第95話 玉石混交の市場
本来の目的である買い出しを果たすため、俺達は配送ドローンと共にフリーポート・ノヴァのアーケードに繰り出した。
前回この港に寄った時は、俺はシュタイン教授と調理器具を揃えていたため、肝心の食材調達はルシアとミナに任せきりだった。
俺自身はこの市場をじっくり見て回ることができなかった訳だ。こういうのは自分で見て回らないとな。
「……ふぅ。悪くない熱気だな」
俺は、雑多な屋台が並ぶ通りを見回した。
俺達は、まず以前ルシアたちが食材を調達したという店を探した。
ほどなくして、トカゲのような肌をした種族の店主が、泥のついた木箱を並べているのが見えた。
箱の中には、茶色い球根と、オレンジ色の細長い束が無造作に放り込まれている。
タマネギモドキと人参モドキだ。
俺は吸い寄せられるように店の前へ立った。
「へい、らっしゃい。見るだけならタダだが、触るなら金を見せてからにしな。そいつはデリケートなんだ」
店主が値札を指差す。1つあたり数百から数千クレジットという価格が平気で提示されている。
「店主、あるだけ全部くれ」
「……は?」
店主が目を丸くした。後ろの三人からも同じような声が漏れる。
「全部だ。この箱ごと買う」
「お、おいおい、正気か? こいつら全部で10万クレジットは下らねぇぞ? どこぞのレストランの仕入れか何かか?」
「いや、俺の船のキッチン用だ」
「船の中!?」
店主は呆れつつも、嬉々として端末を操作した。
俺は支払いを済ませ、後ろに連れていた配送ドローンへ野菜を丁寧に積み込ませる。まるで壊れ物を扱うように慎重にだ。
「アキト、そんなに買い込んでどうするの? うちのフリーザー、まだ半分くらいマグロでいっぱいだよ」
ミナがもっともな指摘をする。
「わかってる。だが、次いつ手に入れられるかわからん。こいつらは別に冷やしておかなくたっていいしな」
「さて、補充はできたが……」
まだスペースにはいくらか余裕がある、はずだ。見られるものは見ておきたい。
雑多なガラクタや怪しげな密輸品が並ぶエリアを抜け、いくつかの食材をドローンに積み込んでは進んでいくと、ふと一軒の店の前で足が止まった。
無愛想な大柄な店主が、客に声をかけるでもなく、石塊のようなものを転がしている店だ。
「……なんだ、あれは」
薄暗い木箱の中に、ゴロゴロとした無骨な岩のような塊が無造作に放り込まれている。
値札には岩根とあり、その横にはやはりというか、大変な価格が記されていた。
キロ単価:15,000クレジット
「……ただの石ころにしか見えませんけど」
エマルガンドが困惑している。
周囲の客も同様だ。誰が買うんだこんな石ころと通り過ぎていく。
だが、俺の目は釘付けになっていた。
「……俺の推測が正しければ、こいつは……」
俺は許可を得て、その岩根を一つ手に取り、腰のナイフで硬い表皮を少しだけ削った。
現れたのは、白く、瑞々しい断面。
指で触れると、しっとりとしたデンプン質の感触。
「やっぱり芋だ。それも、じゃがいもに近いんじゃないか」
俺の脳裏に、湯気を立てるホクホクとした芋のイメージが浮かぶ。
蒸し上げてバターを落とし、溶けたところへ醤油を垂らすじゃがバター。
マヨネーズと和えて、ねっとりとした舌触りを楽しむポテトサラダ。
そして何より――。
「こいつを粉にすれば片栗粉が作れるはずだ。料理の幅がずいぶん広がるな」
これがキロ1万5千……。高いが、代えが効かない。
「ルシア、配送ドローンを追加手配しろ。……ああ、そうだ。この岩根も全部買い占める」
俺は満足げに、手配したドローンにじゃがいもモドキが積み込まれていく様を見守った。
呆れ返りながらも、これから届く食材を楽しみにしているクルーたちと共に、俺は市場を後にした。
短くなっちゃった。
インスタントマッシュポテトなど出しましたが、まぁ構造が違うと思っていただいて。粉類が蕎麦しかないのは結構苦しいです。
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