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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第54話 電脳カボチャと電脳クジラ

 実験農場プラントを離脱し、正規軍基地『フォート・ヴァルカン』への帰還航路。

 マッコウクジラの機関室では、ミナによる「新しい仲間」の歓迎準備が進められていた。


「……よし、バイパス接続。信号変換機、オンライン」


 ミナが予備のコンソールを強引に改造して作った「仮設ソケット」に、持ち帰ったカボチャのコア――『生体演算核バイオ・コア』とでも呼ぶべき物体――を慎重にセットする。

 ジェネレーターから引いた微弱な電流が流れると、コアがドクン、と脈打つように明滅した。


 ザザッ……!


 その瞬間、ブリッジのメインモニターではなく、機関室のサブモニターにノイズが走り、意味不明な文字列が流れた。


『――接続確認……個体名:マッコウクジラ……領域認識……』


「わっ、喋った!?」

「音声ではありません。ローカルネットワークに直接思考データを送信しています」


 ルシアが即座に解析する。

 どうやら、こいつは挨拶をしているらしい。


『……リソース……潤沢……感謝……』


 コアから満足げな波動が伝わってくる。

 あの枯渇したプラントに比べれば、この船のジェネレーターは、彼らにとって文字通りの楽園なのだろう。


「あ、見て! 農園のステータスが!」


 ミナが指差したモニターには、船内農園の管理データが表示されていた。

 温度、湿度、二酸化炭素濃度。それらの数値が、かつてないほどの速度で微調整され、最適化されていく。


「こいつ、農園の環境制御システムにアクセスしてる。見て、カメラ映像! ツタが活性化してる!」


 モニター越しに見る温室の中で、耐熱ツタが嬉しそうに葉を広げているのが見えた。

 どうやらこのバイオ・コアは、同族である植物の管理はお手の物らしい。


「すごい……! これなら、私が付きっきりで調整しなくても、勝手に最高の環境を作ってくれるかも」

「ほう。まずは庭師からスタートってわけか」


 生き物が船と共生し、制御系の一部を担う。

 まだ限定的だが、その第一歩としては悪くない。


「だが、本格稼働はまだ無理そうだな」


 俺はコアの様子を見て言った。

 電気は足りているが、植物としての「栄養」や、本体を維持する設備が足りていない。


「そうですね。彼らを維持し、成長させるには特殊な培養液や、生体パーツを保護する専用の筐体が必要です。今の剥き出しでコンソールに直結という状態では、負荷をかけすぎると枯れてしまいます」

「わかった。とりあえずは省エネでおとなしくしててもらおう。テクネ・プライムに行けば、もっといい家を用意してやるからな」


 俺が語りかけると、コアは『……了解……待機……』と答え、静かに明滅の頻度を落とした。


          ◇


 数時間後。

 俺たちは再びフォート・ヴァルカンに入港し、司令官室を訪れていた。


「……なるほど。植物がサーバーを乗っ取り、独自の生態系を築いていたとはな」


 ヴィクトル司令官は、俺の提出したレポートを読み終え、深い溜息をついた。


「信号の途絶は、彼らが外部への通信リソースすら自己進化に回した結果か。……皮肉なものだ。『食の楽園』を目指した結果が、人間を拒絶する魔境になるとは」

「ですが、結果として脅威は去りました。彼らは俺の船に引っ越しましたからね」

「君は本当にとんでもないものを持ち帰るな……」


 司令官は呆れたように笑い、デスクの上の端末を操作した。


「約束通り、報酬は支払おう。正規の調査報酬に加え、危険手当も上乗せしておいた。未知の生体兵器と化した植物群への突入だ、当初の想定よりもリスクが高かっただろう」

「ありがとうございます。……それと、これは追加の報告書代わりです」


 俺は持参した保温ポットを取り出し、カップに注いだ。

 黄金色の液体から、甘く濃厚な香りが立ち上る。

 『電脳パンプキン・ポタージュ』だ。


「ほう? これは……」

「現地の『主』だったカボチャです。中身がトロトロに煮えていたんで、回収してきました」

「電気を食っていた植物の実か。……毒見は済んでいるのだろうな?」


 司令官は苦笑しつつも、興味深そうにカップを手に取った。

 一口、口に含む。

 その目が大きく見開かれる。


「……!!」


 言葉を失い、二口、三口とスプーンを動かす。

 そして、深く息を吐いた。


「……甘い。砂糖の甘さではない、大地の、いや、エネルギーの奔流のような力強い甘みだ」

「気に入っていただけましたか?」

「ああ。素晴らしい。……これが『進化の味』か」


 司令官は最後の一滴まで飲み干し、満足げに頷いた。


「君に任せて正解だったよ。正規軍が踏み込んでいたら、間違いなく全て焼き払って終わりだった。この味を知る機会は永遠に失われていただろう」


          ◇


 基地を出た俺は、端末の口座残高を確認した。

 報酬3000万クレジットが入金されている。

 元手と合わせて、総資産は5000万クレジットを突破していた。


「……長かったな」


 ふと、安堵の息が漏れる。

 だが、これで全てが終わったわけじゃない。

 ルシアの強化に5000万。移動経費、船の維持費、そして増えたクルー(?)の環境整備。

 必要な分を考えれば更に稼がなければならないが、一つの目標には到達した。


「計算完了。目標金額を達成しました。……ですが」


 ルシアが水を差すように、しかし正確な指摘を入れる。


「味覚センサーユニットの購入、取り付け手術費、更には……新たな「クルー」と呼称してよいものか判断しかねますが、あの植物のための設備投資。これらを最高水準で行う場合、試算ではさらに3000万〜5000万クレジットが必要です」


 ルシアは一瞬言葉を切り、俺を真っ直ぐに見つめた。


「また、本船の居住区画や機関部の大規模改修にも同額程度の予算が必要です。私の機能拡張を優先すれば、それらは後回しになってしまいます。……本当に、よろしいのですか?」

「わかってるよ。だが、お前の味覚は譲れない一線だ」

「やったね社長! これで買い物し放題!」


 笑顔で茶化してくるミナを見ながら、俺は苦笑した。

 稼ぐまでに注ぎ先の候補もずいぶん増えてしまったしな。

 だが、味覚センサー。それが手に入れば、ルシアも俺たちと同じ「食卓」につくことができる。船の改装はその後でも遅くはない。

 振る舞われる相手がいてこそのキッチンだ。


「よし、行くぞ! 次は技術系コロニー『テクネ・プライム』だ!」


 俺が宣言すると、ルシアが冷静に補足を入れた。


「マスター、忠告しておきますが、テクネ・プライムは閉鎖的な研究都市です。外部からの物資搬入は厳しく制限されており、あそこへ向かう定期外の輸送依頼はあまり期待できません」

「……マジか。移動だけで赤字になるのは御免だぞ」


 5000万は達成したが、これはあくまで最低ラインだ。移動経費や滞在費、予期せぬ出費を考えれば、余裕なんて全くない。


「ひとまず、『トランザクション・ハブ』に戻ろう。テクネ・プライム行きの希少な依頼が見つかるかもしれない」

「了解。航路設定、トランザクション・ハブへ」


 船内には新たな仲間バイオ・コアと食材を抱え、マッコウクジラは重力圏を離脱し、星の海へと加速する。

 ついに当初目標の5000万クレジットを達成しました!

 ですがすでに目標額は3倍以上に膨れ上がっています。どうしてこんなことに。


 面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「★」をポチッと!

 アキトの明日の夕飯が少しグレードアップするかもしれません。よろしくお願いします!

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