表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

第8話 まっしーの楽しいパソコン教室

 ──ついにこの日が来た。

 社内有志による、記念すべき第1回パソコン教室。


「改めまして、情報システム担当の真嶋です。本日は……よろしくお願いします」


 緊張で声がわずかに上ずる。頭を下げると、前列に座る三谷がちょこんと両手を膝に置き、小さく「よろしくお願いします……」と返した。


 一方、佐伯部長はといえば──


「……なんで和室スタイルなんですか?」


「腰が弱くてな。あの椅子、わしの尾てい骨には刺さるんじゃ」


 会議室の椅子の上に、ふかふかのマイ座布団。紙パックのお茶を片手にくつろぐ姿は、どう見ても講師を迎える生徒というより趣味サークルの参加者だ。開始三分でツッコミを入れられる教室って、どうなんだろう。


「えー……この教室では、パソコンスキルはもちろん、楽しさや可能性も一緒に持ち帰ってもらいたいと思っています!」


 一瞬、どこかで拍手が起こりかけて──止まった。たぶん三谷の手だ。惜しい。


「では早速、皆さんの受講動機を。……じゃあ、三谷さんから!」


「えっ……えっと、三谷です。受注課です。

 パソコン……すごく苦手なんですけど、少しでも自信が持てたらなって……」


「はい、最高です。勇気を出してくれてありがとう」


 佐伯部長はうんうんと頷きながら、お茶をすする。


「製造部の佐伯です。わしを筆頭に、製造部はアナログ人間が多くてな。自分ができんことを若いもんに注意もできん。だから勉強しようと思ってのう」


 ……いい流れだ。よし、ここから実技へ。


「さて──今日は“自己紹介ホームページ”を作ってもらいます!」


「ほぇ……」

「ほう、それはまた華やかじゃのう」


「いえ、内容は超シンプルです。これがサンプルファイルです」


 <!DOCTYPE html>

 <html>

 <head><meta charset="UTF-8">

 <title>〇〇のページ</title>

 </head>

 <body>

 <h1>こんにちは! わたしの名前は 〇〇 です。</h1>

 <p>所属部署:〇〇部</p>

 <p>趣味:〇〇</p>

 </body>

 </html>


 モニターに映し出された画面。HTMLタグに挟まれた「〇〇」の文字列。ふたりの表情が同時に固まった。


「……こんな、できないです……」

「わしもじゃ。どこから手ぇつけてええか、さっぱりわからん」


 俺は笑って答える。


「大丈夫です。皆さんにやってもらうのは──書き換えるだけです」


「?」


「ファイルをメモ帳で開いて、この〇〇を自分の名前や部署に入れ替えて、保存してみてください。それだけでページになります」


「……そんな簡単なことで、ページになるんですか……?」


「なります。作れた!って感覚、クセになりますよ」


 三谷は不安げにキーボードをぽちぽち叩き始めた。佐伯部長は「趣味は猫の動画にしとこうかのう」と呟きながらにやり。


 保存して、ダブルクリック。

 その瞬間──


「……出た……! 私の名前が、ページに……!」


 モニターに表示された文字は、《こんにちは! わたしの名前は 三谷薫 です。》


「おおっ! わしのも出とるぞ!」


 ふたりの顔がぱっと明るくなる。胸の奥に、講師としての手応えがじんわり広がった。


「今日はお試しで文章だけ変えてもらいましたが、次からはそれぞれの意味を説明しながら、画像やリンクを入れて、自分だけのページを作ってもらいたいと思ってます」


 そう言いながら、俺は自分の作ったサンプルファイルを開いた。

 開いて──固まった。


 《まっしーの楽しいパソコン教室》


 背景はピンク。クマとうさぎが飛び跳ね、ポップ体の文字が踊り、さらには陽気なBGMまで流れ出す。


(おいおいおいおいおい……!?)


「か、かわ……いい、ですね?」

「なんじゃこりゃ、女子力たっか!」


 プロジェクターの下で、誰にも見えない“あいつ”がニヤニヤしていた。


「……ユウ。お前か」


「楽しくって言ったの、まっしーじゃん?」


 ──やれやれ。

 けれど教室には笑い声が広がり、キーボードを叩く音が小さな成功を刻んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