第26話〜最悪の邂逅〜
最終試験控室
「まぁ、正直こうなるんじゃないかとは思ってたさ…」
対戦カードを確認してから数分間、俺は控室の席に着き天を仰いでいた。
最終試験の相手となるオウルアイ・ストリクス。
受付嬢の話から察するに、今回の受験者の中で間違いなくナンバーワンの実力を持っているようで、当たった時点で俺の敗北は決しているようなものだ。
「せめて無様に負けないようにしねぇと…」
「ハルキ、戦う前からそんなに落ち込んでちゃだめですよ?」
机に突っ伏し落胆している俺の背中に声がかけられる。
頭を上げて確認してみれば、目の前にリリーが立っていた。
「リリー、来てたのか」
「はい。私の試験はもうちょっと先なのですが、家にいるのも落ち着かなくて…」
「そうか、それで…対戦相手はどんなやつか分かったか?」
「相手は同じ魔法使いみたいですね。実際にどんな方なのかは存じていないのですが…」
魔法使い同士の対決…俺の相手も剣士だという話だし、対戦カードに関してはランダムではなくある程度手が加わっていると見てよさそうだ。
「そうか。まぁお互いここまできたらやれる事をやるしかないよな」
「ふふ、そうですね。大丈夫、ハルキならきっと勝てますよ」
そう言って柔らかい微笑みを浮かべるリリー。
「…お前なぁ、俺の相手知ってるか?」
「オウルアイ様ですよね、ストリクス家の」
「そうだよ。よく知らないが、今の時点で騎士レベルの力を持った奴なんだろ?そんな化け物に俺が太刀打ちできるはずないだろうに…」
「騎士レベルの実力、という話ならホーングリズリーを討伐しているハルキだって同じだと思いますよ」
まっすぐ俺を見ながら答えるリリー。
声色は優しいままだが、真剣な眼差しから彼女が本心からそう言っている事が分かる。
「あれはお前のサポートがあったから勝てただけだろ。俺1人なら勝負にもならなかったよ」
「それでも、勝機を見出したのも止めを刺したのもハルキです。だからあれはハルキの成果ですよ。そもそも…一般人があの出力の攻撃を繰り出せること自体がイレギュラーなんですから」
「あれだって火事の馬鹿力で…」
なおも彼女の言葉を否定しようとしたが、彼女は痺れを切らしたように俺の口を人差し指で塞いだ。
「あなたはネガティブ過ぎです。大丈夫、ハルキはちゃんと強いですから、もう少し自信を持ってください」
「身の程をわきまえてると言ってほしいね」
リスクヘッジは社会の基本である。
自分に過度な期待をせずに、部をわきまえた行動を心がける。
そうすることで常に負うべきリスクを最小限にとどめる事ができる。
これこそ前の世界で俺が仕事の中で常に心がけていたことであり、本来俺の判断の根幹となっている考えだ。
異世界に飛ばされてから生き残ることに必死でこのポリシーがおざなりになっていたが、落ち着いて思考できるようになった今は、自分の実力を冷静に分析できているはずだ。
だと言うのに、リリーは俺の完璧な自己評価を聞いて呆れたように深いため息をついた。
「ほんとにもう…逆に身の程を分かってなさすぎです。そんな逃げ腰じゃ勝てる試合も勝てないですよ?」
ジト目を向けながらそう言うリリーに再び反論しようとしたのだが…
突如として当てられた殺気に近い威圧感がそれを遮った。
「勝てる試合、だと?」
まるで聞いた人間を凍りつかせるのではないかと思えるほど冷たく発せられた一言。
その声の方向に目をやると、鋭い金色の目がこちらを真っ直ぐ見据えていた。
その金色と対比になるような高貴な銀色の髪。
威圧的であるものの、どこか優雅さや高貴さを感じられる佇まい。
そうした他者と一線を画す圧倒的な雰囲気によって俺は直感的に理解する。
目の前にいるこの男が俺の対戦相手なのだと。
「アンタが…オウルアイ・ストリクスか?」
俺がそう問いかけるが、彼は俺を一瞥しただけで何も答えない。
だが、他者を見下したような瞳と高圧的な雰囲気が、俺と語る言葉など持ち合わせていない、ということを雄弁に伝えていた。
その態度に若干苛ついたが、俺は努めて紳士的に彼に手を差し伸べながら言葉を続ける。
「対戦相手のハルキ・イチジョウだ、よろしくな」
だがそんな俺の友好的な行動に対しても、オウルアイは侮蔑的な笑みを浮かべるだけだった。
「あの…同じ騎士を志す者としてさすがに失礼なのではないですか?」
俺が苦笑いを浮かべていたところで、リリーが助け舟を出してくれる。
すると観念したようにオウルアイはようやく口を開く。
「先ほどの発言もそうだが、貴様は俺とこの凡夫が同じ立ち位置にいると思っているようだな。格の違いも見極められないなら、騎士など目指さないほうが賢明だぞ」
「…は?」
オウルアイの言葉に笑顔のまま殺意を向けるリリー。
薄々思っていたことだが、コイツ結構猫をかぶっているタイプなんじゃなかろうか。
「聡明さが命の魔法使いが相手の力量も測れないとは、こんなのが最終試験まで残る辺り騎士団もよほど人手不足のようだ」
「あなたさっきから黙って聞いていれば…ってちょっと…!!」
リリーは煽り続けるオウルアイに反論しようとしたが、言うだけ言って彼はその場を後にしていた。
怒りのやり場を失ったリリーは憎々しげに彼の後ろ姿を睨みつけながら拳を握りしめていた。




