第十一話 衝突
なにやら、話し声がする。
怯えながら目を開けると、そこにはルカとシノーペ、ヒナタと名乗っていた少年に、知らない少女が僕の前で会話をしていた。
僕はベッドの上に横になっており、周りを見渡すが知らない場所だった。
「僕は死んでいないのか?」
すると、その言葉を聞いたルカがこちらに近づき言った。
「何言ってるんだい。アラン、君はしっかり生きているよ」
窓を見ると夕日がきれいに僕を照らしていた。
僕は死んでいない。
なぜなら、ピエロに殺された時と違い、昼休みの時間に戻ってきていないのだから。
「確か僕はルカとラプラスっていう男の演説を聞いていたはずでは?」
その問いにはシノーペが答えた。
「はい、二人が演説を聞いて洗脳状態だったところをヒナタ君が助け出してくれたんですよ」
「洗脳状態?」
次は見知らぬ少女が答えた。
「あの演説をしていた広場には魔力結界が張られていて、一定期間結界内にいると洗脳状態になるのよ」
「つまり、僕とルカは演説を聞いたせいで洗脳状態になった。そこを、君が助けてくれたということか?」
ヒナタと名乗っていた少年の方を見る。
「ああ、まあな。一応、俺がそこに割って入って助けたっていう形にはなるな」
「そうなのか……」
「でも、なんで俺とルカを助けたんだ?」
シノーペが一歩前にでる。
「私、アラン君のことが不安でお友達のホタルとヒナタ君についてきて貰って勝手に後ろから見ていたんです。勝手な事をして、ごめんなさい」
「後ろから? なんでそんな事をしたんだ? 僕なんかの事を」
すると、シノーペは顔を赤らめて恥ずかしそうに言った。
「それは、その……」
そこに、ホタルが割って入った。
「とにかく、あなたの事が心配だったのよ。それで、後を付けてたわけ。私達はなにか企んでいたりしないわよ」
「そ、そうです! 心配だったんです!」
シノーペはそう言うと一歩下がった。
「そうなんだな。深く説明を求めてしまってごめん」
「気にしないでください。アラン君にとって、分からないことだらけだと思うので何でも聞いてくださいね」
「大体状況は掴めたって言いたいんだが……もう一つ聞かせてくれ。ここはどこなんだ?」
「そうですよね、その説明も必要でした。ここは私のおばあちゃんの家です。広場から近かったので、ここに連れてきました」
「そうか……本当にそこまで世話を焼いてくれてありがとう」
「気にしないでください! 友達なんですから」
ひとまず僕の疑問は全て解消された。しかし、僕はなんて情けないのだろう。一人では何も出来なくて周りの人に支えてもらわなければ、生きていけないなんて。十五年も努力したのに笑えてくる。
その時、ヒナタが僕の方へ歩み寄った。
「アラン、俺と決闘をしろ」
「俺はなよなよしてるやつが嫌いだ。常に何かに対して申し訳なさを感じて、弱気で下手に出てるやつが好きじゃない」
それは、きっと僕の事を言っているのだろう。周りに頼ることしか出来ない僕の事を。
「この決闘で俺に負けたら、俺はお前を一生認めない」
落ち込む僕の心なんかお構いなしに、決闘を挑んできたヒナタ。
「悪い。僕は今、戦う気分じゃないんだ」
その言葉を聞いたヒナタは、怒りの表情を見せた。
「戦いってのは、気分でするもんじゃねえ。何かの為に戦うんだろ!」
「誰かの願いの為、誰かとの約束の為、いや己の為でもいい。今のお前は剣士の矜持の為に戦わなくちゃいけないだろ!」
ヒナタは声を震わせ、僕に問いかけた。剣士の矜持……
そうだ。僕は剣士なんだ。僕にはここで剣を取り、戦う義務がある。
僕の為、自分の為に戦えばいい。
その時、僕の中の何かが吹っ切れた。
「やってやる。認めさせてやるよ」
僕達は家を出て、路地裏の開けた場所へと戦いのステージを移した。
