謀略の胎動 其の五
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
「孔明様、何か・・・・音が聞こえます」
「もう少し寝ていなさい。ユウ殿の体はあまり休まっていなかったのですから」
「でも・・・・」
それでも身を起こそうとする結城の腕を押さえて留めると、孔明は自分が身を起こした。真直で彼の息を感じ、薄暗い中で赤面する。
今が夜明け前で良かったと切実に思う結城だった。
しかし、その間もギィ・・・・ギィ・・・・・と板が擦れるような音が遠くで聞こえる。孔明は房の入り口を見つめて目を細め、結城に視線を移した。
「よく気が付きましたね」
「では、彼らが!」
「静かに・・・・心にあることを全て口にせずとも、時は移り変わって行くのですから・・・・」
孔明の声は心地よい響きを持って、結城の耳に届いた。何かを熟考して事にあたるのは軍師として必要不可欠だろう。
しかしここには孔明と結城の2人しかいないのだから、言葉を遮る必要性がないのではないかと疑問に思う。
だが、今の時代を考えれば孔明の言わんとする事は理解できた。
全てが”壁に耳あり障子に目あり”という事に。
「・・・・・孔明様」
「徐々に覚えていけばよい事なのです。須らく、成し得ようとすれば己を見失ってしまいます」
「私には隔たりがありすぎて・・・・・」
「良いではありませんか、それが判っただけでも」
「あ・・・・・一知半解・・・・」
そうですと、孔明の声が和らいだ。
「悲観するのではなく、違いがあるのだとすれば、それを糧に幅を広げることです」
「はば・・・・」
「貴方は恵まれた国に居た。両極端を知るのであれば、先日のような知恵も出てきます」
「前向きに考えたから、知恵がでたと・・・・?」
「萎縮は思考を中断させて心を病ませてしまいますから」
仲達と孔明が言うことは同じなのだろう。珍しく朴の中で孔明は多くを語った。
今はもう音のしなくなった方角を見つめて。かすかな香のかおりが鼻をくすぐる。
香は調合によって違う匂いを漂わせるが、孔明の香は落ち着いた安堵感を与えるような印象を与える。
陣営の中にありながらも緊張感を忘れて、何処か静かな森林の中で茶の湯を興じているような清々しさ。
「なんだか・・・・落ち着きます・・・・・・」
「ユウ殿・・・・・・」
安心しきって孔明の胸に身を任せる結城を引き寄せて、孔明は髪に顔を近づけた。赤子のような甘い匂いのする結城に、自分の香を擦り込むかのように頬を寄せる。
既に夢の中に誘われたのか、結城は安らかな寝息をたてて幸せそうに微笑んだ。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




