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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第25話 星間通信、着払いで

 夜が明けた。

 昨晩の襲撃騒ぎを片付けた俺たちは、難民キャンプの中心にある建物――かつての市庁舎へと向かった。

 ボロボロだが、鉄筋コンクリート造りの堅牢な建物だ。屋上には対空機銃座が設置されており、昨日の着陸時に俺たちを歓迎してくれたのはここの連中らしい。


「ここなら、あるはずだ」


 俺は瓦礫の散らばる廊下を歩きながら呟いた。

 いくら辺境とはいえ、これだけの規模の行政施設だ。船には搭載できないような、大型の座標系を参照する星間通信設備が設置されているはずだ。

 通信ができていないのなら壊されているんだろうな。通信設備の破壊は定石だからな。


 最上階の通信室。

 案の定、そこは酷い有様だった。

 天井には巨大な風穴が開き、そこから青空が見えている。どうやら、ピンポイントで砲撃を食らったらしい。

 部屋の中央にあったはずの通信アレイは瓦礫の下敷きになり、モニターは粉砕され、配線は焼け焦げて断線している。


「……物理的な破損率85%。回路の焼き切れも確認。修復不能です、マスター」

 ルシアが冷徹な診断を下す。

 普通ならそうだろう。専門の技師チームと交換パーツの山があっても、復旧には数週間かかるレベルだ。


「資材はあるか?」

「ジャンクパーツなら、昨日の回収ドローンが持ち帰った分がありますが」

「十分だ。持ってこい」


 俺は袖をまくり、工具箱を開いた。

 目の前の鉄屑の山を見る。

 構造? 理論? ……知識としては頭にある。回路図も浮かぶ。だが、実際に手を動かすとなると、理屈よりも先に感覚が正解を弾き出すような、奇妙でややこしい感覚だ。

 俺の手が、最適解を知っている。


 カチャリ、パチリ。

 俺の手が勝手に動き出す。

 断線したケーブルを適当なジャンクでバイパスし、焦げた基板の生きてる部分だけをブリッジさせ、割れたモニターの代わりに携帯端末を強引に接続する。


 本来なら規格の違うパーツ同士だが、変形させて調整し、電圧を絞ることで無理やり同期させる。

 物理法則をねじ曲げているわけじゃない。綱渡りのようなバランスで、回路を成立させているだけだ。


「……信じられません」

 ルシアが瞬きを繰り返している。

「その接続は規格外です。通常なら電圧負荷でショートしますが……コンデンサの容量ギリギリで平衡を保っています。ですがマスター、この状態での稼働時間は極めて限定的です」

「わかってる。長期間は無理だが、今ここでの数十分、通信さえできればそれでいい」


 ゲーム時代の修理パーク。

 カンスト済みのこの力が、現場での応急処置を可能にする。

 ものの数十分で、瓦礫の山だった通信機は、ツギハギだらけだが機能する不気味なオブジェへと生まれ変わった。


「ルシア、回線を開け。相手はアステリア商工会議所、あの支部長だ」

「……接続します。暗号化コード、バイパス成功」


 ブツン、というノイズの後、小さなモニターに支部長の顔が映し出された。

 寝起きなのか、それとも悪い夢でも見ていたのか、ひどく顔色が悪い。


『な、なんだ!? この回線は……イグニス星系だと!?』

「よう、支部長殿。目覚めはどうだ?」


 俺が声をかけると、支部長は飛び上がらんばかりに驚いた。


『ア、アキト!? 馬鹿な、生きて……いや、到着したのか!? あの艦隊を抜けて!?』

「ああ、おかげさまでな。随分と熱烈な歓迎を受けたよ」


 俺はモニター越しに、冷ややかな視線を送る。

 支部長の目が泳いだ。

 驚愕だけじゃない。そこには「計算外」という焦りが見える。


「単刀直入に聞くぞ。……俺たちはデコイだったな?」


 支部長が息を呑む。

 俺たち一隻に戦力を集中させすぎだ。まるで「ここに来る」と知っていたかのように。

 その隙に、別のルートで「本命」を通したのだろう。おそらくは、反政府軍への武器供与か、あるいは政府軍との裏取引かはわからないが。


『ご、誤解だ! 私はただ、君の実力を見込んで……!』

「とぼけるなよ」


 俺は声を低くした。

 怒鳴りはしない。ただ、静かに、重く。

 ゲーム時代、俺はあらゆるパークをカンストさせたが、その中でも特に愛用していたのが交渉系スキル――その中の『威圧』だ。

 練度が違うんだよ、練度が。


「こっちにはルシアが傍受した艦隊の通信記録がある。おたくの商会が裏で流した位置情報のデータもな。……これを傭兵ギルドと、ついでに軍の監査部に流したらどうなるかな?」


