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天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章

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謀略の明暗 其の九

三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。


―― 辛いな・・・・徐庶様に気を使わせてしまってる・・・ ――


 外廊下を歩きながら結城は、徐庶の背中を見て痛む胸を押えた。別にそうすることで(やわ)らぐものでもない。だが、落ち着くのだ。


「如何された?」

「・・・・・」



 これから何処へいらっしゃるのですか?と目で訴える。それを解したのか、深く頷くと呆気(あっけ)ない答えを返す。


「私一人で歩けば余計な詮索(せんさく)を生むので、人望厚いユウ殿の力をお借りしているのです」


 それではまるで虎の()を借る・・・何とやら・・・・・ではないかと。しかし結城も伊達(だて)に孔明の(そば)に居たのでは無い。それが建前なのだと気がつく。


―― 今は、徐庶様に(したが)おう・・・・ ――


 そうするしか今の自分は役に立てない。

日中を徐庶と過ごしていれば、周瑜(しゅうゆ)から突拍子(とっぴょうし)もない誘いを受けることも無くなる。

 何も出来ない非力(ひりき)さに唇を噛み締めたが、その反面(はんめん)徐庶という心強い味方が傍に居る安心感もあった。


―― 複雑・・・・甘えてしまいそうで・・・・自分が怖い ――


 昨夜の自分は孔明の腕の中で、安心しきって眠っていた。恥ずかしい事だったが久々だったのだ。


―― あんなに落ち着いて眠れるなんて・・・・男の人と一緒だったのに・・・・ ――


 渡り廊下の下を流れる清流を見て立ち止る。視線だけをよこす徐庶の計らいは優しい。


「ユウ殿・・・・斯様な所まで出歩かれるとは、体の加減は良いのですかな?」

「これはこれは、子敬(しけい)殿・・・・」

「おお、元直(げんちょく)殿・・・・貴方が一緒ということは・・・・」


 それきり諸葛(しょかつ)(きん)の口は閉ざされた。今此処で質問しても意味が無いからだろう。やり取りが判っているからこそ、結城も彼から視線を離した。


「・・・・・?」

「あのお方は(そん)君主様の妹君であらせられます。」


―― あの(やり)を持った女官を従えているのが? ――


 華美(かび)な姫君を思い浮かべていた結城は、武具に身を固めた勇ましい姫を見て唖然(あぜん)とした。

 視線を感じ取ったのか、姫はチラリと結城を見る。

 横に居るのは呂蒙(りょもう)黄蓋(こうがい)そして太史慈(たいしじ)だ。呂蒙(りょもう)が耳元で(しゃべ)り終わると、姫は結城の方へ歩いてきた。

 その後を女官10名が着いて来る。


―― うそ・・・・声が出ないのに・・・・どうしよう! ――


「貴方が(しゅう)公瑾(こうきん)の難題に立ち向かったユウ殿か?」


 結城は返答の変わりに深く頭を下げた。それを見て姫は結城の肩を掴むと上を向かせる。

 じっと見つめられ、視線を()らす事も出来ない。


彼者達(かのものたち)が好むのも無理は無いな・・・・私とて傍に置きたくなる」

「!!!」

「声が・・・・出ぬのであろう?」

「恐れ入ります・・・姫君」


 傍で見ていた徐庶が穏やかな声で答えた。その声で徐庶の存在に初めて気がついたかのような反応を示し、姫は頬を赤らめて結城を放した。


「貴方は?」

(じょ)元直(げんちょく)と申します。(りゅう)玄徳(げんとく)様の配下にございまする」

「そうか・・・・私のことは(そん)で良い。兄、孫君主の妹だ。」


 笑顔で自己紹介する姫は、少し(ひか)えめな物言いになっていた。

 孫姫でございますか・・・・と頷きながら徐庶も微笑み返す。社交辞令だが、どことなく穏やかな徐庶と気さくな孫姫のやり取りは温かみがある。


「元直殿、しばらくユウ殿をお借りできないか?」

「・・・・なんと・・・・」

「あ・・・・いや、心配ならば貴方も来られるか?」


 驚いた徐庶だったが、それではお言葉に甘えてと孫姫の誘いに乗ることにした。

 結城は自分に興味を持つ目の前の姫を見たまま固まっている。

呂蒙(りょもう)黄蓋(こうがい)と見合わせ微笑む。陸遜(りくそん)が提案した宴にはならないが、少しの間は結城の気が晴れるだろうと。


 ところが、それは思わぬ方向にコマを進ませる事となった。



読んで下さって、ありがとうございます。

毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。

貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。

誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。

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