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天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章

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天地の嘆き 其の五

三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。

いつしか芽生えた孔明への淡い気持ちは、現代との違いによって苦しむ恋になった。


(ちょう)子龍(しりゅう)将軍に申し上げます。孔明軍師様からの伝達でございます!」


天幕の外に伝令の声を聞き、趙雲(ちょううん)颯爽(さっそう)と天幕に吊るされた布を払って出た。


「どうした」

「軍師様からの伝言にて、子龍将軍には第一の包みを開くように仰せつかりました!」

「心得た。其の方、悪いが副隊長達を呼んできては貰えまいか?」

「ははっ!」


 男はさらに低く平伏すると、命令を実行するべく姿を消した。趙雲(ちょううん)は無言で天幕の中に入り、明かりとりの光で孔明に渡された赤の袋に入った書簡を開く。


『呉軍と曹軍の連絡を絶ち、戦況を報告されたし』


 短い文章の中に、孔明の絶大な信頼が覗える。彼が確実に任務をこなすであろうと考えた現われ。


 人間誰しも気の緩みというものがある。この南郡城攻略に当たって、それはあってはならないもの。

 戦場において武将に求められるものは、目の前の敵を倒すことだけではない。忍耐強く戦況を分析して、敵の連絡経路を遮断(しゃだん)する。


 この作業は地道で華やかなものではない。それだけに個々の判断で手を緩めてしまうのが常。

 しかし、心理戦や陽動(ようどう)戦において、この任務は必要不可欠な手段。それが如何に大切なのだと説いたとしても、不平無くこなす武将は一握りも居ない。


 それほどに人間の持つ不確かな部分が大きく反映する為、適任者の選抜は必定。要するに、この適任者が見つかれば、戦術は成功を約束される。


 特にこの南郡城は荊州(けいしゅう)攻略の足がかり的な要所。故に武功を急いだり、武に走る者では役不足になる。趙雲(ちょううん)抜擢(ばってき)したことで、周瑜(しゅうゆ)曹仁(そうじん)の命運は孔明が握ったも同じだった。


 抜かりなく、予想以上に成果を挙げる武将。それが趙雲(ちょううん) 子龍(しりゅう)なのだ。


子龍(しりゅう)将軍、お呼びですか?」

安国(あんこく)翼子(よくし)、軍師殿からの命が下った。300精鋭を揃え出立の準備をせよ」

「「(かしこ)まりました」」


 まだ二十歳そこそこの二人の若者は、声を揃えて天幕を出て行った。安国(あんこく)とは関羽(かんう)の次男で姓名を関興(かんこう)といい、翼子(よくし)とは張飛(ちょうひ)の長男で姓名を張苞(ちょうほう)という。

 この二人、親譲りの武勇に優れた若者で、これからの先を考えた孔明が趙雲ちょううんに付かせていた。


 趙雲(ちょううん)の細やかな一面を学ばせようという訳である。武将の采配(さいはい)雛鳥(ひなどり)と同じで、刷り込みのようなもの。

 判断や分析力だけではなく臨機応変な部分は、付いた上官の手腕にかかってくる。

 それ故に、劉軍の人材育成は信頼のある彼に任されたのだろう。


関羽(かんう)張飛(ちょうひ)が悪いわけではない。ただ、無いものを補うことこそ、育成の一番の目的。

 庇護(ひご)されぬ厳しさを体験し、相対する部分をどのように受け入れるか‥‥。


 先天的な天性の才を限りなく引き出すのは、後天的な性格と知性なのだ。親が行うのは善悪を教え込みながら子を育てる処まで。

それ以後は他者の教えで伸ばすのが好ましいと、孔明は考えていた。


 ただ、これを関羽や張飛に説明したところで気骨(きこつ)な二人は受け入れないだろう。そのため、軍事に関する適材適所という名目で二人を親元から引き離していた。


 巡る歯車は南郡城攻略という一歩を踏み出させた。


読んで下さって、ありがとうございます。

毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。

貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。

誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。



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