謀略の胎動 其の四
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
結城は部屋に篭って泣いていた。今まで築きあげてきたものが、音を立てて崩れていく。声にならない嗚咽が、その苦しさを物語っている。
「ユウ殿、話があります。」
部屋の扉の前で、孔明が羽扇を片手に静かに語りかけた。
その声に息を飲むが、部屋に無理に入って来ようとしない気遣いに、ひたすら申し訳ないと心は傷ついていく。
「・・・・・・・・ユウ殿?」
「・・・・・・・・」
孔明は羽扇を口に宛がって、しばらく考えていたかと思うと、そよ風のように部屋に入って寝室で泣いているであろう結城に囁いた。
その全てを言い終えてしまうと、何事も無かったように部屋を後にした。結城と言えば、孔明の言葉に暫し呆然として、口をぽかんと開けたままだ。
先ほどの一幕を”見事な策略”と褒め称えた孔明。
「うそ・・・・・・・そんな筈ない」
朴の上で狐に抓まれたまま座り込む。ゆっくりと言われた言葉を咀嚼して、自分に言い聞かせた。
何よりも部屋から出て行く孔明は笑っていたのだ。だが言われた言葉を信じれば、今の気持は軽くなる。
「早く孔明様の所に行かなくては・・・・・」
泣きはらした顔をどうにかするため、水盤に水を注いで顔を洗う。
紅や白粉が落ち、化粧臭さが一気に流れて行く。
結っていた髪留めの結びを解き、髪を下ろすと櫛で梳きながら後ろに束ねる。部屋に置いてあった替えの服を探し出し手にするが、落ち着かない表情で周囲を見渡すとそれを抱えたまま廊下に走り出た。
「孔明様・・・・・・」
「お入りなさい」
部屋に招きいれた孔明は、結城の格好を見て微笑む。自分の言った事で、余程慌てたのだろうと想像がつく。
「ここでは廊下を行く人に見られましょう。私の朴で着替えてらっしゃい」
「すみません」
「細かい事は気にしなくて良いのです。貴方は私に着いてくれば良い」
「・・・・・・はい」
素直に返事が出来るのは、孔明だからだろう。他人が入る事など許されない朴は 数回共寝をした場所。
結城は孫姫から着飾られた衣服を脱ぐと、男子の衣装に着替えた。頭巾も忘れずに付けて、麗しい髪を隠してしまう。
女である事を忘れなければ、この乱世は生きてゆけぬのだと言い聞かせながら。
「ユウ殿、これからは此方で休むと良いでしょう」
「孔明様は?」
「勿論一緒です。嫌ですか」
着替え終わって朴から出た結城に、面と向かって問う孔明は優しい笑みを浮かべている。今までも孔明とは添い寝をしたことはあるが、今日は不自然なほど意識してしまう。
「では、床に致しましょうか?」
意地悪く切り返してきた孔明に、とんでもないと承諾する。では、改めて今宵は共に語り合いましょうと共寝を宣言された。
「あの衣は私が孫姫に返しておきます」
「・・・・・お願いします」
羽扇を持ち、廊下を歩いて行く孔明の後姿を見ながら結城は安堵の溜息をついた。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




