謀略の明暗 其の八
三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。
翌朝、孔明の客間に徐庶が訪れた。
早朝だったため朝の身支度をしている間、侍女が茶と食事を運ぶ。孔明が卓についた時には、全ての用意が終っていた。
「良く気がつく者ですな・・・・」
「公瑾殿付きの侍女のようです。気配りが良く出来ているので助かります。」
どうしました、と視線で話すと徐庶は思いつめたように切り出した。
「孔明、君は今回の戦に手立ては考えているのか?」
「戦況は難しい・・・・と?」
孔明は侍女が聞いているにも関わらず、平然と言ってのけた。どうせ周瑜の放った”草”や”作”と言われる間者が忍んでいると諦めているのか。
しかしながら、何時敵になるかわからない呉で戦況は難しい、そう言ってのける二人はやはり豪胆なのだろう。
智謀や謀略を練る軍師、その秘められた心のあり方は深いものがあった。
「元直殿、心配なさるな。ユウ殿も直に良くなろう」
「そんなに簡単にゆくのか・・・・・ここは一旦ユウ殿を劉備様の元に・・・・」
「何処へ行こうとも同じ。ならば、休まる場所で過ごした方が良いのです。そうは思いませぬか元直殿」
「・・・・・・・」
徐庶は二の句も継げなかった。
傍から見たら、何たる高慢な自惚れだろうと言う人が居るかもしれない。しかし、徐庶が黙ったのはそれが真実だったからだった。
仲達から離れた後、劉備の元に身を寄せるきっかけを作ったのは孔明本人なのだ。
出会いの始まりでお互いが意識した。
それは単なる恋などという言葉で片付けられるほど単純なものではない。何かが引き合うような感覚に、孔明も結城は拠所という形で心を見ている。
それだけではない。
周瑜と仲達の駆け引きや謀略を見抜き、智で対処する。それが出来るのは孔明しかいない。
今のこの現状・・・・・赤壁の戦いすらも、終止符を打てるのは自分しか居ないのだと言い切っている。その上で、自分の傍は安全であると。
徐庶が黙ったのも、それを解したからだった。
「どのような打開策があるのか聞いてみたいが、君は涼しい顔をするだけなのだろうな」
「私だけが動くわけではないのです。補助・・・・のようなもの」
「今回は主立って動かぬというのか‥‥」
「今は公瑾殿が動くと明言しておられる故に、私は後方支援・・・・」
軍略に後方支援などあるのかと言いたい所だが、徐庶はそれで納得がいったようだった。しばらく黙っていた孔明は羽扇を扇いで微笑んだ。
「元直、貴方が心配するのも無理は無い。だとすればその気持ちに甘えさせて貰いましょうか?」
「・・・・・甘える・・・・か」
「日中、ユウ殿を連れ歩いて欲しいのです。見知った貴方と一緒ならば気分も紛れましょう」
「ユウ殿を?」
「貴方が思うように、私と居れば軍議を見ることになる」
「成る程」
そこまで話して、孔明が結城を遠ざけたい理由が判った。ただ軍議を見せたく無い というだけではない。
城外への外出も許されないだろう今、結城を連れ歩くと言う事がどういうことか。
―― 我同朋は、抜け目無いというか流石というか ――
「もう直ぐユウ殿も起きてくるでしょう・・・・それまで食事でも」
その言葉に徐庶は耳を疑った。孔明は何と言ったのか?
確か、起きてくると。
その時だった。
カタン・・・・
小さな音を立てて来るはずの無い人物が、孔明の房から顔を出した。当の結城も徐庶が居る事に驚いたのか、目を瞬かせて後退った。
「こ・・・・・こ・・・う・・・・・」
「公瑾殿は男色の好みもあるようで、しきりにユウ殿を渡せと・・・・強行に及ばれては彼の名誉に関わる事なので、私の朴で過ごして頂きました」
声を失った結城を周瑜がどう受け止めるか・・・・それは徐庶も心配している事だったが。孔明は明らかに結城が女子であることを知っている。
そして軍略とは別の感情が動いている、そう徐庶は受け止めた。
今は孔明から出された課題を行う方が先決。それは徐庶にしか成し得ないことなのだから・・・・・・。
読んで下さって、ありがとうございます。
毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。
貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。
誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。




