第45話 もやし山盛りマヨ焼そば
戦場跡のデブリ帯まで、あと30分。
戦闘とサルベージ作業に突入する前の、最後の休息時間だ。俺たちはブリッジ横の休憩スペース兼ダイニングに集まっていた。
「腹が減っては戦はできん。今のうちにカロリーを入れておくぞ」
「……賛成。緊張でお腹空いた」
ミナが整備マニュアルから顔を上げ、頷く。
俺はキッチンの棚から、とある「カップ焼きそば」を取り出した。
パッケージには『超効率! 水切り不要! 旨味を逃さない吸水麺』と書かれている。
「……こいつか」
俺はパッケージを見て、少しだけ顔をしかめた。
一見、便利な機能に見える。貴重な水を捨てずに済むし、手間も減る。宇宙生活においては合理的だ。
だが、その実態は「お湯を吸ってブヨブヨに膨れ上がった麺の塊」が出来上がるという、食感を犠牲にした悪魔の仕様だ。
ソースの味も麺のデンプンに埋没し、ねっとりとした炭水化物の泥を食べている気分になる。なんということをしてくれたんだ。
「でも、今の俺には強い味方がいる」
俺はミナと共にでっち上げた急ごしらえの冷蔵庫――ビジネスホテルのやつを想像してくれればいい――から、収穫して洗っておいた「もやし」……もとい「耐熱ツタの新芽」を取り出した。
そして、もう一つ。
ジャンク街の食料品店で見つけた、怪しいチューブ。
「マヨネーズ……のようなものだ」 「マヨネーズ?」
ミナが怪訝な顔をする。
パッケージには『万能調味油脂・マヨタイプ』とある。
成分表を見ると、卵黄も酢も入っていない。乳化剤と酸味料、そして香料で味付けされた、ただの「ねっとりした味付き油」だ。
高カロリーかつ保存がきくため、そのままチューチュー吸って非常食としても使えるらしい。狂ってるな。
「単体だと胸焼けする代物だが、こいつらを組み合わせれば化けるはずだ」
調理開始だ。
まずはカップ焼きそばにお湯を注ぐ。規定量は少なめだ。これが全部麺に吸われるわけだ。
蓋をして待つ間に、高火力コンロに火を入れる。
ボッ!!
青い炎が中華鍋を包む。
油を引き、ツタの新芽を投入。
強火で一気に煽る。水分を飛ばし、シャキシャキ感を残したまま火を通す。味付けは塩コショウのみ。
「よし、麺が戻ったな」
蓋を開けると、予想通り水分を一滴残らず吸い尽くし、一回り太くなった麺が鎮座していた。
ここに付属の粉末ソースを混ぜる。箸が重い。粘度が高い。
だが、ここに炒めたツタを山盛りに投入し、さらに「味付き油マヨネーズ」を迷わず絞り出す。
グルグルとかき混ぜれば、完成だ。
『カップ焼きそば・ツタ増しマヨビーム』。
「……見た目のインパクト、すごいね」
「食ってみろ。飛ぶぞ」
俺たちはフォークを突き刺し、麺とツタを絡め取って口に運んだ。
「……ん!」
ミナの目が開かれる。
まず来るのは、マヨネーズ(油)の暴力的なコクと酸味。それが粉末ソースのスパイシーさと混ざり合い、濃厚なジャンク味となって脳を揺らす。
そして食感だ。
ブヨブヨで頼りない麺の食感を、炒めたツタの「シャキッ! ザクッ!」という痛快な歯ごたえが完全にカバーしている。
むしろ、柔らかい麺がソースを吸ったスポンジの役割を果たし、ツタのみずみずしさと絡み合って、口の中で絶妙なハーモニーを奏でている。
「おいしい! 麺だけだと重いけど、野菜がシャキシャキしてて、どんどん入る!」
「だろ? この油マヨネーズも、炒め油代わりになって全体をまとめてる」
カロリーの塊だ。
一口ごとに、エネルギーが充填されていくのがわかる。
非常食の油を吸いながら、炭水化物を流し込む。
上品さの欠片もないが、これから戦場に向かう身体には、この「燃料」のような飯が一番だ。
「成分分析。炭水化物および脂質の過剰摂取を警告……ですが、精神的高揚による戦闘効率の上昇予測値を優先します」
ルシアも呆れつつ、黙認してくれたようだ。
ガツガツと平らげ、水を一気に飲み干す。
腹の底から力が湧いてくる。
「ふぅ……食ったな」
「うん。満タン」
ミナが満足げに腹をさする。
その時、ブリッジのアラートが鳴り響いた。
「まもなく目的地座標へ到達します。デブリ帯への突入まで、あと5分」
ルシアの声が、オペレーターのトーンに切り替わる。
俺たちの顔つきも、一瞬で変わった。
食事の時間は終わりだ。ここからは仕事の時間だ。
「よし、行くぞ! 戦闘にはならんだろうが、十分注意しろ!」
「了解! ジェネレーター出力、安定!」
「全兵装オンライン。シールド展開」
俺はキャプテンシートに飛び乗った。
目の前のスクリーンに、無数の残骸が漂う「鉄の墓場」が映し出される。
さあ、宝探しの始まりだ。
アキトの料理名とタイトルが違う?はて……?
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