第十話 勇気の少年
僕は必死に体調が悪いと嘘をついて決闘を延期するように頼んだ。
ルカも僕の事を気遣って、説得に協力してくれた。
その結果、ロベリアは嫌々延期を受け入れた。結局、一週間後に決闘を延期する事に成功した。
「ルカ、助かった。協力してくれてありがとう」
「いいんだよ。気にしないで」
僕は強引に一つ危機を回避した。その事に安堵したもののロベリアには、申し訳なさを感じていた。
「あのー、アラン君。久しぶりだね」
廊下に居た僕達の後ろから声がした。
次は誰だ?
振り返るとそこには昨日の朝、汽車で僕が助けようとしたシノーペが立っていた。
「こっちは、僕の友達のルカ」
「ルカ・エゼキエルです。シノーペ、よろしくね」
「はい! ルカ君ですね。よろしくお願いします」
シノーペが僕の所へ来たのだ。
理由は、学院生活が上手くいっているか様子を見に来たといったところだろう。
「アラン君、元気が無いように見えますけど大丈夫ですか?」
「ああ、そうかな? まあ、少し疲れてるかもしれないな」
「無理はいけないですよ。適度な休息が大切です」
「ああ、休めるときは休むようにするよ」
「約束ですよ」
シノーペは小指を僕の前に見せた。それに応えるように僕も小指を出して、指切りをした。
「それと、最近流行りの噂になるのですがピエロの仮面を付けた長身の男が学院にいるらしいんです」
そいつはまさに、俺をさっき殺した相手じゃないか。
「この話の怖い所は、ピエロの男に傷を付けられる生徒が続出している所なんですよね。短剣を持って、目で捉えきれない速度で切りつけていくようです」
「そのピエロは傷を付けるだけで、殺してはいないのか?」
「今のところはピエロの男に殺されてしまった人はいないですね」
「そうか……」
アランの異常な話の食いつきに気づいたルカ。
「アランはこの話を知っていたのかい?」
「いや、初めて聞いたし出会ったことも無い。って言いたいんだが、実はピエロの仮面を付けた男に会った事があるんだ」
「傷はつけられました?」
シノーペは心配そうな顔をして僕を見ている。本当なら殺されたって答えたいが、多分無駄だろう。
「いや、特に危害は無かったよ」
午後の授業も終わり、二日目も終わりを迎えた。まさか、今日も死ぬことになるとは考えもしなかった。
黄泉ガエリという力が無ければ、とっくに僕の人生は終わっていたという事実には目を背けたくても背むけることが出来ない。
「今日はまっすぐ帰る?」
「ああ、ユリーナ先生に叱られたばかりだからな」
僕とルカは授業が終わり、学院を後にした。これ以上、厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
しかし、現実とは自分の思い描く理想通りになるわけでは無い。
学院から少し離れた広場で人がたくさん集まっている。
興味本位で僕とルカは、広場へ向かった。
「ストップです。皆さんストップなのです!」
高台の上から、きれいな青髪で眼鏡をつけた男が声を張り上げて言った。
「この演説を聞いてくださっている皆さんだけでなく、後ろの聞き耳を立てながら歩いている皆さんもストップです」
僕も含まれているであろう人だかりの方を指さし、笑顔でこちらを見つめている。
この男は宣教師か政治家の人なんだろうか。
話を無視して進もうとしたが、少し気になりもしたので聞いてみることにする。
「私は考えたのです。このラインブルク王国をよりよくする方法を。皆さん、拍手をお願いします!」
この演説を聞いていた人々から拍手と歓声が巻き起こる。
ルカも拍手をしていた。
僕も拍手をしたい気持ちになったがギリギリで踏みとどまった。
「その方法とはズバリ、民の選別です! 素晴らしいでしょう!」
「は?」
言っている意味が分からなかった。
選別? どういうことだ。
どういった基準で民を分けるんだ?
気づいたら僕は、話に夢中になっていた。
「では、具体的な選別方法なのですが、それはずばり天武の有無です!」
「天武があれば、ある程度の魔獣や魔界の人間とも戦うことが出来ます。しかし、能力を持たないものはそれらの敵に抵抗することが出来ません」
「つまり、はい、ゴミ。ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミなのですよ。天武を持たない者は」
確かにそうだ。
この世界は理不尽だ。
才能のある人間が結局、世界を動かしたりする。
つまり、才能の無い者は指を咥えて見ていることしか出来ない。
「ならば選別後、ゴミはどうなるのか?」
「それは簡単な話です。死が待っています」
突然の発言にどよめきが起きる。
しかし、高台の上に立つ男が手を叩いたことで静まった。
「皆さんが驚くのも無理はないでしょう。しかし、ご安心を。私の考えはこうです」
「ゴミにも救済という考えを持っています。ゴミは、ただ死を待つのではなく天武を持つ者に数の暴力で抵抗してもらいます」
「つまり、これは戦争なのです。ゴミの皆さんは、今の内から天武を持つ才能のある人間を減らしておくことをお勧めします」
そう言い、指をさす男。
その方向には縄で縛られている王国の騎士が二人。
騎士の二人の前には、才を持つ者と書かれた看板が立っていた。
証拠は無い。
しかし、天武を持つ者なのだろう。そんな気がする。
「助けてくれ! 俺たちは民を守る騎士なんだ」
必死に主張を繰り返す騎士だったが、演説を聞いた者にはその主張が届くことは無かった。
「そうだな、ゴミの俺達は才能を持つ人間を一人でも多く殺しておくべきだ」
魚屋の店主がそう言うと、他の演説を聞いていた者も声を上げ、捕まっている騎士に迫っていった。
僕とルカも騎士を殺そう、そう思っていた。
「皆さん、頑張ってください! 私、ラプラス・シーモンが支援しますから!」
ラプラスと名乗るその男によって、市民が動かされようとした瞬間だった。
「ちょっと待てー!」
そう言うと、騎士と市民の間に立ち塞がった黄色髪の少年がいた。
「俺はラインブルク修剣学院の一年 ヒナタ・カルデラントだ」
学院の一年? 何をしようとしているんだ。
「なぜ、俺たちを守ってくれている騎士に攻撃しようとするんだ! そんなの間違っている!」
すると、ラプラスは反論をした。
「きっと、この子は才を持つ子です。皆さん、殺してしまいましょう!」
市民達は、それぞれ武器になりそうなものを取り出した。
「くそ! あの男は、何を言っているんだ。みんな目を覚ましてくれ!」
ヒナタは叫ぶが状況は変わらない。
武器を持った市民が迫りくる。ヒナタは嫌々、剣の鞘に手を掛けるが……
そこに割り込む男女の騎士が四人。
「学院の一年、よく勇気を出したな!」
「後は私達に任せなさい」
二人は捕まった騎士とヒナタの方へ。
残りの二人は、ラプラスの方へ向かっていく。
その瞬間、僕を含めた市民の動きが止まった。
その間にヒナタが隙を見て全速力で僕とルカの方へ迫る。
そして、僕とルカを担ぎ路地へと走って行った。
何が起きるのかは分からないがどうせ、トラブルに巻き込まれて死ぬのだろう。そんな予感がした。
僕は死を悟り、目を閉じた。




