第十二話 決着
俺は昔から体が頑丈だった。今でもそれが強みだと自覚している。
しかし、今この戦いで己の弱さを自覚した。目の前に立つ少年は、弱気で下手に出るようなとても強い剣士には見えない。だがしかし、勝てないのだ。
剣士になると覚悟を決めた十歳の冬、あの日からの努力が自分に力を貸してくれない。
「はは、まだやれっかよ。そうか……」
剣を地面に突き刺し、バランスを取る。肩で息を吸うぐらいには、追い込まれている。
一方でアランは、複数の箇所から出血をしていて顔も疲れているように見えた。
「いくぞ、ヒナタ。お前をぶっ倒す」
アランは剣を両手で持つと、右足で力いっぱい地面を蹴り加速した。
今のアランは、躊躇う事を知らない。ひたすら勝ちに貪欲な剣士と化した。
「剣技 レクイエム・ジェノ」
紅い魔力がアランの剣を渦巻く。そして、魔力は剣と融合し木剣の刀身を紅くさせた。
「剣技 クレッセント・ナロー」
ヒナタも力を振り絞り、剣を振るう。迫りくるアランの迫力に押されないように、持ちうる全ての魔力を剣に込めた。
ヒナタの木剣が黄色く染まる。そして、三日月を描きアランに迫る。
「「うぉぉぉぉ」」
両者の咆哮が路地に響く。それぞれの全身全霊の一撃が衝突する。
剣と剣が衝突し鈍い音が鳴った。お互い、全体重を乗せて剣を強く押し込んでいる。
しかし、互いの剣に違いがあった。その違いとは、ヒナタの木剣にひびが入っているのだ。
だが、ヒナタはそれを理解した上で剣を強く押し込んでいた。
「くっそ。まだだ。まだ、耐えてくれ」
焦りの表情を見せながら、剣の柄を強く握る。
ピキッ
ひびが進行する音が鳴った。しかし、音の発生源はヒナタのひびでなく、アランの木剣だった。
二人の剣は、限界を迎えようとしていた。それでも、どちらも負ける事を想定していない。
両者とも自分が勝つと信じてやまないのだ。
バキッ
その時、一方の剣が限界を迎え無慈悲な音と共に折れた。
「勝った」
ヒナタの剣が折れ、刀身が地面に落ちた。そして、アランの剣はひびだらけでありながらも、原型をとどめている。
「アランの勝利」
審判のホタルがアランの勝利を宣言した。
それと、同時にアランの元へ駆け寄るルカとシノーペ。
「やったね。アラン」
「アラン君、怪我は大丈夫ですか?」
二人に介抱されて、ゆっくりと地面に座り込んだ。
そこにやってくるヒナタ。
「完敗だ。俺はお前を認める。よろしくな、アラン」
そう言うとヒナタは、手を差し伸べた。
「ああ、よろしく。ヒナタ」
本気の決闘を経て、認めた者と認められた者の握手が交わされた。
「改めて、私の名前はホタル。お友達としてよろしくお願いします」
肩まで掛かっている茶髪の髪をなびかせ、きりっとした目をこちらに向けた。
「僕の名前はアラン・ランドール。こちらこそよろしく、ホタル」
ホタルとも握手を交わすと、ヒナタを見た。
「ヒナタ、君のおかげで僕の迷いも消えたよ。僕のやるべきことが見えた。ありがとう」
「はっ、それは良かったぜ。今のお前なら頼りがいがありそうだ」
アランは唇を少し噛むと、深く一呼吸して言った。
「僕のやるべきことは学院に潜むピエロを倒す事なんだ。でも、はっきり言って僕一人じゃどうしようもない。だから、皆にも手伝ってほしい」
深く頭を下げたアラン。そこには、これから成さなければならない使命も含めた全てが乗っかっていた。
「頭を上げてよ、アラン」
優しい声を掛けたルカ。
その言葉を聞いて頭をあげたアランの前には、皆がいた。
「昨日はアランに助けられたんだ。次は俺が手助けしたい。ぜひ、協力させてくれ」
「手伝います。だって、私はアラン君の友達ですから」
「俺も手伝うぜ。友達だろ?」
「そこまで深く頭を下げられて断れるはずありませんわ。友達として手を貸しますわ」
「皆……」
僕はこの世界に生まれて、いや前世も含めて初めて友達がこんなに素敵なものなんだと気付かされたよ。
「ありがとう。本当にありがとう」
ヒナタとの決闘から一日が経った。今、僕達は学院の中庭に集まり、作戦会議をしていた。
