謀略の胎動 其の十一
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
― むむ・・・・・・やはり一筋縄ではいかぬか・・・・・ ―
黄蓋は遠くに見える曹軍の篝火を見て溜息を吐いた。周瑜に鞭打たれた背中の傷が引き攣るように痛みを増す。
くたびれた衣の埃を払って傍にあった樽から水を掬う。
― 黄蓋殿、曹操は用心深い男です。此方の出方は術中八苦知られておりましょう。 ―
ふと、水面に涼やかな孔明の顔が浮んだ。黄蓋が臥せっている房へ足を運んだのは、闞沢だけではなかった。
看病がしたいと、結城が訪れた時に孔明も彼を訪ねていた。暗い房の中で交わされた会話。
希望的な言葉ではなく断言されたのだが、今となっては孔明の言うままに事が運んでその鬼才に慄いた。
「あれでは浅瀬に浮いた小船だな」
赤壁近くの林、烏林から米粒のように見える黄蓋の船を見て蔡中は嘲笑った。
曹操に面通りも許されず、下級武将の待遇を受けた彼は黄蓋に対して良い感情を抱いてはいなかった。
黄蓋は曹操に取り次いでもらうための生餌だったのだ。自分の安全が確保された今、彼のことなどどうでもよいと。
その軽率な考え方が曹操に疎まれる要因なのだが、本人は気付く様子もない。高慢な者ほどめでたく出来ているのは世の常なのだろう。
「あれから二‥‥‥儂を迎え入れる気は無いの‥‥‥」
目前の曹軍の大軍を恨めしそうに見やりながら、黄蓋は軋む体を起した。見れば、何か景色が変わった気もする。
「‥‥あの鎖のような物‥‥‥?」
視線の先には 船と船が鎖で繋がれている。百万の水軍が鎖を横渡しに繋ぎあい、大地のように連なった風景は圧巻そのもの。
しばらく様子を窺っていると、曹軍の方から小船が近づいてくる。
黄蓋の乗った船に乗り付けると、小さな子供が革袋と樽を入れ替えて去っていった。
樽には水が、革袋には食べ物が入っている。
「兵糧攻めと言う訳ではなさそう‥‥‥」
中の食料を吟味して、最小限の補給を考える。曹操の考えがわからない以上、無闇に食べるわけにはいかない。
この次の補給が、いつ来るかも判らぬのだから。
気持は逸るものの、約束された条件が揃わぬ今は堪えるしかない黄蓋であった。
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ゴールデンウイークを含む4/29~5/6は2話ずつ更新していきます。




