第51話 エデンの園
3000万クレジットの報酬と、食材の優先所有権。
破格の条件で依頼を受諾した俺だったが、すぐに司令官へ「待った」をかけた。
「……で、引き受けるのはいいんですがね、司令官。一つ問題があるんです」
「なんだ? 報酬の前借りなら相談に乗るが」
「いえ、金の問題じゃありません。装備の問題です」
俺は腰のホルスターを叩いた。
「俺の持ってる武器はこれ一丁だけ。威力はありますが、デカすぎて狭い船内や入り組んだプラント内の探索には不向きなんです。威力が有り余って設備ごと吹き飛ばしかねない」
『アストロ・ブレイカー』は対装甲用のロマン砲だ。閉鎖空間でぶっ放せば、壁を貫通して真空を招き入れるか、自分たちが爆風で吹き飛ぶのがオチだ。
「それに、マッコウクジラの実弾在庫も心許ない。対ドローン用の散弾は買いましたが、もっとこう……硬い相手をぶち抜く「中型から大型の実体弾」が不足していましてね」
「……つまり、手ぶらで危険地帯に行くのは怖いから、軍の装備を寄越せと?」
ヴィクトル司令官が苦笑する。
話が早くて助かる。
「降りて行動するには色々と不足してましてね。正規軍の最新鋭とは言いません。倉庫の隅で埃を被っている『払い下げ』の小銃や、パーソナルシールドなんかを融通してもらえれば、成功率はグンと上がるんですが」
俺が親指と人差し指を擦り合わせると、司令官は呆れたように息を吐き、端末を操作した。
「……いいだろう。今回の任務は非正規の扱いだ。現地で何が起きても我々は関知しない。その代わり、自衛のための装備として『廃棄予定』の物資を譲渡する形を取ろう」
「賢明なご判断に感謝します、司令官」
「ただし、艦載用の実体弾は少量だぞ。在庫管理がうるさくてな、演習での消費名目で落とせる分だけだ」
「十分です。あるとないとじゃ大違いですから」
◇
数時間後。
マッコウクジラのカーゴルームには、新たな「おもちゃ」が積み込まれていた。
「へぇ、これが軍用ライフル……。無骨だけど、整備性は良さそう」
ミナが黒塗りのアサルトライフル『M-22 ヴァルチャー』を構え、サイトを覗き込んでいる。
型落ちモデルだが、信頼性は折り紙付きだ。威力もそこそこで、フルオート射撃も可能。探索のお供には最適だ。
それに加えて、ベルト装着型の『パーソナルシールド発生器』も人数分確保できた。これで生身での生存率は格段に上がる。
「こっちも上等だ。120mm徹甲弾が200発に、拡散弾が300発。……これだけあれば、当面は戦える」
俺は弾薬庫に収まった中口径の実体弾を撫でた。
マッコウクジラの兵装の六割を占める実弾砲塔が、ようやく飾りではなくなる。
シールドを失った船体に直接叩き込み、装甲を食い破る物理の暴力。エネルギー兵器にはない頼もしさがある。
「装備のチェック完了。全システム・グリーン」
「よし。準備万端だ」
俺たちは改めて司令官に礼を言い(ついでに食堂の親父に例の調味液のレシピをプレゼントし)、フォーク・ヴァルカンを出港した。
◇
ハイパードライブによる数回の跳躍を経て、俺たちは目的の宙域に到達した。
眼下に広がるのは、緑と青が混ざり合った美しい惑星だ。
実験農場プラント『エデンの園・第4区画』。
「……綺麗。外から見る分には、楽園そのものね」
ミナが窓の外を見つめて呟く。
だが、センサーの数値は穏やかではない。
「警告。惑星軌道上に多数のスペースデブリを確認。……植物性のようです」
「植物性?」
「肯定。巨大なツタや胞子が、大気圏を越えて軌道上まで進出しています」
ルシアがモニターに拡大映像を表示する。
そこには、地表のプラント施設を突き破り、宇宙空間に向かって触手のように伸びる巨大な植物の姿があった。
施設全体が、緑色の何かに飲み込まれている。
「……暴走してるな。放置された間に、植物が野生化して育ちすぎたか」
「これ、中に入れるの? エアロックも埋まってそうだけど」
「強引にこじ開けるさ。いくぞ、食材が俺たちを待っている」
俺はマッコウクジラを降下軌道に乗せると同時に、コンシールド武装の全展開を指示した。
通常、大気圏突入時は空気抵抗や熱の問題で武装を格納するのがセオリーだが、相手は植物とはいえ軌道上まで侵食してくる化け物だ。いつ何が飛んできても対応できるよう、牙は剥き出しにしておく必要がある。
全砲門をオンラインにし、シールドを最大出力で展開したまま、俺たちは緑の魔境へと強行着陸した。
ドズゥゥゥン……!
着陸脚が大地を噛み、船体が沈み込む。
着陸したのは、プラント中枢に近い開けた場所――かつての発着ポートだった場所だ。今はひび割れたコンクリートの隙間から、背丈ほどの雑草が生い茂っている。
「到着だ。外気圧正常、酸素濃度……少し高いな。植物のせいか」
エアロックを開放すると、むせ返るような緑の匂いと、湿った空気が流れ込んできた。
機械油と煤煙の匂いしかしないヘパイストスとは大違いだ。
だが、平和なジャングルとは限らない。
「総員、武装よし。ミナは俺の後ろを、ルシアは殿を頼む」
「了解しました」
「わかった。……ねえ、なんかガサガサ音がしない?」
ミナが不安げに周囲を見回す。
茂みの奥から、何かがこちらを窺う気配がする。
俺は手に入れたばかりのライフルを構え、油断なく足を踏み出した。
「歓迎のご挨拶か、それともデリバリーか。……どっちにしろ、食料になってもらうぞ」
かつての楽園は、今や生存競争の坩堝と化しているようだ。
望むところだ。
俺たちは、その頂点に立つために来たのだから。
食材達がダイレクトエントリー!まだ食べられるかはわかりませんがね。
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