「まずは、ピエロっていったい何なの? それが分からないと作戦も立てづらいし」
「今度、決闘をする約束をしているんだが、その時にピエロの姿をした殺人鬼が現れるという情報を掴んだ」
「なるほど。それで、決闘までにピエロという脅威を排除したいということですわね」
「まあ、そういうところだ。信じるか信じないかは、皆次第だけれど……」
皆は困惑して少しの間の沈黙が起きた。しかし、沈黙を破るようのヒナタが口を開いた。
「友達の言う事を信じなくてどうする。俺は信じるぜ」
その言葉に皆は納得し、頷いた。
「ありがとう。さっそくだけど、今日は情報収集をしたいと思う。皆の知り合いにピエロについて知らないか聞き込みをお願いしたいです」
「なるほどな、確かにまずは情報からだな」
「そうですわね。情報を集めてその後に対策を練りましょう」
「私も、周りの子に聞き込みしてみます」
皆の意気込みは聞けた。
「よし、頑張ろう!」
知り合いに聞き込みと言ったものの、僕は転入してすぐなのでルカ達以外に聞き込みをできるような友達がいない。
そして、ルカも僕達以外に友達がいないみたいだ。
結論、僕とルカはすることが無かった。
「あのさー、ルカ。ロベリアに聞いてみるのはどう? あの人ぐらいしか、僕が聞けるような人いないよ」
「うーん、決闘を延期させたから話しかけにいくのは気まずい気がするけど」
「そうだな」
「ならさ、とりあえず図書館の学院記録でも見てピエロに関する情報がないか探ってみよう」
ルカの提案に僕は納得をした。今できる事を最大限やるしかないな。
学院の図書館には百三十万冊もの本や資料がある。
ここなら、何か情報が得られるかもと期待していいだろう。
「僕はこっちの方の資料を調べるから」
「分かった。それなら、俺は左側の資料を見てみるよ」
二人でこの広い図書館を分担して見てみることにした。
しかし、広すぎて全部を見るのはまず無理だ。
そもそもあのピエロは、学院の関係者なのだろうか。それとも、侵入者だったりするのか。
「ピエロに関する情報が……無さすぎる」
「何が無いの?」
僕の独り言に対し、返答が来た。
横を見ると、眼鏡をかけた黒髪の女の子が立っていた。
「うわ、びっくりした! いつからいたんだ?」
「ついさっきだよ。それより、何が無いの?」
「情報さ。ピエロに関する」
「ピエロ? ぼくは知らないなー」
一人称が、僕と同じだ。珍しい。
「そうか……ありがとう」
「なんか、ピエロは武器を持ってたりした?」
「武器か……あ、そういえば短剣を持っていたな」
そうだ。僕は重要な事を忘れていた。
ピエロの投げた短剣は、とても強い麻痺効果のようなものがあった。
まずは、この短剣を調べるべきだな。
「ありがとう。調べるべき事が見つかった!」
横を見ると、そこには眼鏡をかけた少女は居なかった。
僕はルカと共に短剣に関する情報を調べた。
「あったよ、アラン。短剣の記録本」
ルカから渡された本を手に取り、開いてみる。
「麻痺効果のある剣……あった」
そのページの短剣に関する項目を見てみる。
小剣の形状や色合いは正直、ほとんど分からない。
でも、剣に付与された麻痺効果は強力だと分かる。
そこから逆算して……
「これが、一番麻痺効果の強い短剣になるな」
その剣はダーク・プラズムという小剣だった。
強い麻痺効果があるが、作られてから半月ほどしか麻痺効果が剣に付属しなく、情報を見た感じ手に入れるのは難しいみたいだ。
ただ、ラインブルク王国の北にある貧民街で製造され、闇取引などで出回っている事が分かった。
つまり、ピエロは王国の北にある貧民街に最近、行っている可能性が高いという事だな。
「調べた感じだと、解毒の回復魔法でもなかなか治せないみたいだね。でも、どうしてアランは麻痺効果のある短剣なんて調べたんだい?」
「ピエロは短剣を持っていたんだ」
「なるほどね。他にアランの手に入れた情報はあるかい?」
「うーん。無いと思う。正直な話、情報が少なくて困っているんだ」
僕は苦笑いをした。




