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天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章

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謀略の胎動 其の八

三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。


「ユウ殿・・・・」

公瑾(こうきん)殿!」


 結城は体を硬直(こうちょく)させて窓辺に後退(あとじさ)った。その姿を見て周瑜は肩を揺らす。


「そんなに(おび)えなくとも良い。それよりも、今日の軍議・・・・そなたは出られるか?」


 仔栗鼠(こりす)のように怯える姿が愛らしいのか、周瑜は結城の(たもと)を手に取り、それに口付けた。

 そのまま何事も無かったように立ち去る。


「もし出られるならば孔明殿に言うが良い」


パタン。


 ドアの閉まる音に気が抜けて座り込む。未だ馴染(なじ)めない周瑜の男性的な立ち振舞い。本来女性であるのに、女人としての扱われ方に慣れないなど、なんと皮肉なことか。

 しかし、今の自分があるのは、少年として生きる覚悟をしたから成り立っている。今更、撤回などとはできない。


「何故、怖がってしまうのかな・・・・・」

「ほんと、勿体無(もったいな)い話ですよねぇ~」

「えっ?」


 結城は慌てて辺りを見回した。孔明と待ち合わせた場所には人影も無い。だが、声はハッキリと聞こえた、そう・・・・外から。結城は窓から下を覗く。


「誰もいない・・・・気のせい?」

「いえいえ、幻聴(げんちょう)じゃありませんよユウ殿」

「なっ、伯言(はくげん)殿!!」


 声がしたのは上からだった。見上げた結城の視界に伯言の衣が揺れている。上の階の欄干(らんかん)に足をかけて逆さに吊り下がっていたのだろう。

 少し赤らんだ顔がクスリと笑った。


「な・・・何してるんですか!落ちたら!!」

「じゃぁ、しっかり支えて下さいね」

「えっ・・・・わっ!」


 勢いをつけて、窓から結城目掛けて飛び込んできた陸遜ともつれ合うようにして倒れた。下敷きになった結城は眩暈(めまい)をおこして呆然とする。


「いやはや、少し助走を付けすぎたかな」

「・・・・・・いた・・・た・・・・」

「うん、でも着地点は成功、成功。ふかふかですもんね。」

「え・・・・・・は・・・伯言殿!」


 結城は真っ赤になって怒った。見れば陸遜が胸に顔を付けて笑っている。


 サラシを巻いた上に着物を着込んでいるのだから、胸の弾力など感じないだろうが気が気ではない。退いてと、叫んでは顔を赤らめる。


「あらら、可愛いですね」

「早く退いて下さい!」

「そうですね、孔明殿が来たら誤解しちゃいますよね。どんな風に見えるんだろう?」


 楽しんでいる陸遜は、中々結城の上から退こうとしない。


「何をしているのですか?」

「えっ・・・・」

「あ、来ちゃいました?」

「こ・・・・孔明様!・・・・・伯言殿、退いてっ・・・・退いて下さい!」


 涙目になって訴える結城の傍により陸遜に視線を走らせる。


「伯言殿、()子敬(しけい)殿が探されてましたが?」

「えっ・・・・すみません、わざわざ」


 スッと、結城から退くと孔明に一礼する。出て行った戸口を見つめ、孔明は羽扇で口元を覆いながら声をかけた。


(つぶ)れてなさそうで安心しましたよ」

「・・・・・・孔明様・・・・」


背を向いた孔明の肩が揺れている。笑われていると思った結城は、唇を噛んで涙を堪えた。


「酷いです!潰れたら孔明様のお供もできないのに」


 俯いて自分の背に(もた)れる結城の温かさを感じ、孔明は振り返って結城をそっと抱きしめた。


「貴方は隙が多すぎるのです。ここは呉、もう少し気を休める場所を選びなさい」

「・・・・・・はい」

「公瑾殿が参謀を集めて軍議を開くようです。貴方も参りますか?」

「・・・・良いのですか?」


 躊躇(ためら)いがちの言葉に、着いていらっしゃいと返して部屋から出て行く。その後姿を追いながら、何故こんなにも先ほどのことを悔やむのか判らなかった。

 確かに陸遜の悪戯は度が過ぎている。


 しかし、苛立ちよりも後悔の方が大きい。自分が汚されてしまったような、嫌な感覚なのだ。晴れない気持のまま、結城は孔明を追って廊下を進んだ。


読んで下さって、ありがとうございます。

毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。

貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。

誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。


ゴールデンウイークを含む4/28~5/6は2話ずつ更新していきます。

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