「本物の剣ではなく、木剣を使用した決闘を行う。先に降参した方が負けな」
「それと、言っておくが手加減するつもりはない」
「ああ、こっちも本気でいくさ」
互いに剣を構える。僕の持つ剣とヒナタの剣が睨み合い、それぞれの剣の主を奮い立たせた。
「それでは、始めます」
勝敗の判断をするのはホタルだ。彼女の合図で決闘が始まる。
「よーい、始め」
決闘開始の合図が出た。アランは両足で地面を蹴り、ヒナタに急接近する。それに対し、ヒナタは僕のスタートダッシュに追い付けていなかった。
「剣技 レクイエム・バースト」
この剣技はレクイエム・ガンマバーストの下位互換となる。主に、火力の面が劣っていると言える。
しかし、一つだけガンマバーストよりも優れている点がある。それは速度という点。
スタートダッシュでヒナタに勝っているアランは、この点を踏まえてレクイエム・バーストを選択した。
初撃となるこの一振りで決着をつける。そのための剣技だ。
「剣技 シード・イージス」
ヒナタが発動したのは防御系剣技。その剣技はアランの剣技を受けきるのに十分だった。
互いの魔力の籠った剣が衝突し、空気を揺るがす。両者の剣は互いの矜持を乗せて強い衝撃を生み出した。
そんな中、拮抗を破ったのはヒナタだった。彼の盾となった剣がアランの攻撃を上回り、攻撃の隙を作った。
その隙を見逃さずヒナタは、アランの左脇腹に蹴りを浴びせた。
「ぐはっ」
剣に魔力のリソースを割いていたアランは不意打ちを食らい、壁へと吹っ飛んだ。ヒナタの蹴りを受けるには、不十分の守りだった。
壁に衝突し、しゃがみ込むアラン。右の頬には、かすり傷を負っている。
壁まで追い込まれた上、傷も負い逃げ場のない彼だったがそこには笑みがあった。
「どうした、アラン。なぜ笑う?」
「ああ、なんで笑ってんだろうな。分かんないな。それに不思議な感覚だ。全く痛みを感じない。今なら、なんでも出来そうだ」
そう言うとアランは立ち上がり、剣を構え直した。彼を何がそこまで震え立たせているのかは分からない。だがしかし、剣士としての矜持……否……それ以上の強い想いが彼を立たせている。それだけは理解できた。
「次は俺から行くぜ。ぶっ飛ばさせてもらう」
ヒナタは剣の柄を強く握り、走り始めた。そして、強く踏み込み飛び上がる。
「剣技 クレッセント・ナロー」
剣を体の後ろまで移動させ、凄まじい速度で正面にスライドさせた。それは、まるで三日月を描くかのような斬撃の形だった。
一方でアランは、剣を構えたまま動かない。ただひたすらにヒナタの剣を見ていた。
「これで終わりだ!」
ヒナタは勝利を確信し、剣を振り下ろすが……
アランの右肩に当たる直前で、ヒナタの視界からアランが消えたのだ。
「剣技 レクイエム・バースト」
その時、横から再び速度に特化した剣技が放たれた。
しかし、ヒナタは攻撃をなんとか木剣で受けることに成功し、後ろに数メートル下がる程度まで威力を殺した。
「アラン、さっきの攻撃は避けきれていなかったぜ。お前の右腕に俺の剣技は当たっていたんだ。なんせ、右腕から出血しているからな」
この戦いを見届けていたルカ・シノーペ・ホタル。三人はアランの方を見てようやく気付いた。彼の右の二の腕に傷があったのだ。
そして、先ほどまでアランが立っていた場所を見るとそこには血痕があった。血痕は今、アランが立っている場所まで薄く続いていた。
「なるほど。ヒナタはアラン君から出た血を頼りに、移動先を特定したのね。だから、彼の攻撃を受けきれた」
ホタルの考察通り、ヒナタはアランの空中に浮いていた血を頼りに居場所を特定していた。それは、極限の集中力を要する業だ。
「アラン、血が出ている。無理は……」
「大丈夫だ、ルカ。まだいける。ここからなんだ」
ルカの心配を受け止めながらも、戦いを続行することを選んだアラン。




