第21話〜失われた魔法〜
地に伏せるホーングリズリーの身体に触れ生死を確かめる。
その目は今にも俺達を食い殺そうとするかのように、鋭く見開かれているものの、俺が無造作に顔に触れてもピクリとも動くことはなく、鼓動も止まっている。
どうやら先ほどの一撃で仕留めることが出来たらしい。そこまで確認してようやく俺は戦いに勝利したことを実感できた。
「はぁはぁ…やったぞ…」
安心して地面に倒れ込むと、リリーが慌てて駆け寄ってくる。
「ハルキ…!大丈夫ですか…?」
「あぁ…なんとかな…」
リリーに手を差し伸べられ、その手を掴み上半身起こす。
「でも本当にすごいです。まさかあのホーングリズリーを倒してしまうなんて…」
「別に俺一人で勝ったわけじゃないだろ。リリーがいなけりゃ途中で5回は殺されてたよ」
「ハルキ…」
「それに、土壇場で使った魔法だってお前がないと思いつくこともなかっただろうしな」
「そう、それですよ。あの魔法…」
魔法、という言葉を出した瞬間リリーの目が若干鋭くなり、真剣な顔つきに変わる。
「な、なんだよ…!?」
「さっきのあの強い光…あれって光魔法ですよね、どうしてハルキがそんなものを使えるんですか?」
「光魔法って何の話だよ…?」
「ホーングリズリーを倒す時に放った魔法です、あれは間違いなく光魔法でしたよね?」
若干圧をかけるように話すリリーに引きながらも状況を整理する。
確かに俺はグリズリーを倒すために、即席で魔法を使った。
だが、それはたまたま頭に浮かんだイメージを形にしただけであり、リリーのように狙った属性の魔法を出したわけではない。
だが彼女の様子から察するに、俺が使った魔法は少し特殊なもののようだった。
「光魔法…ってのは普通に使えるもんじゃないのか?」
「そうですね、私が知る限りではこの世界に使用者はいないんじゃないでしょうか…存在だって古い文献を漁らないと出てこないような物ですし…」
「マジかよ…それってめっちゃすごい魔法なんじゃないか!?」
素人が剣を持っただけでこの世界でどうやって生きていけばいいのかと絶望していたが、ここにきて超レアな魔法をゲット出来たらしい。
そんなにすごい魔法ならさぞ強力な力を秘めていることだろう…!
そんな期待を込めてリリーに詰め寄るが、リリーは少し困ったような顔をしながら答えてくれた。
「あはは…確かにレアな魔法なのは確かですよ。でも強いのかと言われると…」
「え、もしかして強くないのか?光魔法なんて大層な名前が付いてるのに?」
「うーん、かなり昔に存在していたものなので、参考文献が少ないというのもあるかもしれないですが…そもそも光魔法は攻撃に特化した魔法ではないんです」
「攻撃に特化していない…というと?」
「えっと、光魔法はかつては文字通り、暗い夜道などを歩くときなどに辺りを照らす魔法…として用いられていたみたいなんです」
暗い夜道を照らす光…それってつまり…
「それって要するに街頭みたいなもんってことか…?」
「はい、そう、ですね…なので人が火を操れるようになってからは、自然と光魔法も衰退していったと聞いています」
「マジ…かよ…」
それを聞いて一気に肩の力が抜けていく俺。
引き当てたのがSSRの魔法だと思った矢先に、蓋を開けてみたらただのランプ代わりだったとは…
どこまでもこの世界は俺に優しくないようだ。
「ですが…だとしたらさっきの一撃は少し妙なんです」
愕然とした俺とは対照的に真剣な表情でリリーが続ける。
「妙って?」
「ほら、だってハルキはその光魔法であのホーングリズリーを倒したじゃないですか。攻撃特化の魔法じゃないのにあの威力で…」
「言われてみれば確かに…」
本当に光魔法に攻撃性能がないなら、最後の一撃だってただ眩しく光るだけの斬撃にしかならなかったはずだ。
だと言うのに、俺は光魔法を纏った一撃でグリズリーを倒すことが出来た。
理屈はさっぱり分からないが、もしかしたら光魔法にはもう少し他の力もあるかもしれない。
だとすれば…
「試験が終わったら、この魔法のこと調べる必要がありそうだな」
俺の呟きにリリーも頷く。
「そうですね。私も強力しますから、戻ったら一緒に探してみましょうか」
「えっと、別に帰ってまで手伝ってくれなくてもいいんだぞ…?」
「ふふ、何言ってるんですか。さっきも言いましたけど、友達が困っていたら助けるのは当たり前でしょう?それに…古代の魔法については私もすごく興味がありますし」
「そういう事なら助かるけど…」
「じゃあ決まりですね!そうと決まれば2次試験を突破したことをあの試験監督者さんに伝えに行きましょう!」
そう言って足取り軽く帰路につくリリー。
そんな彼女に軽く流されながらも、俺は生きて戻ることができることに安堵しながら、彼女のあとに続くのだった。




