表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

第11話 受注誤爆、即応せよ!

※本作に登場するシステムや業務上のトラブル描写は、一般的な事例を参考にしたフィクションです。特定の企業・実在のシステムとは関係ありません。

 ──考えろ、考えろ……っ!


 脳の芯がじりじり焼けるような感覚だった。

 それでも、指先は震えず動いた。


(まずは現場を止めないと……)


「倉庫にピッキング即中断! 誰か、今すぐ電話飛ばして!」


「は、はいっ!」


 受注課の若手が駆け出していく。

 その間に俺は椅子へ滑り込み、システム管理画面へログイン。

 パスワード入力すらもどかしい。


(まずは対象データの洗い出し……)

 対象はM社。先方の発注日が一年前の2024年8月19日で、受注日は本日日付。発注種別はEDIデータのみ──そこだけ狙えばいい。


 頭の中でSQL文の骨組みを必死に組み立てる。


 SELECT * FROM orders

 WHERE order_date = '2024-08-19'

 AND customer_cd = '00111'

 AND order_flg = ‘1’

 AND created_date > '2025-08-20 00:00:00';


 数秒後、結果がずらりと画面に並んだ。


(……1284件。全部今朝に入ってる。間違いない。)


 結果をCSVファイルに出力して、リストデータを作成する。


「EDIデータ、正しいものは準備できてますか?」


 返事が返ってこない。

 今朝EDIデータを取り込んだ受注課の村岡さんは顔面蒼白だった。

 そこに、三谷さんの声が聞こえた。


「確認したんですけど……今朝の取り込みで一緒に受注されていると思います」


「えっ」


 俺は再びSQLを組み直す。


 SELECT * FROM orders

 WHERE created_date > '2025-08-20 00:00:00'

 AND order_flg = ‘1’

 AND customer_cd = '00111';


 結果は2435件。──データが混在している。


「三谷さん……! ナイス!」


 混在しているデータに気づいた三谷の判断は、間違いなく致命的な手戻りを防いだ。

 俺はすぐに受注課の森下課長へと声を飛ばす。


「森下課長。このリストが、間違って受注されたデータです。」


 そう言って、さっきCSVに出力したファイルをディスプレイに表示する。


「……はい」


「一部、一年前の過去データが混在しています。

 このまま出荷に進んだら、誤出荷が発生します。倉庫は今止めている状態です。」


「……ど、どうする?」


 俺は一瞬だけ息を吸った。

 心の中では葛藤があった。

 ──本来、本番DBのDELETEは絶対にやってはいけない。

 でも今は……時間がない。今この瞬間も倉庫現場の時間は進んでいる。


(後から取消処理で対応する方法もある。

 でも、それじゃ現場も受注も二重三重に手間がかかる──混乱するだけだ。)


(今、売上計上前のデータをクリーンに戻せるこの瞬間が、唯一のチャンスだ──やるしかない。)


「本当はダメなんですが──緊急事態なので、

 一度、今日のM社の注文データ全体をシステム側で強制削除します。」


「……それって、問題には……?」


「証跡は出力済みです。ログも残します。

 あとで正式な報告は俺が責任を持って上げます。

 今はまず、現場の誤出荷を防ぐことが最優先です。」


 静かに、だがはっきりと伝えた。

 その瞬間、課長の顔に少しだけ迷いが走る──

 が、すぐに覚悟を決めたように頷いた。


「……わかりました。お願いします、真嶋さん。」


「はい。」


 俺は再びキーボードに指を乗せる。

 背後から、誰かの息を呑む音が聞こえた。


(これで失敗したら……全部俺の責任だ。でも──やるしかない。)


 DELETE FROM orders

 WHERE created_date > '2025-08-20 00:00:00'

 AND order_flg = ‘1’

 AND customer_cd = '00111';


(──行け。)


 エンターキーを叩く瞬間、まるで時間が止まったように感じた。

 だが指は、まったく震えていなかった。


 《DELETE completed: 2435 rows affected》


 画面に結果が表示される。

 ──成功した。


「削除完了です。正しいデータだけ、改めて投入しましょう。バックアップファイルからの復元作業、俺も立ち合います」


「物流に待ってもらってるんで、投入完了したらすぐ連絡しましょう。」


 俺は森下課長に向き直り、はっきりと告げた。

 その横で、三谷が小さく、安堵の息を漏らしている。


 と、そのとき。

 背後から、ユウの静かな声が聞こえた。


「……まっしー。やるじゃん」


 まるで誰にも聞こえないかのような、小さな声だった。だが、俺の耳には確かに届いていた。

まっしーの活躍で、なんとか今回のトラブルは無事に収まりました。

ここからは、物語の中に出てきた用語を少しだけ解説しておきますね。


SQLエスキューエル

→ データベースに対して「データを検索・追加・修正・削除」するための言語です。

今回まっしーが使っていた「SELECT(セレクト/選択)」や「DELETE(デリート/削除)」も、SQLの命令のひとつでした。

ちなみに、本来は注文と明細で分かれていることが多いのですが、わかりにくくなるのでそこは割愛しています笑


DELETEデリート

→ SQLで使う「データを削除する」コマンドです。

一度実行すると元に戻せないため、特に本番DBでは、しっかりと条件を絞って慎重に使う必要があります。

まっしーが入れていた order_flg や created_date などの条件は、他のデータまで誤って消してしまわないための防御策でした。


・本番DB(本番データベース)

→ 実際に会社の業務が毎日動いている「生きたデータ」が入っているデータベースのこと。

ここで間違った操作をしてしまうと、現場の業務に直接影響が出てしまいます。

なので、本番DBを直接操作する場合は、慎重な判断と証跡(記録)を残すことが求められます。

一般的には「読み取り権限」のみが付与されているケースが多く、今回のように削除や書き込み権限が与えられているのは、実はかなりレアな状況です。


・ログ(証跡)

→ 誰が・いつ・どんな操作をしたかを記録しておく仕組みです。

トラブルが起きたときや監査のときに、正しく操作が行われたか、異常がなかったかを確認するために使われます。

今回もまっしーはDELETE実行前に証跡(操作履歴)をきちんと出力してから作業に入りました。



今回はなんとか誤出荷を食い止めましたが、同じトラブルが起きないようにするのは・・・もっと難しい課題です。

次回は、そのあたりのお話もちらりと描けたら。

ぜひ、またお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