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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第76話 スター・ツナ尽くし中編/頬肉のブラックペッパーステーキ

 巨大なカマの塩焼きを全員で突き、一通りの食事が一段落した頃だった。


 ふと、自分の指先を見つめる。

 宇宙空間での十時間に及ぶ精密なポッド操作。そのせいで鉛のように重く、微かに震えさえしていた腕から、いつの間にか疲労が消え失せていた。


 胃の腑から絶え間なく溢れ出す熱い波動が、血管を通って全身の細胞へと送り込まれていく。

 視界が驚くほど鮮明になり、脳の奥にこびりついていた眠気という名の霧が、強烈な光に晒されたように消えていく。


(……いや、これ、いくらなんでもおかしいだろ)


 「美味い飯を食べれば元気が出る」というのは、誰もが知る真理だが、あくまで情緒的な話でしかない。

 「消費アイテム効果上昇」あたりのパークが機能したのだろう。

 汎用合成食品テイスティキューブとは比べものにならない、スター・ツナという規格外の食材の効果が、ショボいパークに割り当てられた大胆な割合上昇で大変なことになっているのだ。


 身体が、まるで新品の機械にでも入れ替わったかのように軽い。

 バイタリティが上限を超えて溢れ出しているのが、数値で見えずとも、肌の感覚でハッキリと理解できた。


「……マスター。先ほどまでの深刻な筋疲労の反応が、完全に消失しました。心拍数、血圧、共に激しい戦闘を終えた後の休息時よりも高い数値で安定しています」


 ルシアが、俺の不思議な状態をデータとして補強するように告げる。


「ああ、分かってる。……元気が出すぎて、座っているのが苦痛なくらいだ」


 俺は立ち上がり、軽く肩を回した。

 この有り余る活力をぶつける先は、一つしかない。


「回復したのなら、次はもう少し手間のかかるやつを作れるな。……メインディッシュといこう」


 俺が再び包丁を握り直すと、教授がカマの最後の一かけを惜しそうに飲み込みながら言った。


「ふむ、その反応。やはり君の身体はこの魚を正しく『燃料』として受け取ったようだね」


「燃料、ですか?」


 ミナが不思議そうに首を傾げる。


「そうとも。この魚の脂は、単なる栄養分じゃない。言わば、星々の光を濃縮した『超高性能なバッテリー』のようなものだ。停止寸前のリアクターに高純度の核燃料を直接くべたように、身体というエンジンを強制的にフル回転させている。」

「要するに、船長くんに限らず、この魚の脂は生物の代謝機能を著しく活性化させる特性があるということだよ」


 君の不思議さについて追求したいところだがそれはいったん置いておこう、と教授は肩をすくめた。


「バッテリー、ね。……それなら、メインディッシュはもっとエネルギッシュにいこうか」


 俺は保冷コンテナから、解体時に厳重に確保しておいた部位を取り出した。

 『頬肉』だ。

 一頭からわずかしか取れない、最も筋肉質で、かつゼラチン質が豊富な希少部位だ。

 もっとも、元が全長100メートル級の巨体だ。「わずか」と言っても、ドラム缶数本分もあるのだが。


 フライパンに、スター・ツナの腹身から削ぎ落とした純白の脂を落とす。

 熱せられた脂がシュワシュワと泡立ち、まるで高級なバターのような芳醇な香りを放つ。生臭さは一切無い。

 そこへ、厚切りにした頬肉を投入した。


 ジュワッ……!


