謀略の胎動 其の三
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
―― や・・・・いや!こんな姿を見られるなんて!!孔明様に気付かれてしまう! ――
結城は涙目になって孫姫に抗った。加速する感情は抑えきれないのか、孫姫の歩幅は大股になっている。
バシィ―――――ン!
丁度、結城が扉の前に立った時、それは聞こえてきた。
―― 何?何の音なの・・・・・ ――
何かを打ち据えるような音が貴賓室の扉の向こうから聞こえてくる。言い知れぬ不安に結城の体が動かなくなった。
「!!」
孫姫は結城の頭に白い布をかけると、そのまま扉を開け放ち中に進んだ。視界を遮られた結城は震えながら姿を隠してくれる布にすがり付く。
「孫姫・・・・・」
貴賓室の入り口に佇む孫姫を見つけ、徐庶は結城の姿を探した。しかし 妹姫が姿を隠して居るだけで、結城の姿は無い。
「周瑜・・・・随分と狂気に満ちた顔をして・・・・どうした?」
「・・・・・拙者は本心を申したまで!」
「まだ言うかっ!」
バシ――ン!!
バシ――――ンッ!
血だらけになりながらも、黄蓋は膝を立て周瑜を見据える。その風景に溜息を吐きつつ、孫姫は結城の耳元で、そなた・・・どうする?と囁いた後、布を取った。
「!!!」
結城が見たもの。
それは血溜まりに跪いて、周瑜から鞭打たれる黄蓋の姿。振り下ろされる鞭が肉を裂いて鮮血を滴らせる。
「キャァァァァァァッ――――!!」
叫んだと同時に結城は我を忘れて黄蓋の元に走った。血まみれの老人を抱きしめて、周瑜に向き直ると身を呈して止める。
「周瑜様、お止め下さい!」
「な・・・・そなた・・・・・・」
「大切な家臣を一時の迷いで手にかけるつもりですか!」
周瑜は鞭を持った手を振り上げたまま動かなくなった。いや、動けなかったのだ。
目の前の麗人に心を奪われて。二喬は世に名高い美女。しかし、その彼女達よりも美しい天女が目の前に舞い降りた。
貴賓室に揃った武将達は呆気に取られて結城に魅入った。
「やめて・・・・・黄蓋様をこれ以上、鞭打たないで下さい。どうしても、と言うのなら・・・・」
「何を言う・・・・・私が貴女を打てる筈も無いだろう」
結城の体は恐怖で震えていたが、黄蓋を庇うようにして周瑜と向き合っている。
華やかな髪飾りが揺れ、真っ直ぐ見据えるつぶらな瞳が今にも泣き出しそうに潤み、サクランボのような唇がきつく閉ざされている。色白でたおやかな体が怯える様は、正に天上人。
「・・・・・・ユウ殿・・・・か?」
「黄蓋殿・・・・大丈夫ですか!」
「そなた・・・こ・・・・声が・・・戻ったか・・・・・良かった」
「あっ・・・・」
結城は蹲る黄蓋の体を支えながらハッとした。声が出ているのだ。口に手を当てて、我に返る結城。
周囲に気がつけば、皆自分を見ているではないか!結城は恐る恐る徐庶の居る方を見た。徐庶はあまりの結城の変貌に、呆気に取られ視線が合った瞬間に俯いてしまった。大きな衝撃が結城を包み込む。
―― だめ・・・・ ――
視線がその先へ進まない。そう、その先に居るであろう孔明を。
「もう・・・・ここには・・・・・・・・居れません。」
「!!何を言うかっ・・・・貴女は大切な・・・・・・」
「男の私がこのような格好!私には抗えなかった・・・・」
涙をためて周瑜に抗議する結城。呉の重臣は結城が女子であることは承知している。そして今、彼女が発している言葉の意味も。
―― 知られたくなかった! ――
偽りは大罪。だから結城は男子であろうと努力した。それを孫姫に暴かれ、こうして全員の前で晒し者にされたのだ。
孔明にいつか話す日が来るだろう・・・・そう思っていた。それまでにどう謝罪するか・・・・だからこそ、必死に隠し通していたのだが。
しかし、結城の心にはもう一つ違った感情も生まれていた。
―― 孔明様・・・・・・ ――
堪え切れず、涙を流し顔を隠しながら広間を飛び出す結城。道行く者達が、結城の姿に振り返る。
「私は柚の事をとやかく言える人間じゃなかったのよ・・・・」
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




