第46話 鉄の雨降りに漂流者
マッコウクジラが戦場跡のデブリ帯へ滑り込むと同時に、ルシアの警告音が鳴り響いた。
「警告。進路上に浮遊機雷群を多数検知。アクティブモードです」
「挨拶代わりってわけか。片っ端から落とすぞ」
モニター上のレーダーには、無数の赤い光点が散らばっている。
撤退時にばら撒かれた置き土産だ。単純な感応式だが、触れればシールドごと船体を抉り取る威力がある。
俺は操縦桿を握り直し、対空パルスレーザーの照準を合わせた。
「ルシア、射撃管制をリンク。一番近い奴から順にマークしろ」
「了解。ターゲット・ロック」
視界の中の機雷が次々と赤い枠で囲まれる。
俺はトリガーを引いた。
船体の各所から放たれたレーザーが、音もなく暗い宇宙空間を切り裂く。
正確無比な射撃が機雷を捉え、次々と爆発の花を咲かせた。
真空ゆえに爆音はないが、爆発の衝撃波がシールドを叩き、船体を震わせる。
閃光がデブリの影を濃く映し出し、鉄の墓場を不気味に照らし出した。
「機雷群の無力化、完了。……警告、熱源反応、多数! デブリの影から急速接近!」
爆煙を切り裂くように、周囲の鉄屑が蠢いた。
破壊された艦船の残骸に紛れるように潜んでいた自動防衛ドローンだ。球体に多数のセンサーと銃口を備えた無機質な殺意の群れが、こちらへ殺到してくる。
「やっぱりな。歓迎してくれるそうだ」
俺は冷静に操縦桿を捌きながら、火器管制システムを起動した。
数は多いが、個々の装甲は薄い。エネルギー兵器でちまちま狙うより、こっちの方が早い。
「ルシア、ガウス砲起動。装填弾種、対空散弾!」
「了解。弾道計算、リンク完了」
船体側面のガウス砲塔が旋回し、火を噴いた。
マッコウクジラの巨体に比べれば豆鉄砲のようなサイズだ、船体への反動など微塵も感じさせない。
放たれたのはフレシェット弾――弾頭内部に無数の金属製の矢を内蔵した散弾だ。
発射と同時に弾頭が炸裂し、扇状に広がった鉄の雨が、殺到するドローンの群れを飲み込む。
次々と爆ぜる閃光。
紙装甲のドローンたちは、回避運動を取る間もなくハチの巣にされ、沈黙していく。
「ああっ! もったいない! あの中のセンサーユニット、高値で売れるのに!」
ミナがモニターを見ながら悲鳴を上げているが、無視だ。命あっての物種だ。
「次は足元だ。ルシア、5時の方向、距離800のデブリを撃て」
「反応はありませんが?」
「いいから撃て。……嫌な予感がする」
俺の指示に従い、ルシアがパルスレーザーを放つ。
何もないはずのデブリに着弾した瞬間、まばゆい爆発が起こった。
ステルス機雷だ。
俺の「ゲーマーとしての勘」が、見えない死の罠を捉えていた。
「……命中。機雷の誘爆を確認」
「よし、このまま突破するぞ!」
ドローンの残骸と機雷の爆炎を突き抜け、マッコウクジラは戦場跡の中心部へと突き進む。
やがて、レーダーに奇妙な反応が映り込んだ。
「……微弱な救難信号?」
「識別信号照合……正規軍の脱出ポッドです。ですが、反応は一つだけ」
モニターに拡大映像が表示される。
そこには、無惨に破壊された複数のポッドの残骸と、その中で唯一、奇跡的に原形を留めている一機が漂っていた。
ドローンか機雷の餌食になったのだろう。生き残ったのは運が良かったとしか言いようがない。
「回収する。中身が生きてるか、あるいは……」
俺はトラクタービームを展開した。
◇
回収したポッドをエアロックに接続し、ハッチを開放する。
中から転がり出てきたのは、フライトスーツに身を包んだ若い男だった。
「ぷはっ! 助かったぁ……! もうダメかと思ったぜ!」
男はヘルメットを脱ぎ捨て、酸素を貪るように深呼吸した。
短く刈り込んだ茶髪に、日に焼けた健康的な肌。人懐っこそうな茶色の瞳と、口元に浮かぶ悪戯っぽい笑みが印象的だ。
体格はパイロットらしく引き締まっており、動きにも無駄がない。
漂流していたにしては、随分と元気そうだ。
「よう。運が良かったな」
「全くだ! あんたが拾ってくれなきゃ、今頃干からびてたところだ。感謝するぜ、船長さん!」
男は立ち上がり、屈託のない笑顔で右手を差し出してきた。
正規軍のパイロット章をつけているが、軍人特有の堅苦しさは微塵もない。
「俺はリカルド・ヴァンス。第3遊撃航空隊のパイロットだ。ま、今は部隊全滅で無職みたいなもんだがな! 堅苦しいのはナシだ、リックでいいぜ」
「……お前、本当にポジティブだな。俺はアキト、この船、マッコウクジラの船長だ」
仲間が全滅した状況でこの軽口。神経が太いのか、それとも極限状態でタガが外れているのか。
まあ、湿っぽいよりはマシか。
俺は握手に応じつつ、後ろに控える二人を紹介した。
「こっちのメイド服がルシア、オペレーターだ。で、そっちの整備士っぽいのがミナ」
「どうも。……あんたの乗ってた戦闘機、データで見たけどいい機体だったね」
ミナが少し興味深そうに言うと、リックは嬉しそうに頷いた。
「だろ? 愛機だったんだがなぁ……。ま、命あっての物種ってな!」
俺はポッドの中を覗き込んだ。
そこには、コンテナが詰め込まれていた。
「おっ、こいつは……」
「ああ、それか? 生き残るために詰め込めるだけ詰め込んだんだ。軍用レーションのコンテナだ」
リックが足元のコンテナをポンと叩く。
『高栄養価戦闘糧食・タイプS』。
軍の精鋭部隊に支給される、味と栄養価を両立させた高級レーションだ。一般市場には絶対に出回らない代物である。
「……リック、交渉だ。ここから一番近い正規軍の駐留基地か、コロニーまで送ってやる。その代わり……」
「わかってるって! 命の恩人だ、このレーションは全部あんたにやるよ! 俺一人じゃ食いきれないしな!」
リックは豪快に笑った。
いい奴だ。実に話が早い。
「交渉成立だ。歓迎するぞ、リック」
「よろしく頼むぜ! あー、基地に戻るのは急ぎじゃない。どうせ部隊は全滅しちまったし、報告に戻るだけだ。あんたらの用事が済んでからで構わないぜ」
「助かる。実はこれから本命の『大物』を食いに行くところでな」
俺はモニターに映る巨大な影――戦場跡の奥深くに眠る、巡洋艦の残骸を指差した。
「うげっ、マジかよ。あれ、俺の乗ってた母艦……もとい、本当の『元職場』だぜ」
リックは呆れたように、しかしどこか自嘲気味に笑った。
「まさか撃墜された後に、解体業者として里帰りするとはな。運命ってやつは皮肉なもんだ。……よし、手伝うぜ。勝手知ったる我が家だしな」
どうやら、この漂流者はただの客でいるつもりはないらしい。
賑やかなのが一人増えたな。
俺たちは新たな仲間(と食材)を加え、本命のサルベージ作業へと向かった。
ミリタリーレーション、買って食べたことありますが結構おいしい。
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