白龍の逃避行 其の十六
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
「‥‥君も一人の男だな」
「公瑾様」
驚く陸遜に、無理も無いと笑う。
彼らの恋愛感は至って自由。先程の結城とのやり取りの中に、陸遜の隠れた想いを感じ取っての言葉。
「あのような女性は初めてですから」
「であろうな」
周瑜は肩を揺らした。横に立つ若者が自分と同じ娘を好きになったことを喜ぶかのように。
「女性のあんな姿に心が躍った‥‥自分でも不思議に思います」
結城が一心に柚を助けようとしたことを行っているのだろう。悪びれも無く感想を述べる彼は、清々しい気さえもする。
「ユウ殿は死に物狂いで逃げねばならなくなったな」
高らかに笑う周瑜。
― よもやあの様な姿にゾクリとするなど‥‥そうですね。次は逃さないですよ。 ―
黙って微笑む彼に、新たな指針が出来た。周瑜は黙認したのだ。
もしこれが仲達の居る曹操の国ならば‥‥上官の想い人に横恋慕などありえないだろう。
また孔明の居る劉備の陣営であったとしても‥‥個人の意見をある程度は尊重してくれるだろう。
そもそも、恋愛という観念が彼らの世界には薄い。本来ならば結婚は契約であり、出世や同盟、褒美としてある物なのだ。
その中でも自由な恋愛ができる程の治世でもなかったし、世の中の仕組みが現代とは異なる。
結城が男子として生きることを選んだ代償と報酬は紙一重だった。男子として生きれば、暴かれた時には有無も言わさず嫁がされるだろう。
しかし、運良く逃れれば、運命的に出会う者の元へ嫁げるだろうと。
水鏡の示唆した言葉の裏には、様々な意味が含まれていた。
「厄介な奴に惚れられたな」
「孫姫様‥‥」
「公瑾ならばユウも幸せだったろう」
「彼は違うのですか?」
彼らを遠巻きに見ていた孫姫の発言に小喬が返す。愁う瞳を向ける彼女には判らない。
「伯言の与える愛情は、破滅と同一線の幸福だ」
「小喬、彼は火でありながら水や風を好まれる方なのよ」
「なんて危険な‥‥」
女性は本能で悟る。
想いを寄せる者が、自身と同一かそうでないかを。陸遜の恋愛は、彼の戦に対する姿勢と同様。
己が業火であれば、それを消すことができる水の者か、さらに大火へと煽る風の者に半身を見出す。
正反対でありながら作用しあう関係。
それを求められる女性は堪ったものではない。三人は結城の事を考え、重い溜息を吐いた。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




