第69話 魔窟の歩き方と黒い招待状
こういう場所には、往々にして「掘り出し物」が眠っているもんだ。食材も、技術もな。
『入港許可を確認。マッコウクジラ、第4ブロック・重貨物用ドックへ接舷せよ。……歓迎するぜ、デカブツ』
管制塔からの通信は、正規軍のような事務的なものではなく、どこか馴れ馴れしい響きを含んでいた。
ドックに船を固定し、俺たちはタラップを降りた。
今回の外出メンバーは、俺とルシア、そして案内役のシュタイン教授だ。
ミナは「インターディクターの残骸をバラしたいから」という理由で留守番、エマルガンドは「もう一歩も動けません」と一時的に登録された自室に引きこもってしまった。
ドックに降り立つと、ツンと鼻をつくオイルと排気、そして香辛料の混ざった匂いが漂ってくる。
「さて、まずは換金だ。教授、当てはあるんでしょうね?」
マッコウクジラのカーゴには、先程の戦闘で回収した軍用艦の装甲板やスラスター部品、レアメタルの塊が満載されている。
普通のジャンク屋に持ち込めば「足元を見られて買い叩かれる」のがオチだが、教授には心当たりがあるらしい。
「ああ。昔馴染みの店がある。……少々、癖のある店主だがね」
教授がステッキを突きながら先導する。
案内されたのは、煌びやかなメインストリートではなく、配管がむき出しになった薄暗い路地裏だった。
怪しげな電子ドラッグの売人や、改造サイボーグのポン引きを無視して進んだ先に、その店はあった。
看板には『解体・買取・その他』とだけ書かれている。
「邪魔するぞ、ゴルドー」
教授が扉を開けると、中はガラクタの山だった。
そしてカウンターの奥から、全身をサイバネティクスで置換した大男が現れた。右目は巨大な複合センサー、左腕は重機のようなマニピュレーターになっている。
「……誰かと思えば、シュタインの爺さんか。まだ生きてたのか」
「失礼な。私は不死身の研究をしているわけではないぞ。……今日は客人を連れてきた」
ゴルドーと呼ばれた店主は、ギロリと俺とルシアを値踏みした。
「……いいメイドだな。だが、うちは人身売買は扱ってねぇぞ」
「違う。売りたいのはこっちだ」
俺は端末を操作し、回収した物資のリストを表示した。
軍用複合装甲に電子部材、高度な火器管制システムのチップ……。
どれも正規のルートでは出回らない、あるいは出所を聞くのが野暮な代物ばかりだ。
ゴルドーの義眼が赤く明滅し、リストを高速でスキャンしていく。
「……ほう。旧連邦軍の巡洋艦クラスか。しかも、損傷箇所の断面が綺麗だ。丁寧に解体しやがったな」
「味は保証するぜ」
「いいだろう。相場の三割増しで買い取ってやる。……だが、爺さん。あんたがこんな武骨なパーツを持ち込むとはな。」
「昔は『倫理規定を無視した培養槽』だの『禁止指定された遺伝子サンプル』だの、ゲテモノばかり欲しがってた癖に」
「ふん、研究には多少の犠牲と法解釈の拡大が必要なだけだ。……今は、この若者のパトロンのようなものでね」
なるほど、教授がこの店を知っていた理由はそれか。 マッドサイエンティストと闇の買い取り屋。混ぜるな危険の化学反応だな。
商談はスムーズに進んだ。
提示された金額は、俺の予想を上回るものだった。これなら弾薬費の補充どころか、当面の活動資金としても十分すぎる。
「……で、リストに載ってねぇ『大物』はどうするんだ?」
取引成立の握手をした直後、ゴルドーが低い声で問いかけてきた。
「なんのことだ?」
「とぼけるな。あの艦隊の残骸なら、もっと面白いオモチャが混ざってたはずだ。…… 重力井戸発生装置のコアとかな」
鋭い。流石はプロの買い取り屋だ。
「残念だが、あれは非売品だ。うちのエンジニアが気に入っちまってね。オモチャとして遊ばせてやることにした」
俺は肩をすくめて答えた。
インターディクターは強力だが、あまりにも危険な代物だ。下手に売れば足がつくし、何よりミナが「絶対に解析したい!」と涎を垂らして抱え込んでしまった。
あれを売るくらいなら、俺の腎臓を売った方がまだマシな騒ぎになるだろう。
「チッ、残念だ。あれなら言い値で買う客が山ほどいるんだがな」
ゴルドーは悔しそうに舌打ちをしたが、それ以上は追求してこなかった。
引き際を弁えているのも、一流の証だ。
店を出て、再び猥雑な路地を歩く。
懐は温かい。次は情報屋へ行って、本命の『スター・ツナ』について探りを入れようか。
そう思っていた矢先だった。
「――お待ちしておりました」
路地の角から、黒いスーツを着た男が音もなく現れた。
顔には特徴のない仮面をつけている。
ただのチンピラじゃない。身のこなしが洗練されている。
「……誰だ?」
俺は警戒し、腰のホルスターに手を伸ばしかける。
ルシアも即座に戦闘態勢に入り、スカートの裏に隠した伸縮式スタンバトンへ手をやった。
「敵対の意思はありません。……マッコウクジラ船長、アキト様。そして、テクネ・プライムの重鎮であらせられる、シュタイン・ハウンド教授とお見受けします」
男は慇懃無礼に一礼し、懐から漆黒の封筒を取り出した。
「我が主、オアシス管理理事会の一席、『蜘蛛』よりご招待です」
「……管理理事会だと?」
オアシスを支配する、裏社会のトップたちか。
入港してまだ一時間も経っていないというのに、情報が早すぎる。
「ヴォル・ガ・ドの海を荒らしていた艦隊を、単艦で沈めた手腕。そして、教授の来訪。……我が主は、あなた方に強い関心をお持ちです。どうか、ディナーの席にお付き合い願いたい」
ディナー、だと?
俺の腹が、ぐう、と小さく鳴った。
「……飯が出るなら、話を聞こうか」
俺は封筒を受け取った。
中に入っていたのは、最上層区画にある高級レストランの予約スレート。
どうやら、ただスクラップを売ってお終いとはいかないらしい。
「教授、有名税ってやつですかね」
「ほう、管理理事会か。あそこの食卓なら、この街のゴミのような合成食とは違うものが出てくるだろうな。」
教授は危険な呼び出しよりも、未知の美食への興味が勝っているようだ。
俺たちは顔を見合わせ、共犯者のように口の端を吊り上げた。
オアシスの主からの招待状。
断る理由はない。この街の美味いもんを食い尽くす、絶好のチャンスだ。
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