第34話〜幕引き〜
決闘場全体が揺れるほどの激しい激突音と沸き立つ砂埃…
魔力の全てを乗せた一撃だけあって自分でも驚くほどの凄まじい衝撃だが、これであの男を倒せたとも思えない。
まだ終わっていない。
ある種のそんな確信を持ちながらもその中心を見つめ剣を構える。
やがて予想通り粉塵の中に1つの影が移り、オウルアイが現れた。
「驚いたな。ここまでのダメージを負ったのは久しぶりだ」
涼しい顔をしながら、服についた砂埃を払い落とすオウルアイ。
全くのノーダメージなのかと絶望しかけたが、よく見れば奴が動かしているのは右の片腕だけ…
残った左腕については力なく垂れ下がっていた。
「へぇ…腕の1本くらいは持っていけたみたいだな」
煽るようにそう言うと、オウルアイは意外なほど素直にその言葉を肯定した。
「あぁ、しばらく左腕は使えんな。見事な一撃だった」
「そりゃどうも…」
「さっきの一撃、どんな奇術を使った?あれは魔法の類ではないのだろう?」
そう聞いてくるオウルアイからは、いつのまにか先ほどまでヒシヒシと感じていた殺意が消えている。
ただ純粋に自分を出し抜いた方法に興味があるようだった。
「どうして魔法じゃないと思うんだ?俺が消える魔法の使い手かもしれないだろう」
俺の言葉に彼は首を振って答える。
「それはあり得ん。もし魔法だとすれば少なからず魔力の起こりが生じるはずだ。だが、さっきの一撃には欠片もそれを感じなかったからな」
なるほど、そこまで分析できているわけか。
となれば…2回目は通用しそうにないな。
そう諦めた俺は彼にカラクリを伝えることにした。
「さっき使ったのはミラージュっていう一種の自然現象だ。お前の炎と風の剣がもたらした急激な温度変化
…そこに俺が光を加えて強制的に見える景色を屈折させたんだ」
「熱、それに光か…つまり貴様はこの決闘場内に流れる空気を操作して先ほどの幻覚を作り出したというわけか?」
「察しがいいな、まぁそういうことだ。だからお前の言う通り、あれは魔法でも何でもないよ」
「そうか…弱い割に随分と妙な技を使う。つくづくおかしな男だ…おっと、無駄話が過ぎた。そろそろ決着をつけねばな」
オウルアイは残った手で炎の剣を構える。
「へぇ…まだやんのかよ。片腕じゃ満足に戦えないだろ?」
「ふん。貴様の方こそ、先ほどの出血とさっき使った魔力消費を考えれば、もう立っているのもやっとだろう?そんな相手片手で十分だ」
オウルアイの言葉は正しい。確かに無理な戦闘を続けたことで俺の身体はすでに限界が近い。
視界も霞んでいるし、満足に思考できるほど脳に血も回っていない。
一瞬でも気を抜いたらその場に崩れ落ちてしまいそうだ。
だが、いつの間にかそんな事は不思議と気にならなくなっていた。
代わりに俺の心をいつの間にか満たしていたのは、アイツに勝ちたいという勝利への欲求だけ。
その欲望のままに俺は剣を強く握りしめ、切っ先を彼に向ける。
「いくぜ…」
身体は限界のはずなのに、不思議と先ほどよりも遥かに早い速度で動くことができ、あっという間に奴の背後に回る。
だが、奴の反応速度もここにきて飛躍的に上がっているらしく、オレの繰り出した一撃をいとも容易く弾き返してみせた。
剣を弾かれ、耐性が崩れる。
「今度こそ、終わりだ」
オウルアイはその一瞬の隙を突き、俺の腹を突き刺そうと、剣をこちらに向け真っ直ぐに突き出す。
「くっ…!!」
間一髪のところで彼の放った突きを、自身の剣の腹部分で防ぎ軌道をそらす。
これによって再び一瞬の反撃機会が生まれるが、すぐさまオウルアイは後ろに飛び退いて俺からの追撃から距離を取る。
そんな攻防が続き次第にお互いの息が上がってくる。
「このまま続けても先に力尽きた方が負けるだけか。そんな試合運びになるのはさすがにつまらんな」
「ならルールを変えようぜ。次の1撃を決めたほうが勝ちってのはどうよ、シンプルで分かりやすいだろう?」
俺の提案にオウルアイは小さく笑う。
「ふん。いいだろう。だが後悔するなよ?俺の魔力はまだ尽きてはいないのだからな」
その言葉と共に再び彼の剣に炎が灯り爆炎を成す。
ここに来てまだあんな出力を引き出せるとは…前評判通り、この男は俺とは格が違う存在なのだろう。
だとしても、この勝負だけは勝ってみせる。
最後の力を振り絞り剣に光の魔法を込める。
残り火ほどの小さな光が剣に宿る。
今にも消えそうな淡い輝き、だがそれでも俺には随分と頼もしく見えた。
「いくぜ…!」
その輝きが消えないうちに俺は一気に間合いを詰めてオウルアイに迫る。
彼もすぐさま反応し、こちらを迎え撃とうと剣を振るう。
「これで…終わりだ!」
これまで剣を振るってきた熟練度の違いだろう。切っ先はほんの少しだけ彼の方が早く俺に届く。
そして次の瞬間…
俺は燃え盛る炎に飲み込まれながら、空中へと叩き上げられた。




