濃師 其の四
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
いつしか芽生えた孔明への淡い気持ちは、現代との違いによって苦しむ恋になった。
「孔明、どうした?」
「玄徳様、彼の者が白龍として天に舞い上がりました」
「おお!ユウが何か成したか!」
孔明は羽扇を扇ぎながら遠い空を見た。綺麗に巻かれた書簡を劉備に手渡し、口元を緩める。
日の光に照らされる徐庶の字を拾い読み、感動に震える劉備。声も無く‥‥ただ、ただ、目頭を押さえている。
「これで濃師として、ユウ殿はその英知を諸国に知らしめましょう」
「何たる智謀‥‥澄みきった大河の源流のような英知は、孔明よ‥‥そなたと並ぶに相応しい」
「私の謀など、一時の場しのぎ。濃師の英知こそ国の繁栄そのもの」
謙虚な物言いは孔明の本心なのだろう。国の繁栄に必要なもの、それは戦術ではない。
孔明自身、長年晴耕雨読を守ってきた人なのだから、万民の繁栄の為に何が必要かは承知している。
ただ口惜しいかな、孔明が内政に従事できるような状況下ではない。本来ならば彼こそが、国家繁栄の礎になる人であるのに。
結城の存在は孔明にとって、予期せぬ出来事だった。自身も在野の将と同じく隠遁生活をしていたのだから 結城のような者が居てもおかしくは無い。
だが‥‥それが女性となると話は違う。
「ユウ殿が内政の農耕を司って下されば、先に話した通り‥‥私は軍略と内政、政治を掌握できます」
「うむ、軍事は孔明が適任であろう」
納得する劉備に孔明は強かに頭を横に振った。孔明?と聞き返す主に、私は軍略までと引き下がる。
「玄徳様に会って頂きたい方がございます」
「何‥‥それは‥‥」
「荊州争奪後、軍を指揮する者。私は勤めて政治を行い、内政と軍略に策略を授けるまで」
「な‥‥なんと!」
驚くのも無理はない。孔明が軍の総指揮を任せる器の者が居るというのだから。
「何処の者か?」
「それはまだお教えできませぬ」
思い当たる節が無いのか、劉備は瞬きを幾度もしながら涼しい顔の軍師を見つめた。
しかし、彼が教えぬと言っている以上、聞き出すことは出来ない。
「のう、孔明‥‥ユウはいつ呼び寄せるのか?」
「趙将軍の働き次第です。関将軍張将軍のお二方も城の近くに潜伏した様子」
「何?!では‥‥」
「呉軍との攻防で曹軍は焦れております。故に周都督が仕掛けるのは近々かと」
穏やかな声で語られる状況は、まるで見てきたかのように克明だ。智謀の人と謳われる軍師の恐るべき洞察力。
「孔明、一つ聞く」
「‥‥」
「そこまで先を読めるそなたが、何故に濃師に厳しく強いるのだ?」
「玄徳様にはそのようにお見えですか」
「いや、責めているのではない。そなたの事だから、考えあってのこであろう。しかし、それを解さぬ者には‥‥」
「それも直に答えが出ます故」
目を伏せて答える孔明は物憂げだ。禁忌に触れた会話はそのまま途絶えた。
「孔明も人の子か」
全てを完璧にこなせる人間など居ないのだと、劉備は孔明の消えた広間を見つめて呟いた。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




