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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第29話 路地裏エンジニア

 少し離れた広場のベンチ。

 少女は不満げな顔で、じっと俺を睨みつけていた。

 薄汚れた頬、油の匂い。その瞳には、助けられた感謝よりも呆れの色が濃い。


「……バカなの? 値切ったつもりだろうけど、あんなゴミ、100クレジットもしない」

「わかってたさ。穏便に済ませられりゃそれでよかったんだ」


 俺は肩をすくめた。

 確かに市場価値で見ればゴミ同然だが、揉め事を起こして治安維持機構沙汰になるリスクや時間を考えれば、500なんて安いものだ。


「怪しい……。ただの善意なんて一番信用できない。目的は何? 労働力? それとも臓器?」


 少女がジリジリと距離を取る。

 やれやれ、このコロニーの教育事情はどうなってるんだ。


「勘違いするな。俺は仕事相手を探してるんだ」

「仕事?」

「ああ。専任のエンジニアは、事情があって離れていってしまってな。お前、そのパーツをどうするつもりだった?」


 俺は彼女が握りしめている基板を指差した。

 少女は手元のジャンクに視線を落とし、少し得意げに鼻を鳴らした。


「……これ、旧式のパワーコンデンサの制御基板。接点の腐食を取って回路をバイパスすればまだ使える。ファームウェアを書き換えれば、現行規格にだって対応できる。……交換パーツがないから、素材として売るしかないけど」

「ほう」


 俺は感心した。ただのゴミに見えるが、彼女には直した後のビジョンが見えているらしい。 俺の「謎修理スキル」とは違う、本物の知識と技術に裏打ちされた視点だ。いや、俺の知識と技術も本物なんだが、船長が設備メンテナンスに明け暮れるわけにもいかないんだ。とにかく、これは掘り出し物かもしれないな。


「俺の直感が、お前は優秀なエンジニアかもしれないと告げたんでね。先行投資ってやつだ」

「……ふーん。見る目あるじゃない」


 少女は少しだけ態度を軟化させた。

 褒められて悪い気はしないらしい。ネズミ耳がピクリと嬉しそうに動く。


「名前は?」

「……ミナ。それだけ」

「俺はアキトだ。で、ミナ。お前はどうしてあんなゴミをあさってた? その腕があれば、まともな整備工場で働けるだろ」


 俺が問うと、ミナはふいっと視線を逸らし、不貞腐れたように言った。


「見ればわかるでしょ。わたしは『ネズミ』。過酷な環境に適応するために遺伝子をいじられた、旧時代の使い捨て労働力の末裔」


 ミナは自分の耳を触った。

「薄汚い、信用できない、犯罪予備軍。そんな偏見まみれのバイオモーフを雇う店なんてない。ゴミ捨て場から拾ったパーツを直して、闇市で売って食いつなぐしかない」


「俺は開拓惑星の文化に馴染みがあるんだ。こういう見た目には慣れてる」


 俺は努めて軽く言った。そうか、バイオモーフはかつて惑星開拓のために生み出されたが、開拓が終われば不要となり、今では差別的な扱いを受けていることが多い。

 開拓惑星の文化に馴染みがあるってのも嘘じゃないぞ。ゲーム時代の話だから実体験かは微妙だが。

 そういう種族の悲哀や歴史にフォーカスした重厚なイベントもあったが、プレイヤーの俺は「ケモ耳はかわいいなぁ」としか思っていなかった。

 だからルシア、訝しげな表情で俺を見つめるのはやめてほしい。


「だから、俺にとってお前はただの『腕のいいエンジニア候補』だ。それ以外に興味はない」

「……変わった人」


 ミナは目を丸くし、それから俺の顔をじっと見つめた。

 俺の言葉の真偽を計算しているようだ。


「ミナ。俺の下で働く気はないか?」

「……働く?」

「給料は弾む。詳細は職場を見てもらってからするべきだな。継ぎはぎだらけで整備不足だが、それだけあんたの仕事はある。……飯だって、あの800クレジットのホットドッグよりよほどマシなものを食わせてやる……将来的に」


 これも嘘じゃないんだって!マッコウクジラは複数の造船メーカーから組み合わせたベースに発掘品、イベント報酬の船体パーツなどさまざまを組み込んでいる。整備士にとっては継ぎはぎに見えるんじゃないか?たぶん。


「……労働環境の詳細は?」

「機材のメンテナンスと保守と思ってもらっていい。でかいのも小さいのもよりどりみどりだ。設備は古いが、改装予算はある。お前の好きにイジっていい」

「……改装の裁量権があるなら、悪くない条件かも」


 ミナは少し考え込み、小さく頷いた。

 だが、すぐに怪訝そうな顔で俺の隣に控えるルシアを見る。


「でも、矛盾してる。職場はボロだと言ったのに、こんな立派な使用人を連れてる」


 ミナの視線が、ルシアの完璧なメイド服と、洗練された立ち振る舞いに注がれる。

 確かに、これだけの高性能アンドロイドを従えている人間が、ボロ工場を経営しているというのは不自然か。


「ああ、こいつは……まあ、一点豪華主義ってやつだ。趣味には金をかけるタイプでな」

「……なるほど。趣味人」


 ミナは納得したように頷いた。

 どうやら、変人であることは受け入れられたらしい。


「契約成立だな。よし、案内する」

「……わかった。ツールボックスを取りに行く必要は?」

「いらん。現地に山ほどある」


 俺は立ち上がった。

 ゲーム時代、船内のディテールアップのために配置されていた無数の工具オブジェクト。それらが現実化し、実用品として転がっているのを俺は確認済みだ。

 飾りだが、物は本物だ。

 彼女が俺の「職場」を見た時、どんな顔をするか楽しみだな。

 面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「★」をポチッと!


 アキトの明日の夕飯が少しグレードアップするかもしれません。よろしくお願いします!

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