『ひっ……!』


 もちろんハッタリだ。そんなものはない。だが、画面の向こうで、支部長が顔面蒼白になって震えだした。

 死んでしまえばそれまでだが、それ故に、あるいはそれだけに傭兵管理機構は信義則違反を重く見る。強さこそが正義なのだ。依頼主が傭兵を意図的に罠に嵌めたとなれば、商会ごと潰れかねない。


「ま、俺も鬼じゃない。仕事は達成したし、アンタの立場も守ってやりたい」

「……よ、要求はなんだ」

「報酬の300万。これは当然もらう」


 俺は指を一本立てた。


「プラス、危険手当と口止め料として200万。さらに、この星系での燃料補給権だけじゃなく、物資の優先購入権も寄越せ」

『ご、500万だと!? そんな無茶な!』

「無茶? 俺たちは命を懸けて、アンタの汚れ仕事を成功させてやったんだぞ? むしろ安いくらいだ」


 そこで俺は、わざとらしく首を傾げてみせた。


「いや、そうだな。前金をもらった記憶が無いんだ。激しい戦闘のドーパミンで全部忘れちまった。……プラス100万だ」


 俺は画面に顔を近づけ、ニヤリと笑った。

 その笑顔が、相手には悪魔のように見えているはずだ。


「それとも、あんたのひいきの艦隊に、どうやって巡洋艦を2隻も落としたのか実戦で教えてやったっていいんだぜ」


『わ、わかった! 払う! 払うから!』


 支部長が悲鳴を上げ、端末を操作する。

 数秒後、俺の懐で軽快な通知音が鳴った。

 入金確認。合計600万クレジット。


「まいどあり。……次からは、もう少しマシな嘘をつくことだな」


 俺は一方的に通信を切った。

 その直後、バチッという音と共に通信機から煙が上がり、完全に沈黙した。

 限界だったらしい。役目を終えてご臨終だ。


「お見事です、マスター。心拍数が全く上がっていませんね。恐喝のプロですか?」

「人聞きが悪いな。正当な労働対価の請求だ」


 俺は動かなくなった通信機をポンと叩いた。

 これでケジメはついた。懐も温まった。


「……流石に、クルーを探したっていいな」


 俺はポツリと漏らした。

 二人であの巨大な船を回すのは、やはり限界がある。今回の戦闘だって、オペレーターがいればもっと楽だったはずだ。

 金がある今なら、まともな人材を雇えるかもしれない。


「よし、行くぞルシア。金はある。次は『買い物』だ」

「買い物? この星系でですか?」

「まさか。こんな戦場じゃ、まともな食材も、俺が一番欲してる『娯楽』もありゃしない」


 俺はニヤリと笑い、出口へと歩き出した。

 商人のソロバンを叩き割り、傭兵の落とし前をつけた今、俺の頭の中はすでに次の計画でいっぱいだった。


「次は商業コロニーに行くぞ。そこで美味い飯もあるかもしれないし、忘れてたゲームや映画を買い込むんだ」

「なるほど。精神衛生パラメータの回復には、適切な消費行動が推奨されます」


 目的は決まった。

 懐には600万クレジット。

 次はパーッと使って、この殺伐とした気分の憂さ晴らしといこうじゃないか。

 ゲームの主人公はどんな鍵もロックピックで開けるし、コンピューターはミニゲームでハッキングするし、謎の素材からあらゆるものをクラフトできなきゃいけないの。


 面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「★」をポチッと!


 アキトの明日の夕飯が少しグレードアップするかもしれません。よろしくお願いします!

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