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スペース飯テロ輸送艦 最強宇宙船で本物の食材を狩り尽くし、最高のグルメで銀河をわからせる  作者: 空向井くもり


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第119話 『全領域環境遮断型外骨格』

 案内されたのは、先ほどのジャンク屋とは打って変わって、殺伐とした空気が漂うエリアだった。

 通路の明かりは少し薄暗く、行き交う人々もまた、どこかピリピリとした空気を纏っている。

 そんな中、彼女が足を止めたのは、重厚な扉を構えた特殊環境装備の専門店だった。


 店内には、巨大な採掘用外骨格や、真空空間での作業を想定した高機能宇宙服が所狭しと並べられている。

 場違いなほど高級感が漂うその一角で、エマルガンドは一体のマネキンの前で足を止めた。


 飾られていたのは、深海探査艇のような球面バイザーを持つ、重厚な防護スーツだった。

 表面には多層構造の複合装甲、背部には大型の生命維持ユニット。対放射線、対毒ガス、耐熱、耐寒。あらゆる極限環境に対応した、フルフェイスの環境シールドスーツだ。

 その威容は、もはや防護服というより装甲服(パワードスーツ)に近い。


「重力制御フィールド搭載型の、クラスA環境防護スーツ……『全領域環境遮断型外骨格 "ゼノ・ガード・Mk.IV"』ですね。これなら、バイオハザード・レベル4の汚染区域でも活動可能です」

「ゼノ……なんだって? 随分と仰々しい名前だな。……例の、教授の座標へ降りるには必要ってわけか」


 彼女は真剣な表情で頷き、ディスプレイに表示されたスペック表を食い入るように見つめた。


「はい。私は研究所支給の専用スーツを持っていますが、アキトさんたちの分がありませんから」


 そう言って、彼女は隣に並んでいた少し小ぶりな――とは言っても十分にごつい――スーツを指差した。


「現地の気候や大気成分もそうですが、未知の植物が放出する花粉や胞子、それに生物由来のエアロゾル、細菌、ウイルス……。未開拓の惑星上のリスクは膨大ですから」


「ルシアさんの記録で見ましたが、あの『カボチャ』の一件のときは、すごく幸運だったんですよ」

「……うっ」


 エマからの指摘に、俺は言葉に詰まった。

 あの時はノリと勢いでなんとかなってしまったが、専門家の目から見れば冷や汗ものだったらしい。


「宇宙からのスキャンである程度の環境は把握できますが、局所的な危険までは分かりません。特に今回は生態系そのものの調査ですから、万全を期しておきたいんです。……それに、みなさんは本格的な惑星調査は初めてですよね?」


 彼女が俺たちの安全を第一に考えてくれているのは伝わってきた。

 普段は頼りないが、こういう時の危機管理能力はさすが専門家といったところか。


「……で、値段はいくらだ?」


 俺は値札に目をやった。

 ……高い。さっきミナが買ったパーツの比ではない。ゼロの数が二つほど違う。

 思わず眉間を押さえた俺に、ルシアが淡々と補足を入れる。


「適正価格です、マスター。このクラスの環境防護スーツは、そもそも需要が極端に少ないため量産効果が働きません。軍用規格と同等の気密性と、未知のウイルスすら遮断する多層フィルター、さらに自律型の生命維持システムまで搭載されています」

「この機能なら、安いくらいですぅ……。それに、こういう装備は『万が一』が起きた時にはもう手遅れなんです。現地でスーツが破れたり、フィルターが詰まったりしたら……私たちにできることは何もありません」


 エマの言葉には実感がこもっていた。

 フィールドワークの過酷さを知る者ゆえの説得力だ。

 確かに、未知の惑星で装備トラブルが起きれば、それは即ち死を意味する。


 俺自身は……まぁ、サイオニック能力でバリアを張れば、短時間ならなんとかなるかもしれない。


 サイオニック能力には『状態異常回復』や『瞬間回復』にあたるものもあったはずだ。

 だが、この世界でそれらが本当に機能するのか、検証もしていない。

 それに、常に能力を発動し続けるわけにはいかないし、未知のバクテリアやウイルス相手にどこまで通用するかも不明だ。

 何より、自分の命で博打はしない方がいい。


 サイオニックの練習は必要だと分かってはいるが、船内でやってうっかり何か壊してしまっては一大事だと、これまでは封印していたのだ。

 惑星に降りて広い空間で安全が確保できたら、まずはサイオニックの検証と訓練をしておかないとな……。


「分かった。必要経費だ。ケチる場所じゃないな」


 俺たちの旅の核心に関わる投資だ。

 安全な食材を確保し、かつ仲間の命を守るための。


「ルシア、お前はどうなる? お前もスーツが必要か?」

「いえ。私の機体は対汚染・対極限環境仕様のコーティングが施されています。エアロゾルによる内部侵食のリスクは無視できるレベルです」

「そうか。なら、俺とミナの分だな」


「ルシア、決済を頼む。2着分だ」

「了解。……賢明な判断です、マスター。生存確率を最大化するための出費に、妥協は不要と考えます」


 ルシアが端末を操作すると、承認のシグナルが鳴った。

 エマルガンドが、ほっとしたように胸を撫で下ろす。


「ありがとうございます、アキトさん。……これで、皆さんと一緒に美味しいものが探せますね」

「ああ。……それにしても、いい買い物だったな。これで準備は万端か?」

「はい! あとは出発を待つだけですね!」


 三者三様、それぞれの思いが詰まった買い物を終え、俺たちはドックへと戻る足取りを早めた。

 目指すは未踏の星系。

 そこで待っているのが、極上の食材か、それとも――。

 面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「★」をポチッと!

 アキトの明日の夕飯が少しグレードアップするかもしれません。よろしくお願いします!

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