第4話〜力の起こり〜
手元から放たれた眩い光に目を向けると、その光源は手に握りしめた青い宝石からだった。
その光はどこか温かく、不思議なことそれを見つめているうちに腹部の激痛が消えていくのが分かる。
(痛みが消えた、これなら…!)
腹部の痛みがなくなったことで俺は自由に動けるようになる。
ナイフはもう眼前まで迫ってきていたが、全てがスローモーションになっているおかげで俺はなんとかギリギリのところで身を捩ってそれを避けることができた。
正確に心臓を狙った一撃を手負いの人間に避けられるとは思っていなかったらしく、目の前の女は驚きからか、目を見開いていた。
俺はその隙を利用して逃げ出そうと駆け出す。
「あはっ!その出血で動けるなんてやるじゃん。でもまぁ逃げたって無駄だよー!」
完全に意表をついて走り出したために、女との距離はかなり開いていし、何より後ろを確認する限り、女はまだこちらを追ってきてすらいない。
だと言うのに、女は余裕そうに俺に向けてそう叫んでくる。
「ふざけんな!これだけ差が開けばもう追いつけるわけが…っ」
「はい、捕まえた」
その声が聞こえた瞬間、突然手を捕まれ直後に地面に叩きつけらる。
「かはっ……!?」
「オーダーズ相手に足の速さだけで逃げ切れるわけないじゃん。頭悪いねぇ、キミ」
女はゴミを見るような目で俺を見下ろしている。
オーダーズ?いったい何の話だ…?
いや、それよりもこの女はいったいどうやって、今の一瞬でこの距離を詰めてきた?
仮にこの女がどんなに足が速かったとしても、こっちだって全力で走っていたし、そもそも100メートル以上の距離があったはずだ。
追いつくまでに10秒…いや30秒程度かからないとおかしい。
だと言うのに、この女は俺が目を離したものの数秒で追いついたのだ。
こんなの常識的にあり得ない。
余裕そうな笑みを浮かべて、再び俺に馬乗りになってくる女に俺は焦りながらも問いかける。
「お前は…もしかして魔女なのか?」
普通の人間にこんな動きができるわけがない。
そこで思ったのだ、これが女神様が言っていた魔法の力なのではないか。
この女は魔法を操る存在…いわゆる魔女なのではないかと。
だが、俺の問いかけに女は吹き出した。
「あははっ!!!魔女!魔女だって!もしかしてキミ、純粋種とオーダーズの違いも知らないわけ?」
「お前、さっきから何言って…」
「本当に知らないんだ。でも別に知らないならいいよ。どうせ死んじゃうんだから、関係ないからね」
そう言うと彼女は急に冷めたような目でこちらを見つめ、ゆっくりとナイフを振り上げる。
「やめっ…!」
俺は馬乗りになる女を突き飛ばそうとするが、彼女は空いている手で俺の首を掴みそのまま絞めあげる。
「おとなしくしてよ。さっきみたいに暴れられると、狙いが定まんないからさぁ」
首を絞める手は到底女の力とは思えないほど…
いや、もはや人間ですらないのではないかと思えるほどに強く、首の骨が軋むの音が聞こえる。
俺は両手でその細い腕を掴み、それをどかそうとするのだが、どんなに力を込めてもびくともしない。逆にさらに強い力で締め上げられ、完全に息ができなくなる。
このままじゃ刺されるまでもなく、窒息死する…
なんとか逃れようと、その腕に思いっきり爪を立ててみても傷つけるのはどこれか、痕すら残すことができない。
もう駄目だ、殺される…
酸素を失い、次第に意識が遠のいていく。
かろうじて開いている目で女を見れば、彼女は再びナイフをこちらに向けて振り下ろしていた。
あぁ、今度こそ終わった。
そのまま意識を手放そうとした時、不意にどこからか声が聞こえた気がした。
「勝手に死のうとしてんじゃねぇよ」
その声が聞こえた瞬間、脳裏に何かが流れ込んでくる。
それが何なのか、脳が情報を処理するよりも早く身体が動く。
俺は手に持った青い宝石を強く握りしめ、それを彼女の胸に向かって押し当てる。
なぜそうしたのかは分からない、完全に無意識の行動だった。
だが次の瞬間、青い宝石が再び強い光を放った。
先程の暖かい光とは違う、まるで俺を鼓舞するかのような力強い光。
それが一際強い輝きを放った瞬間、青い宝石は剣へと形を変え、そのまま女の胸に突き刺さった。
「は、え…嘘…?」
女の胸を貫通する剣…その一撃によって彼女はナイフを手から取りこぼし、俺の首を締め上げる力も弱まる。
「今っ!!」
これまでの人生で剣を扱った経験などない。
だからなぜ、そんな動きができたのか分からない。
だがその時の俺は無意識のうちに剣を掴むと、そのまま女の胸から引き抜き、俺の首を締めている腕にそれを突き立てる。
さっきどんなに力を込めても傷1つつけられなかった彼女の腕から鮮血が吹き出し、彼女は苦しそうに呻くと後ろに飛び退いて俺から距離を取った。
「痛いなぁ…っ。何その不意打ち、オーダーズを知らないみたいな雰囲気出してたくせに、アンタも輝核の力を使えるんじゃない」
女はよく分からない言葉を羅列しながらも、憎々しげに俺を睨みつけてくる。
彼女の言葉は分からないが、これだけは分かる。
コイツを殺さないと、俺が殺される。
だったら…やってやる。
痛みや恐怖はいつの間にか闘志へと変わり、俺は剣を強く握りしめた。




