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天涯地神伝  作者: 真白 歩宙
結城の章

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33/147

謀略の明暗 其の五

三国志の史実と演義の登場人物が出てくる中で、あらゆる策謀が渦巻く中、彼らとどう対峙していくか。

 結城は無気力に空を見上げた。まだ若葉の色を纏っている紅葉が日差しを受けて揺れている。その優しい緑が揺れるたび、恐怖を知らなかった頃に戻っていく気がしてはらはらと泣いた。


 その姿を遠目から見て諸葛(しょかつ)(きん)は孔明を見た。孔明はただ静かに結城を見ている。

 その瞳に何を想って結城を映し考えているのか。同じ血を分けた兄弟であったが、諸葛瑾は計り知れない弟の心中に深く・・・深く溜息をついた。


「ユウ殿、大喬様が宴を開かれる様ですが如何ですか?」


 堪り兼ねたように陸遜(りくそん)魯粛(ろしゅく)が結城に勧めた。声は聞こえているのだろう、しかし結城は黙ったまま柱に寄り掛かって外を見ている。

 精神的な打撃が、何かを失わせていた。


「ユウ殿、拙者(せっしゃ)もお勧めする。思いに(ふけ)れば心が重くなる。」

「・・・・・」


 結城は優しい老将の声に振り向いた。そこには威厳(いげん)と風格のある黄蓋の姿。

 先ほどの件から、結城は黄蓋の傍を離れようとしなかった。

 もっと簡略的に言えば、彼よりも若い者が近づくと怯える・・・・死の恐怖は()げ替えられてしまっていた。


それでも皆、自身を心配している事に変わりなく、結城はようやく口を開こうとした。

ごめんなさい。折角ですが・・・・ と。


「・・・・・・!」

「ユウ殿、どうなされた?」


 口元を(おお)い震える結城の顔は真っ青だった。まるで言葉を、声を発する方法を忘れたかのように頭の中は真っ白なのだ。

 二重のショックが結城を襲う。


「今日はいろいろな事が起こって整理するにも時間が必要でしょう」

「孔明殿、それではあまりにも・・・・」

「何が起ころうと勉強すると言ったのはこの者なのです」

「しかし・・・・」

「起こりうる現象を受け止めるのは本人。逃げも隠れも出来ないのです」


  現実から目を逸らさない言葉は深く重い。全員判っていた事だったが、結城は(はかな)く健気だ。

  そんな彼女に感情移入しても仕方の無い事。一種の擬似的な恋や同情という幻惑。

 孔明は、(しょう)ならば感情を(あらわ)に動揺してはならないと(いさ)めていた。


 彼の言葉は少なからずとも結城を正気にさせた。笑顔を作りお辞儀をする。その仕草で陸遜や魯粛は宴を諦め、部屋を出て行く。

 元々は結城の気分転換に(もよお)そうと考えたもの。主賓(しゅひん)が居なければ意味を成さない。黄蓋は深く礼をすると部屋を出て行った。

 諸葛瑾は孔明に何かを言おうとしたが、先の反応を読み取ってか・・・無言で出て行った。

 二人きりになった部屋に孔明の声が響く。


「何故・・・単独で行動など・・・・」


 責める口調でも悲しむ口調でも無い。結城の行動を読み取れなかった自身へ苛立(いらだ)っているような声。視線が結城を動けなくさせた。


「貴方が無事で・・・・」

「・・・・っ・・・・・・・」


 男性への恐怖心と戦いながら、結城は孔明の傍に歩む。

 この人には心配をかけたくない、その気持ちが強くて。それを伝える術が、今の結城には無かった。


 勇気を振り絞って(たもと)を掴み、自身の頭を横に振る。


― 心配かけてごめんなさい ―


 精一杯の気持ち。声を発することなく何かを伝えようとする口。


「ユウ・・・声を・・・・・」

「・・・・っ・・・・・・」


 孔明は結城を抱きしめた。自身も恐怖の対象であることを解していたが、気持ちを抑えることはできなかった。

 せめて自分の温もりで癒してやりたいと、衝動的な何かが行動を促す。


「ユウ・・・・・貴方に戦場は見せません。安心なさい・・・・・」


 震える体は緊張を解いていく。


 その夜、孔明は徐庶に使いを出した。


読んで下さって、ありがとうございます。

毎日、一話ずつ投稿できたらと思います。

貴重なお時間を使って頂き、心から感謝します。

誤字脱字に関しては、優しく教えて頂けましたら幸いです。

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