第25話〜最強の挑戦者〜
最終試験、正直に言えばここまで来たらアイリスさんの面目を潰す心配もないだろうし落ちても構わないと思っていた。
だが、禁書エリアの件やリリーと交わした会話を考えると、安易に落ちるのも気が引けてきた。
まぁどっちにしろ最後なわけだし、ここまで来たらやれるだけやってみるか。
そんな曖昧な決意を胸に、俺は試験当日の朝を迎えることになった。
「会場は騎士団本部か、それなら2次試験みたいなヤバい内容じゃなさそうだな…」
また森で騎士団指定の危険な魔物と戦えなどと言われたらどうしようかと思ったが、本拠地でそこまで無茶なことはしないだろう。
そんな事を考えながら本部に辿り着くと、受付の女性がこちらに会釈をしてくる。
「ようこそ冒険者協会へ!本日はどういったご要件でしょうか?」
「入団試験を受けに来ました。最終試験の会場がここらしくて」
「なるほど、それはおめでとうございます!では試験表をお預かりしますね!」
そう言われて彼女に試験表を差し出すと、彼女は少し驚いたような顔で俺を見てくる。
試験表に不備でもあったのだろうか、俺は少し不安になり彼女に問いかける。
「あの…何かありましたか?」
「いえ、すみません…ただ、少し噂になっていた方だったので…」
「噂、俺がですか?」
「はい、2次試験でホーングリズリーを倒した剣士と魔法使いのペアがいるって…剣士の方はあなたですよね?」
「あ、まぁ一応そうですけど…」
俺の返答に、受付の女性は目を輝かせる。
「やっぱり!試験段階であんな大物を倒せるなんてすごいです!」
「あ、ありがとうございます」
戸惑いながらも営業スマイルで感謝を述べる。
確かにホーングリズリーとかいう魔物が強かったのは事実だが、まさか倒しただけで噂になるレベルだったとは…。
つくづく2次試験の監督官が異常者だったことが際立つ話である。
「こんな優秀な方ばかりがテストを受けに来られるなんて、今回の試験は豊作だって騎士さんの間でも評判なんですよ」
ニコニコと話す受付嬢の様子から、恐らくそれは事実なのだろうと理解する。
なるほど、つまり今のところ俺は入団試験では良い評価を残せているということか。
できれば最終試験も同じ評価で締めたいところだが…
「あの、ところで最終試験ってどんなことをやるか知ってますか?」
「ふふ、もちろん知っていますよ、でも秘密です♪」
「あはは、そうですよね…」
先に少しでも情報を得られないかと、ダメ元で受付嬢に聞いてみるが、笑顔で回答を拒否される。
まぁ、これまでの内容だって直前までずっと伏せられていたわけだし、簡単に聞けるはずがないとは思っていたが…。
「でも、前回の内容であればお伝えできますよ。そして最終試験は毎回同じ内容なので、ほぼ間違いなく前回と同じものになると思います」
肩を落とした俺を励ますように優しい声色でそう伝えてくれる受付嬢。
その言葉に俺はやや前のめりになりながら彼女に詰め寄る。
「マジですか?どんな内容なんです?」
「受験者同士の1対1の直接対決ですよ。勝ったほうが正式に騎士になる権利を得られるんです」
「なるほど、タイマンってことですか」
つまり最後の試験は純粋な戦闘能力を試すテストというわけか。
そういうことであれば、曲がりなりにもあの巨大熊を倒させた俺にも勝ち目があるかもしれない。
「ふふ、少し自信がついたみたいでよかったです。でも今回の受験者さんはかなりの実力者が多いようなので、気を引き締めてくださいね。特に今回はあのストリクス家のご子息も受験されているようですから」
「ストリクス家?」
俺が聞き返すと受付嬢は驚いたように少し目を見開いた。
「もしかしてご存知ないですか?あの3大貴族の1つなのですが…」
「すみません、ちょっと常識に疎いものでして…」
俺が苦笑いしながらそう答えると、受付嬢は訝しみながらも、こほんと咳払いをいれて解説を始める。
「ストリクス家は3大貴族の中でも剣術に優れた家系として名の知れた名門ですよ。歴代の騎士団長を何名も輩出してきたことはもちろん、初代剣聖だってストリクス家の方なのですから」
「へぇ…つまりエリート貴族ってことですか」
「あはは…まぁ、雑な言い方をすればそうですね。そしてその歴史あるストリクス家の中でも、若くからその才能を開花させた天才剣士…オウルアイ様が今回の入団試験に参加されているんです」
「オウルアイ…」
「私も噂でしか存じていませんが、彼は今の時点でも並の騎士なら圧倒できる実力者だと聞いています。なので、試験突破の一番の鍵は対戦相手が彼にならないように祈ることかもしれませんね」
「ご忠告どうも…」
「はい、心ばかりではありますが、私もここで応援しています。だから頑張ってきてくださいね。それではご武運を!」
受付嬢からのエールを受けながら、俺は試験会場へと向かう。
「ここが会場か…」
閉ざされた真っ白な扉…意を決してその扉を開くと会場の眩い光が差し込み、俺は目を細める。
ようやく目が慣れてきて、会場の中心に目をやると、そこには大きな紙に今回の対戦カードが張り出されていた。
慣れないこの国の文字を必死に読み込み、対戦カードから自身の名前を探す。
数十秒かけてようやく見つけた自分の名前。
そしてその隣には…
オウルアイ・ストリクス
そう達筆な文字で書かれていた。




