、確かにここは街から少し離れたあまり人が来なさそうな山だから怪しまれるよな。
でも、このダンディーなおじさまも何でこんな所にいるのだろう。
「夕日を見に来たために、死ぬこととなるとは哀れだな」
「「はい?」」
僕とルカは言っている意味が分からなかった。
しかし、次の瞬間全てを理解する。
「死ね」
その言葉とともに、剣が振りかかる。
僕は咄嗟に一歩後ろに下がる。
そして、剣を抜きルカと共に構えに入ったつもりだったが、横にいたルカは胸を切られ血まみれになりながらしゃがみこんでいた。
「大丈夫か! ルカ!」
「平気だよ。傷は浅いから。大丈夫」
ルカは引きつった笑顔を見せた。
僕の心に怒りがこみ上げる。
「ルカに何するんだ! お前は何者だ」
アランは剣にありったけの魔力を込め、男に叩き込んだ。
しかし、その剣を受けきる男。
そして、アランは腹に蹴りを浴びてしまう。
「私が何者か。私は……地獄の王・サタン。またの名、ルシファーだ」
「地獄の王? 何を言って」
ルシファーと名乗る男の魔力を見てみる。
すると、今までに見たことないドス黒い魔力を放っていた。
全身から汗が出るほどの圧倒的「悪」を感じた。
「なんで、地獄の王がこんな所にいるのさ」
「私がここにいる理由はお前達が知る必要など無い。そして、お前達は私にここで出会ったからには死んでもらう」
そう言うと、ルシファーの剣に魔力が込み上がっていく。そして、魔力が貯めこまれた剣が襲い来る。
アランはルカを守るための剣を振るう。
二つの剣がぶつかり、空気がどよめく。互いの魔力が衝突しあうがアランは押されていた。
ありえない……
僕の十五年の努力を否定するかのように、徐々に剣が迫りくる。
「負けられるか!」
剣に全ての体重を乗せ、なんとか立て直す。そして、アランは一歩後ろに下がって攻撃を回避し、体制を整えた。
反撃に転ずるべく剣技を放つ。
「剣技 レクイエム・ガンマバースト」
剣先をルシファーに向け、魔力をぶち込むが……
「良い剣技だ。私も一つ見せてやろう」
「剣技 傲慢なる剣」
ルシファーの剣からは黒い渦が解き放たれ、渦がルシファーの周りを泳いでいる。
黒い渦はまるで恐怖を体現しているようだった。
ルシファーから放たれた剣技がアランの剣技と衝突を開始した。
最初の数秒こそ拮抗しているように見えた。だが、拮抗という言葉を使うには、あまりにも無粋なものだった。
そして、凄まじい音とともに正面からアランへと黒い閃光が飛んでくる。
閃光はアランの左腕を吹き飛ばした。左腕が吹き飛び、切断面から血が溢れ出す。
一気に痛みが訪れパニックに陥ったアラン。
「痛い……痛すぎる、なんだよこれ」
なんとか回復魔法で左腕の痛みと出血を止めようとするも、ルシファーが追撃を加えようと迫っていた。
反撃に対応しなければならない。しかし、左腕も治さなくてはならない。
選択に迫られる。
そこに、一人の少年が立ち上がった。
「アラン、君は最強なんだろ。地獄の王なんかに負けるな!」
アランの前に立ったルカ。血で汚れた制服を纏い、友達の為に剣を握っている。
「ルカ、やめろ! 下がれ!」
ルシファーの攻撃からアランを守るために盾となるルカ。
「うぉ――――」
必死の咆哮。ルカはルシファーに剣を振り下ろすが、がら空きになった腹を真っ二つに切られ悲鳴を上げる。
「うあああ――」
切断面がアランの視界に映る。それは今までに経験の無いものだった。
そのまま上半身を剣で刺され、空中に宙吊りとなった。下半身は地面に倒れている。
その時、僕はルシファーの震える足を見た。そこに笑い声が聞こえてくる。
この状況でルシファーは笑っているのだ。
意味が分からない。
僕は完全に動けずにいた。
ルカは痛みの余りかこの世の声とは思えない声を上げていた。
「うぅぅー あぁぁー」
この世の物とは思えない声で聞きたくなかった。耳を塞ぎたかった。
でも、耳を塞ぐ腕も片方しかなかった。
僕は絶望していた。
しかし、頭の中によぎる。
先ほどのルカの言葉が……
「君は最強なんだろ」
彼の友達に対しての願いが響き渡る。
僕は震える足をどうにか動かし立ち上がる。
こうなったら、僕の最終兵器ともいえる絶対奥義をルシファーの心臓に打ち込む。
そしてこの戦いを終わらせる。
「ルカ、お前に嘘はつきたくない。僕はこいつを倒し天下無双の最強だと証明してやる。天下無双の僕がいくぞ、ルカ!」
自身の中に残る魔力の全てを剣に注ぎ込む。
そして、唱えた。
「絶対奥義 ザ・レクイエム」
ルカを地面に叩きつけ、血まみれになった剣を再びアランの方へ向けるルシファー。
「絶対奥義か。私に向けるにふさわしい技と言えよう。ならば、私も対抗しよう。それでな」
ルシファーは自身の剣を胸の前に掲げると、剣が黒く光りだす。
「絶対奥義 裁きの咆哮」
剣を後ろに構えると一気に突き出した。すると、剣先から魔力が放射線状に弾ける。
アランの絶対奥義と衝突し、押し合いが起きる。
僕はありったけの力を込めた。体内の魔力が減っていくのが感じられる。剣が悲鳴を上げているのも分かった。
あと少し、もう少しだけ、僕の力とルシファーの力に耐えてくれ!
必死に願う。
もはや、願うことしか出来なかった。
ルカが生きていて欲しい事。
ルシファーに勝ちたいという事。
友達に嘘をつきたくないと。
「うあああー」
全身全霊の願いの咆哮。
ピキッッ
その瞬間、アランの剣は砕け散った。
そして、アランの右半身を吹き飛ばした。
僕は倒れこんだ。
地面に顔がドスッとつき頬に痛みが走る。正面を見た。
そこには、涙を流し絶望した顔のルカがあった。
「ご、ごめ、ん、なさい ル、カ」
ルカに嘘をついてしまった。最強であると。
守れなかった……
そこで僕の意識は消えた。