 表面が焼ける鋭い音と共に、暴力的なまでの香ばしさがキッチンに充満する。

 俺はミルで『粗挽き黒胡椒』をこれでもかと振り、短時間で表面をカリカリに焼き上げた。

 中はレア。中心部にいくほど、熱を通されたエネルギーが活性化し、淡く輝いているようにも思える。


 仕上げに、醤油もどきと『ホオズキモドキ』の果汁を合わせたソースを回し入れ、一気に煮詰める。


「頬肉のブラックペッパースステーキだ。……熱いうちに食ってくれ」


「うわぁ……! お肉が光ってる……!」


 ミナが歓声を上げ、ナイフを入れる。

 俺も自分の分を切り分け、口に放り込んだ。


 ……凄い。

 加熱によって繊維が解け、閉じ込められていたエネルギーが一気に解放される。噛みしめるたびに、濃厚な旨味の爆発が喉を通っていく。

 ピリッとした胡椒の刺激と、ホオズキの酸味が効いたソースが、脂の重さを絶妙に中和している。


 まるで最高級の牛肉と、極上の魚介のいいとこ取りをしたような味わいだ。筋肉質な繊維が歯を押し返す弾力と、噛み切った瞬間に溢れ出す熱い肉汁。


「……んぐっ。……はぁ、美味しい……。私、もう一生分の運を使い果たしたかもしれません……」


 エマルガンドが頬を紅潮させ、うっとりとため息をつく。

 さっきまでの怯えきった表情はどこへやら、今はただ至福に浸っている。


「成分分析完了。……驚異的です」

 ルシアもまた、一口食べるごとに瞳を明滅させていた。

「単純なカロリー計算では説明がつかない熱量です。分子結合の隙間に、未知のエネルギー粒子が封入されています。これが咀嚼によって弾け、味覚センサーを通じて幸福係数を論理値の限界まで押し上げています」


「……すごい。徹夜明けで身体が鉛みたいだったのに、軽くなった」


 ミナが自身の掌を握ったり開いたりしながら、静かに驚きの声を漏らす。


「うん。なんか、身体の芯からポカポカする。……これなら、すぐに次の作業に戻れそう」


 教授も無言でステーキを平らげ、最後にソースをパンで拭い取ってから、ナプキンで口元を拭いた。


「ふむ。味に関しては文句のつけようがない。船長くん、君の腕とこの素材の相性は抜群だ」


 教授は空になった皿を見つめ、冷静な科学者の目に戻って言った。


「だが、『食材』としての運用コストと持続可能性を考えると、これは落第点だね」


「コスト、ですか?」


「うむ。先ほど言ったように、この個体の生体組織は一種のプラズマ保持体だ。摂取すれば細胞内の……いや、専門的な話はいいとしよう。とにかく、医療用としても、軍事用としても、計り知れない価値があるだろう。……だが」


 教授は残念そうに首を振った。


「これを一般に普及させるのは不可能だ。巨大な星間生物の脅威を見誤っていたよ。」「獲得するために費やした労力、リスク、そして管理コストが天文学的すぎる。たとえ養殖に成功したとしても、一食あたり数百万クレジットは下らないだろうね。……庶民の食卓に並ぶ未来は、永遠に来ない」


「……確かに」


 こいつを養殖して全宇宙を「大トロ食べ放題」にする夢は、物理的な管理コストの問題で早々に打ち砕かれたわけだ。

 スター・ツナは、あくまで大自然の驚異。命懸けで獲りに行くからこそ価値がある「幻の味」ということになる。


「だが、だからこそ」


 教授はグラスのワインを傾け、愉しげに言った。


「私はこれを残念に思うが、同時に研究者としての特権でもある。……非効率的で、採算度外視の、愚かな美食。実に君らしいじゃないか」


「褒め言葉として受け取っておきますよ」


 俺は残ったソースをパンで拭い取りながら、窓の外の星雲を見つめた。

 養殖は無理でも、また獲りに来ればいい。

 俺にはこの船がある。


「さて……。次は一番の大物、『脳天』のブロックを煮付けにするつもりだが」


 俺は巨大な頭部のブロックを見上げた。


「こいつは味が染みるまで時間がかかる。一旦休憩にしよう。腹ごなしに、少し昼寝でもするといい」


 ルシアが周囲のメンバーの様子をモニターし、同意した。


「賛成です。皆様の満腹中枢からの充足シグナルを検知しました。スリープモードへの移行を推奨します」


 俺たちの宴は、まだ終わらない。

 マグロ、料理が意外と少ない......!!!

 とにかく価格高騰のために鮮度維持フィールドとかいう設定導入した人慧眼すぎる。褒めてあげたい。


 面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「★」をポチッと!

 アキトの明日の夕飯が少しグレードアップするかもしれません。よろしくお願いします!

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